フラニーとズーイ (新潮文庫)/新潮社- ¥680
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小さな頃から衆目にさらされる特異な家庭で育ったグラス家の末娘のフラニーとそのすぐ上の兄ズーイ。
エゴに溢れる世界に辟易し、小さな宗教書に救いを求めて自分の殻に閉じこもるフラニーを、同じ痛みと苦しみを知るズーイが言葉を尽くして救い出す、サリンジャーの代表作の一つです。
二部構成の前半、「フラニー」は、前菜というか、ウォーミングアップというか、フラニーのお相手として登場するレーン君さながらに、フラニーの病んだ心にやや戸惑いを覚えるものの、後半への期待を抱かせながら、わりあいスムースに、そしてあっさりと終わります。
しかし、後半の「ズーイ」になると、様相が一変します。
まず、ここから先の物語の入り組んだ設定について長々と理屈っぽい説明があり、やっと物語に入ったと思ったら、フラニーとズーイ、そしてちょっぴり母親というたった三人の登場人物に、一つの家の中という動かぬ舞台設定の中で、いささか宗教臭く、凝りに凝った文章と語り口によって、延々繰り広げられる心理劇と言ってもいいような会話劇に付き合わされます。
「またこいつらの小難しい会話に付き合わされるのか...」と、しばらくは気が重くてなかなかページを開きたくない日々が続きました。
しかし、そこをなんとか乗り越えると、終盤のズーイ君の畳み掛けるような言葉のパワーに、一気に惹きこまれていき、最後は目の前がパッと開けるような感覚が味わえました。
こういう文章が好きになれるかどうかは人それぞれかとは思います。
私は、いまだに好きなのかどうかよくわからないんですが、最初は気づかなかった良さに気づくかもしれないという淡い期待も少しばかり持ちつつ、また読み返してみたいとは思いました。
最近、しばしば、村上春樹訳の海外小説を読んでいますが、元が名作だからということももちろんあるのでしょうが、なんだか訳が肌に合うようで、とても面白いです。
次は何を読もうかな...