グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)/中央公論新社- ¥861
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村上春樹訳の「グレート・ギャッツビー」です。
村上氏自身、人生で巡り合った小説の中で最も重要な作品と言って憚らないスコット・フィッツジェラルドの代表作ですが、この作品の素晴らしさは、情景や感情の精緻な描写、空気の流れに合わせて色彩、模様、リズムを自由自在に変化させていく美しい文体にあるそうです。
ところが、日本語に翻訳するとこうした美点が微妙に失われていくようです。
かといって、原文を読んでも、生半可な英語力ではついていくことができない。
そういう作品であるからこそ、自ら翻訳に挑んだとのことです。
私には、原文との比較、他の翻訳との比較において、この翻訳の出来について語れるものは何もありません。
しかし、華やかさとその裏側にある切なさ、哀しさ、虚しさが代わる代わる現れ、時に重なり合う様が、流れるように綴られており、(それが本来のものかどうかはともかく)文体の美しさといったものは十分に感じることができました。
この作品を読もうと思ったのは、同じく村上春樹訳のレイモンド・チャンドラー作、「ロング・グッドバイ」のあとがきがきっかけだったのですが、そこで村上氏が書いているように、「グレート・ギャッツビー」と「ロング・グッバイ」には舞台、登場人物、ストーリー展開など、多くの類似点が見られます。
中でも特に語り手であるニック・キャラウェイとフィリップ・マーロウの立ち位置と存在感が絶妙です。
登場人物たちへの関わり方こそ違いますが、彼らは我々読者の目となり耳となり、彼ら自身ではなく、彼らが見ている人、世界に自然に目が向くように巧みに誘います。
彼らの存在なくして、両作品は名作とはなりえない、そう言い切ってもいいような気もします。