贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)/中央公論新社- ¥840
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ある1つの文化的要素に焦点を当ててその歴史を辿る。
こういう歴史へのアプローチというのは、学校で常に総体としての歴史を学んできた我々にとっては新鮮で、時々こうしてこの手の本を読んでしまいます。
贈与は、マルセル・モースの贈与論をその原点として主に社会学の分野において研究の対象とされてきました。
日本においても贈与は古くから存在し、今なおその慣習は広く社会に根付いていますが、世界的にみても日本はとりわけ多く贈与の慣習を保存している社会なのだそうです。
この本では、日本における贈与の歴史、とりわけその形態が経済と結び付き、功利主義的に異様な発展を見せた室町時代の武家や貴族社会における贈答儀礼について詳細に論じられています。
物資調達や換金を目的とした贈与、贈答品の流用、目録だけの贈与、目録の譲渡、目録同士の相殺...
中世の日本の異様な贈答儀礼の事例の数々にただただ唖然とするばかりなんですが、現代の日本人が贈与に対して抱く義理、虚礼、賄賂といった負のイメージは、この時代に異様な発展を見せ、やがて限界を見た贈答儀礼のありようにその源泉があるのではないかというのが筆者の考えるところのようです。
今も昔も、贈答儀礼というのは難しいものですが、こうして中世の行き過ぎた贈答儀礼のありようを知ると、私たちが贈与に対して抱いている負のイメージや、贈与にまつわる精神的負担など、些細な問題なのかもしれません。