須賀敦子全集 第1巻 | Archive Redo Blog

Archive Redo Blog

DBエンジニアのあれこれ備忘録


須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫)/須賀 敦子
¥998
Amazon.co.jp

文庫ではありますが須賀敦子さんの全集に手を出してしまいました。

この第1巻は、思い出深いミラノの霧の向こうの世界に行ってしまった友人たちに捧げたデビュー作「ミラノ霧の風景」、カトリック左派の集うコルシア・デイ・セルヴィ書店に集う人々を描いた「コルシア書店の仲間たち」、単行本未収録のエッセイ集「旅のあいまに」が収められています。

希望と熱意に満ちた若き日の仲間たち、そしてその仲間たちの末路を、20年、30年の時を経て振り返るその文章は、あくまでも自然で過度の装飾がなく、それでいて熟成された味わいを醸し出しています。

小説の中の登場人物ならともかく、全く縁もゆかりもない異国の人々の話には、正直それほど興味が沸きませんし、マンゾーニやサバなどの作家や詩人の話をはじめ、文章の中に織り交ぜられる、イタリアの芸術・文化・歴史・思想などの話についていけないもどかしさもあり、読んでいていささか辛いところがあります。

しかし、そういったことにとらわれず、ただこの文章の流れに身をゆだねていると、そこには確かにイタリアの風を感じますし、描かれる人々に対する寂寥感やそれを包み込む温かさも伝わってきます。

そして、それがなんとも言えないふくよかな味わいと、余韻を残すんですよねぇ。

中でも私が魅力を感じるのは、土地の情景の描写です。

この第1巻は、人の話が中心ですが、その中に時折描かれる街や自然はやはり見事なもので、特に「ミラノ霧の風景」の冒頭、「遠い霧の匂い」は秀逸です。

様々なエピソードを語りながらミラノの霧のイメージを表現し、最後に記憶の中でその霧と重なり合う哀しい思い出で締めくくるこの一編で一気にその文章に引き込まれてしまいます。