闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)/渡辺 公三- ¥840
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20世紀後半の人類学をリードし、構造主義の祖と言われたフランスの社会人類学者、レヴィ=ストロース。
2009年、100歳の長寿を全うした彼のことを知ったのは、内田樹先生の著書およびブログにおいてでした。
レヴィ=ストロース(Levi-Strauss)...英語読みだとリーヴァイ・ストラウス。
そのかっこいい名前の響きも相まって、強く印象付けられたこの人物とその思想について、触れてみたくなって手に取ったのがこの本です。
しかし、その程度の軽い気持ちでやすやすと理解できるようなものではないですね。
というのも、この本は全く知らない人への入門書というよりは、社会主義の学生活動家であったレヴィ=ストロースが人類学へと方向転換し、「親族の基本構造」から「神話論理」へと至るライフワークをを成しえるまでの活動や思想の変遷を追いながら、人類学における構造の研究と彼独特の世界の見方・接し方との関連性、そしてその本質的な意味というものを確認していこうという趣旨の本であるからです。
それゆえに、レヴィ=ストロースが残した功績はおろか、構造主義とは何ぞや...という素地すらない私にとっては、なかなかとっかかりが掴めない、かなり骨のある内容でした。
ただ、何度かペラペラと読み返しているうちに、咀嚼しきれない部分は多々あるものの、その本質的な思想というものの輪郭は次第にはっきりと視認できるようになってきたように思います。
主として南北アメリカ大陸の未開社会でのフィールドワークの成果をベースに、自然から文化への移行の形式を親族形成や神話を媒介とした変換構造に見出そうとしたレヴィ=ストロース。
自分に近い存在に対する異化と、自分から遠い存在に対する共感。
社会主義活動に見切りをつけ、ブラジルへと旅立った当時からその萌芽がみられた西洋中心主義への自省と批判的なまなざしは、その研究を通して、新大陸発見以降の植民地支配体制の中で侵食の対象でしかなかった未開社会に文明社会が見失ってしまった豊かな思考を見出しました。
構造研究は、この彼の本質的な資質を他者へ受容させるための闘い、つまり、現代世界における人種・民族の関わり方の新たなモラルを問う闘いでもあったんですね。
構造主義と言うと、記号論的で無機質なイメージを抱いてしまいますが、こうした観点からアプローチした彼の構造研究には、何かこう他者に対する寛容さや敬愛といったようなニュアンスを感じることができます。
難解ですが、20世紀を代表する知性の一端に触れることのできる良書だと思います。