日本のデザイン | Archive Redo Blog

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DBエンジニアのあれこれ備忘録


日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)/原 研哉
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高度経済成長期が終焉を迎え、人口減少社会が到来し、歴史的な転換点に立たされている日本。

経済モデルや社会システムなど、あらゆる分野において、新たな考え方を模索しはじめている今、この国の未来を描くために必要な「資源」とは何か?

著者は、その資源とは日本で古来から培われてきた「美意識」ではないかと考えます。

それは日本人の手がける仕事において共通してみられる「繊細」、「丁寧」、「緻密」、「簡潔」といった特質として現れるものであり、日本人が暗黙裡に共有している価値観のことを指します。

戦後、今日に至るまで高い評価と信頼を勝ち得てきた日本の工業製品も、こうした美意識や美意識によって磨き上げてきた技術の賜物であり、そういう意味ではなるほど「資源」と呼べるものなのかもしれません。

ただ、それが「資源」として十分に活かされてきたかというと、そうではない。

そこを改めて見直し、工業製品のみならず、サービスやホスピタリティの局面にも資源としての美意識を振り向けることによって、日本は新たなステージに立つことができるのではないか、というのが著者の考えです。


この本では、「資源」としての「美意識」を意識しつつ、著者自らが手掛けた仕事を中心に、様々なデザインについて語られていますが、特に印象に残ったのは、デザインそのものよりも、著者が日本人の美意識の核として捉えている「エンプティネス」についてです。

長次郎の「楽茶碗」や慈照寺(銀閣寺)東求堂の書院「同仁斎」をその典型として挙げていますが、「何もない」ということを意識させ、受け手の想像力を喚起させる簡素さのことを示します。

確かにそういった簡素なデザインの器や建築を見ると、特に何の予備知識もなくとも、意識を引きつけられ、何かしらのイマジネーションが喚起されるような力が作用しているように感じることがあります。

西洋のモダニズムの中で生まれてきた「シンプル」とは一線を画するこの簡素さは、日本ならではの誇るべき美意識なのかもしれません。