花鳥の夢 (文春文庫)/文藝春秋- ¥821
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東北旅行がてら米沢に「洛中洛外図屏風」を観に行こうと考えていた頃、偶然、本屋で平積みされていたこの本。
その「洛中洛外図屏風」を描いた天才絵師、狩野永徳の生涯を描いた小説です。
前半は「洛中洛外図屏風」の製作を軸に、狩野派の後継ぎとして頭角を現していく若き日の永徳。
後半は狩野派一門を率いる棟梁として、安土城、大阪城、聚楽第などの巨大建造物の障壁画を手掛けるビッグ・プロジェクトを仕切る壮年期の永徳。
この小説の中の永徳は、己の画力に絶対的な自信を持ち、一切の妥協を許さず絵の道を邁進するが、それ故に思ってもいない低評価を受けて思い悩んだり、ライバル長谷川等伯に対して才能を認めつつも公には認めようとせずに強烈な嫉妬心をむきだしにするなど、絵に関してはやや狂気じみた人物として描かれています。
その人物像は、長谷川等伯との対比においてより一層際立っており、両者の絵に対する姿勢のみならず、その出自や立場違いというものが、画風や、その絵を評価する人々の違いにも表れています。
もちろん、史実どおりではありませんが、そのようであったであろうことを伺わせるような史実はあるわけで、そういう背景をイメージしながら現存する彼らの絵を観ると、より興味深く観ることができるのではないでしょうか。
長谷川等伯と言えば、安部龍太郎さんの直木賞受賞作「等伯」がそろそろ文庫化される頃。
こちらもぜひ読んでみたいと思います。