先生のお庭番 (徳間文庫)/徳間書店- ¥680
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出島に薬草園を造るために雇われた十五歳の植木職人熊吉と、その雇い主であり、日本の草木収集に奔走した阿蘭陀の医師シーボルトとその日本人妻らの交流を描いた小説。
はじめは右も左もわからず、戸惑い、失敗を繰り返しながらも、信頼を勝ち取り、薬草園の園丁として成長していく熊吉の生き方に清々しさを感じ、また、日本の四季の豊かさ、草木の愛おしさというものを改めて感じさせられます。
その一方で、当時の日本人の外国への憧れと恐れ、外国人の日本への関心と野心、そして互いの間に生じる齟齬といったものが陰に陽に描かれ、適度な緊迫感をもたらしています。
シーボルトと言えば、教科書的な知識から思い浮かべるのはシーボルト事件ですが、この小説には一見関係のなさそうなこの事件も、巧みに絡めており、見事なクライマックスを形成しています。
そこには、ふとしたことで間違った方向に突き進んでしまう日本人の危うさも垣間見え、ただ清々しいだけではない複雑な余韻が感じられます。
思いのほか深みのある作品でした。
シーボルトと言えば、先日、シーボルトが著書の中で紹介したシチダンカという紫陽花を観てきましたが、手毬咲きのアジサイに妻の楠本滝の呼び名から”オタクサ(Otaksa)”という学名を付けたという逸話もあるように、とても思い入れの強い花だったようです。
もちろん、この作品の中でも重要な位置づけの花として登場しています。
紫陽花の季節もそろそろ終わりですが、シーボルトにちなんだ紫陽花を観て、シーボルトにちなんだ作品を読んで、じめじめした季節が心なしか彩り豊かで爽やかになりました。