前回「電送人間」という映画に登場したパトカーと最近出たトミカとのつながりのはなしを書きましたが、肝心の映画の内容に触れていなかったので読む方はちんぷんかんぷんだったと思います。
(講談社「コレクションゴジラ大全集」12Pより画像引用)
なので、この機会に夏向けのスリラー映画のひとつを紹介するような感じで「電送人間」(昭和35年 東宝)のはなしでもしようかと思います。
液体人間の時にも書きましたが、当方の変身人間シリーズとのなれそめはケイブンシャの「原色怪獣怪人大百科」でした。
ウルトラマンや仮面ライダーをはじめ、ゴジラやガメラ、当時聞いた事もない様なマイナー作までひっくるめて網羅した「原色怪獣怪人大百科」は文字通り当時の私の宝物の筆頭でした。
が、その中にあって突然変異の如き異質の存在感を示していたのが東宝の変身怪人シリーズだったのです。
(ケイブンシャ「原色怪獣怪人大百科」Pの項より画像引用)
ガス人間や液体人間もそれなりにおっかなかったのですが当時の私のトラウマNo1だったのが「電送人間」のスチルでした。
何やら怪しげな蛍光灯の列の中で下半身が透けて見えるトレンチコートの男、その無表情さと顔のあちこちに不気味な傷のついたビジュアルは今見ても怪しさ満点。
当時は電送人間の載った折り込みだけ隔離して別の場所にしまいこんでいたほどです。
ましてやこのスチルに出ている電送人間が当時「キイハンター」で大人気だった中丸忠雄だったなど全く気づきませんでした(笑)
そんな訳で本作は長い間私のトラウマ映画の一本であり(観ても居ないのに)恐怖の対象だった訳です。
その電送人間が掛かったのは90年代の初め、NHK BS2で「ゴジラVSキングギドラ」の特集が組まれた時で、私が通しで初見したのもその時です。
この特集では他に「マタンゴ」や「液体人間」も放映されましたが「ゴジラ」の特集で掛けるにはあまりにも渋すぎるラインナップではあります。
終戦直後旧陸軍の機密書類の隠匿を命じられた軍属の仁木博士と須藤兵長。しかし機密書類は実は上官の大西中尉たちが横領した金塊で、秘密を知った須藤たちは隠匿場所の洞窟でダイナマイト爆破され生き埋めとなった。
それから15年後、大西中尉の元部下の塚原はとある遊園地のお化け屋敷の中で他の客たちや係員の眼前で謎の黒い影に刺殺される。現場はほぼ密室状態だったが犯人の姿は煙のように消失するのだった。
やがて東京でキャバレーを経営していた大西と元部下の劉、謎の符丁で甲府から呼び出された元部下の滝の前に須藤兵長を名乗る男のテープが届き、復讐のため彼らを一人一人殺すと予告する。
そしてその場に亡霊のような光を放つ須藤兵長が現れ龍を軍刀で刺殺するのだった!
大西の密輸を内定していた警視庁の小林警部と旧友の新聞記者の桐岡たちが踏み込むと須藤は窓を破って逃亡!だがとある倉庫街に逃げ込んだ須藤は倉庫の中で消失し、直後に倉庫は謎の火災につつまれるのだった。
火災の焼け跡にあった正体不明の機械が須藤の消失と関係ありとにらんだ桐岡は機械の部品の発注元をたどり、長野の小谷牧場にたどり着く。
そこには農場主の仲本と名乗る無表情な不気味な男が独りで住んでいたが、農場の建物の奥には何か大きな機械が置かれ秘密の存在が感じられた。
同じ頃甲府の滝にも殺害予告が届き警視庁と山梨県警が大規模な警戒網を張るが予告の時間にこつぜんと現れた須藤の手で滝は殺害され、逃走する須藤は甲府駅の構内で姿を消し直後に通過した貨物列車が倉庫の時と同じように爆発するのだった。
小谷牧場の仲本が須藤ではないかと疑っていた桐岡は牧場に泊まりながら彼を見張っていたが、滝の殺害時刻に仲本が現れたためにアリバイが成立してしまう。
残る大西にも殺害予告が届き、恐怖におびえる大西は伊勢湾の孤島にある別荘に逃亡を図るのだが…
ここまでざっくりとあらすじをかいつまみましたが、読めばお分かりの通りホラーなところはどこにもありません。
話の中心は須藤の元上官たちへの復讐劇。本当にそれだけです。
トリックの種は須藤同様に爆破の中、両足を失いながらも生き延びた仁木博士が手にした金塊を元手に研究を進めて発明した「物質電送機」です。このために須藤は長野に居ながらにして瞬時に東京や甲府にテレポートし殺人を重ねてきたわけですが実はこの電送機「トラック1台分はたっぷりありそうな図体の受信機を予め目的地に送らなければならない」上に「電送後は受信機がしっかり現場に残ってしまうために後から一々爆破して証拠隠滅を図らなければならない」という、およそアリバイトリックに使うには著しく実用性に欠ける代物です。
つまり液体人間とかマタンゴ、ガス人間とは異なり電送人間は「電送しなけりゃただのヒト」の上に「電送機自体が欠点の塊」というのが設定上大きな弱点なのです。
ネタバレを書くなら電送機にはもうひとつ「電送中に電波が乱れると人間の体にノイズが傷として残ってしまう」もっと言うと「電送中に電送機が壊れると中の人間が電波化して消滅してしまう」と言う輪を掛けた欠陥までありこれが本作のラストに呼応しています(笑)
なので本作を観終った時の私の肩すかし感ときたらありませんでした。
本作を辛うじてホラーとして成立させている物があるとすれば須藤を演じる中丸忠雄氏の無表情な不気味さで、これなら別に電送しなくても十分怖いです。
大体、本作の4年前には同じ電送機を題材にした「蠅男の恐怖」という大傑作が存在していたのに、同じ題材でどうしてもっと飛躍したものが作れなかったのか不思議でなりません。
ただ、通しで観終った時、私のトラウマがひとつ跡形もなく消えた事が一番の収穫ではありました(笑)
ここからは余談
ミニチュア特撮の見せ場が殆ど無い本作の中で唯一見どころとなるのが中盤で「甲府駅から発車する電送機を積んだ貨物列車が爆発する」シークエンスです。
ミニチュアが列車だけなので鉄道模型ファンは見逃せないところですが、牽引機はみたところC59の様です。
これは幹線級の優等列車を牽引する蒸気機関車なのですが、これが貨物列車を引っ張るのはどうか。そもそも当時の中央線はC59が走れたのか?
疑問が尽きないところではあります(笑)