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孤高の人(上)
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昭和初期、登山がまだ今のように誰でも楽しめる一般的な娯楽ではなく、ガイドを雇い、パーティーを組んで挑むのが常識と考えられ、一部の裕福な人々の娯楽でしかなかった時代に、ごく普通の社会人でありながら、単独行で数々の登攀記録を残した加藤文太郎の半生を描いた小説。
加藤文太郎は、神戸の須磨に住まい、六甲山をホームグラウンドに、登山の基礎技術と体力を磨いたそうですが、”速足の文太郎”と言われるほど歩くのが速く、早朝に自宅を出発し、須磨から宝塚まで六甲山全山を縦走し、さらに宝塚から自宅まで歩いてその日のうちに帰ったというエピソードも残されています。
北アルプスなどでの数々の偉業にも驚きますが、個人的には、この六甲山全山縦走の話の方が、実感を持てるだけに、より衝撃的で、この話を聞いたことがこの作品を読むきっかけになりました。
凄い人です。ストイックです。
ただ、目指すものが違い過ぎて、共感できるところ、憧れるところはあまりありません。
この小説を読むと、単独行か、グループ行かということを考えずにはいられません。
自分にはあまり当てはまらないところではありますが、極限の状態に追い込まれたり、追い込まれるリスクが高い場合のことを考えると、山で起こるひとつひとつの事象ごとに、どっちがいい悪いという議論はあるもので、簡単に結論を出せるものではないなと改めて思います。
あと、時節柄、印象的だったのは、加藤文太郎は会社の有給休暇を最大限に活用して山行を重ねる一方で、異例の抜擢で技師になるなど仕事においても努力を怠らなかったということ。
働き方改革が叫ばれる今日この頃ですが、加藤文太郎のメリハリの効いた生き方は手本にしたいですね。
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孤高の人(下) (新潮文庫)
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