等伯と琳派 | Archive Redo Blog

Archive Redo Blog

DBエンジニアのあれこれ備忘録



京都国立博物館 に特別展覧会「琳派誕生400年記念 琳派 京(みやこ)を彩る」を観に行ってきました。

が、着いてみると、入場まで120分待ちとのことだったので、この日、もう一つ行ってみようと思っていた智積院に先に行くことにしました。

京都国立博物館のすぐ近くにある智積院

真言宗智山派の総本山ということですが、観光名所としてはそれほどメジャーではないかもしれません。

しかし、この智積院は元々秀吉が幼くして亡くなった愛児鶴松を弔うために建てた祥雲禅寺というお寺で、建立当時、障壁画を手掛けたのが長谷川等伯一派ということで、歴史的には興味深いお寺です。




祥雲禅寺の障壁画のうち、智積院に現存するものは、収蔵庫で観ることができます。

当然、写真撮影はNGですが、講堂に(安っぽい感じではありますが)当時の鮮やかな色彩を復元した襖絵がありました。

こちらは「桜図」...のレプリカ。

等伯の息子、久蔵の作。

金箔をふんだんに使った背景にのびやかに枝を伸ばす桜の大木。

実物をよく見ると、桜の花びらが油絵のように盛り上がっているのですが、これは胡粉を塗り重ねて立体的に浮かび上がるようにする技法なのだとか。




そしてこちらは「楓図」...のレプリカ。

等伯の作で、一説では久蔵が「桜図」を描いて間もなく急逝した後、その哀しみを乗り越えて描いた絵とも言われています。

「桜図」よりもさらに大胆で力強い印象を感じますが、一枚一枚の葉や、根元に広がる秋の草花などは繊細に描かれており、生命の逞しさと可憐さが全体の調和の中で生き生きと表現されています。

「桜図」と「楓図」。

画題からして対になるこの2つの絵は、等伯、久蔵親子の一度きりの競演と言われているようですが、「おまえが桜を描くのなら、わしは楓といこうではないか。」と等伯、久蔵親子が互いに絵師として認め合い、切磋琢磨している様子が目に浮かびます。




あと、書院を飾るこちらの絵は「松に立葵図」。

違い棚なども含め、一面に絵が配されているところも興味深いですが、この絵にはもうひとつ面白い逸話も。

元々、秀吉の愛児鶴松を弔うために描かれたということで、秀吉が好んだ松をモチーフとした絵が多いのですが、この絵は松の下に描かれているのは徳川の家紋である葵です。

そのため、秀吉の時代には松が立葵に覆いかぶさるように枝葉を伸ばす様子から、「豊臣が徳川を抑えている」という解釈をされることもあったそうです。

で、そのままの解釈でいくならば、徳川の時代になって、方広寺の鐘銘と同じように難癖をつけられそうなものですが、逆に立葵が松の枝葉を突き破るようにまっすぐに伸びる様子から、「徳川が豊臣を凌駕する」というふうに解釈され、そのまま残されたのだとか。

それが事実かどうかはわかりませんが、秀吉ゆかりの絵とはいえ、捨てるには忍びない魅力がこれらの絵にはあったのでしょう。




講堂からは「利休好みの庭」と言われる名勝庭園を観ることができます。

丸い刈込からも察することができますが、5月下旬から6月下旬にかけてのサツキの頃が華やかなようです。

講堂では最近奉納された襖絵も観ることができます。

田渕俊夫画伯によって描かれた「日本の春夏秋冬」をテーマとした墨絵は、等伯らの時代のものとはまた違い、美的感覚的にも技術的にも新時代の襖絵といった感じで、これもまた見ごたえのある素晴らしい絵でした。




さて、改めて琳派です。

1時間ほどして戻ってくると60分待ちになっており、実際に並んでみると30分ほどで入ることができました。

(掲示されている待ち時間というのもあてにならないものですね...)


本阿弥光悦と俵屋宗達、尾形光琳と尾形乾山、そして酒井抱一。

琳派の系譜に名を連ねる芸術家たちですが、彼らには直接の子弟関係はないのですね。

同時代の画壇には狩野派なども君臨していましたので、同じような意味合いに思えてしまいますが、そうではなく、日本の美術史における一大ムーブメントを継承した人たちを緩やかにつなぐ言葉ということのようです。

ということを踏まえて、前述の芸術家たちの作品を見て回ったわけですが、琳派の特徴、共通項がどこにあるのかということについてはわかったようなわからないような感じでした。

そうした琳派全体の流れよりも、本阿弥光悦の書と俵屋宗達の絵、尾形乾山の器と光琳の絵付けなど、芸術家同士の協業が、今の時代においても何かと話題になるコラボの先駆けのようで、興味深かったです。


この展覧会、ものすごい人出だったわけですが、その理由の一つには、宗達、光琳、抱一の描いた三対の風神雷神図屏風が一度に観られるということがあったのではないかと思われます。

展示替えの関係で、三対揃い踏みとなるのは10月27日から11月8日まで。

どうせなら全部観たいですよね。




結局、すべてを観終わったのは閉館間際。

外へ出るとすっかり日が暮れていました。

今回の特別展覧会はいつもの明治古都館ではなく、平成知新館の方で行われていました。

明治古都館は改修のための調査にはいっているそうで、当面は休館だそうです。

ということは、特別展覧会の開催中は常設展示はほぼ観れないということで、ちょっぴり損ですね。

早く2館体制に戻ってくれればいいのですが...