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利休にたずねよ (PHP文芸文庫)
905円
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山本兼一さんの直木賞受賞作。
秀吉らに認められ、天下一の茶頭へと昇りつめながらも、その鋭さ、隙のなさ、傲慢とも受け取られるほどに己の美学を貫き通すその姿勢ゆえに、秀吉に疎まれ、切腹を命ぜられた茶聖千利休。
この作品は、その利休切腹の日から時間を遡りながら、利休の人生を回顧していくという面白い構成になっています。
ただ枯れただけではなく、侘びた佇まいの中に命の艶やかさが秘められた利休の茶の湯はどのようにして生まれたのか。
章ごとに利休屋敷、聚楽第、大徳寺、待庵、堺などと席を替え、利休と、秀吉をはじめ利休とかかわりの深い人々が主人となり、客となり、利休の美学の源泉に迫っていく。
茶の湯の話ですが、物語の各章もまた茶の湯の席のような仕立てで、気が付けば、まるで茶を一服いただくかのように読んでいるという何とも新鮮で不思議な感覚でした。
利休の茶の湯の形式美を文章の形式において体現したかのような演出。これもひとつの”興”なのでしょうね。
時間の流れを遡って書くということも、かなり難しい作業かと思いますが、読了してみると、なるほど、もしこの物語を素直に時系列に書いていたら、凡庸なものになるか、物語自体、成り立たないのではないかと思わせる結末。
利休にも魅了されますが、小説家の仕事、匠の技にも魅了される作品です。