神話が息づく南の島を舞台に、島を支配する因襲と葛藤する人々を通して人間の生と

 

性を描いた人間ドラマの傑作

 

 

 

 

 

 

      -  神々の深き欲望  -  監督 今村昌平 脚本 今村昌平、長谷部慶次

 

 出演 三國連太郎、河原崎長一郎、沖山秀子、北村和夫、加藤嘉、松井康子 他

 

こちらは1968年制作の 日本映画 日本 です。(175分)

 

 

 

 

 

 

  今から二十年ほど前、原始的な農耕と土俗信仰に生きている南海の島・クラゲ島に暴風と津波が襲う。嵐が過ぎ去ると、神田(神さまに供える米を作る田)に真っ赤な巨岩が立っているのを島民が発見し、この凶事の原因を詮議する。

 

 

 

 

 

 

竜立元は原因を島の神事を司る太根吉が妹のウマと淫らな行為をしていることが神の怒りにふれたと考え、彼を鎖でつなぎ、穴を掘って巨岩の始末をするように命じ、ウマを情婦にした。

 

 

 

 

 

 

その日から根吉の息子・亀太郎は若者から疎遠された。そこに東京から製糖会社の測量技師・刈谷が水源調査のためにやってきた。亀太郎は精糖工場長も務める竜に頼んでもらって刈谷の助手になった。

 

 

 

 

 

 

二人は島内の随所で水源調査を行うが、島民から妨害を受けて水源発見の情熱を失ってしまう。ある日、刈谷は亀太郎の妹・トリ子を抱いた。彼女の純粋さと魅力に惹かれた刈谷は、根吉の娘婿となって彼の穴掘りを手伝い、クラゲ島に骨を埋めようと決意する

 

 

 

 

 

 

巨岩の始末も終わり、島の生活に取り込まれていった刈谷だが、会社からの帰京命令で島を去る。一方、東京の東光カンパニーがクラゲ島の観光開発を決定し、太家一帯は飛行場の用地として買収されることになった。豊年祭りの夜、竜はウマを抱いて腹上死したが、竜の妻・ウナリは嫉妬と恨みで家に火をつけ、根吉が夫を殺したと村人に告げる。根吉は、竜から解放されたウマを連れて島を脱出しようとしたが、、。

 

 

 

 

 

 

昔、TVの深夜映画で断片的に見かけてから長い事レンタルを探していましたが見つからず、自身の宿題になていた本作でしたが、遂に配信リストに登場するようになり、やっと鑑賞する事が出来ました。 それでも3時間近い長編だったもので、観る為の気合が入るまでに少しの時間を要したのでありました。

 

 

 

 

 

 

構想に6年、撮影に2年の歳月を費やした今村リアリズムの集大成的な本作は、沖縄の小島をイメージさせる南海のクラゲ島という架空の島を舞台に、琉球神道や神話、言い伝えや島の掟といった島独自の土着的な風習の中で閉塞的に暮らす人間の業と、そこへ否応なしに訪れる近代化の波によって変化していく島の姿が描かれています。

 

 

 

 

 

 

物語は太家という神につかえる一家を中心に展開します。 冒頭、三國連太郎演じる太根吉が水の張った大きな穴を延々と掘っている場面から始まります。 髪も髭も伸び放題、衣装はまるで縄文人のような姿で足は鎖で繋がれているという状況に、いったいいつの時代のお話で、どんな設定なのかが分からずにしばし脳がフリーズ状態。

 

 

 

 

 

 

どうやらこれは現代のお話で、嵐で突如現れた巨石を埋める穴を罰として掘っているという事が分かりますが、その世界観はやはり謎。 こんな感じで3時間か~と気合を入れていましたが、港に東京から派遣された製糖会社の測量技師・刈谷が訪れた所から一気に物語が面白くなってきます。 

 

 

 

 

 

 

刈谷は島で唯一の産業であるサトウキビを効率良く育成させるため水源を確保しようと調査しますが、島の人間は島の言い伝えやルールを盾にのらりくらりと刈谷の質問をかわすばかり。 調査も邪魔され一向に進まない仕事。彼を丸め込もうと夜な夜な派遣されてくる女性に断固抵抗する刈谷の姿が愉快です。

 

 

 

 

 

 

精魂尽き果てた彼は遂に根吉の娘で知的障害のあるトリ子と関係を持ち彼女に魅了されてしまいます。 そして煩わしい仕事や東京の家族の事など忘れ、根吉の穴掘りを手伝うようになっていきます。 まるで「ウィッカーマン」の刑事が「地獄の黙示録」のカーツに変容したかのように、島の魔力に取り込まれてしまったような展開です。 

 

 

 

 

 

 

どっぷりとトリ子と島の暮らしにつかった刈谷でしたが東京の会社から強制的に帰郷させられてしまいます。 「きっと帰って来る」とトリ子に約束しますが、彼が島に帰ってきたのは島が観光地化された数年後で、すっかり東京の会社人間に戻り、観光客と家族を伴った姿で現れます。 トリ子との約束など初めから無かったようなその態度

 

 

 

 

 

 

外から訪れた刈谷の客観的な視点に絡むように、島の中でも最も因習に縛られている

太家の姿が描かれていきます。 鎖が象徴する島に繋がれた根吉が憧れる外での暮らし

 

 

 

 

 

 

妹のウマは兄根吉への愛と妾としての暮らしに苦悩し、息子の亀太郎は島の若者と因習に挟まれもがき、その妹のトリ子は知的障害でありながらも純粋な存在として描かれ、近親相姦、夜這い、村八分、口減らしの為のクブラバリという後の 「楢山節考」にも繋がる人間の生き物としての性と、生き残る為の様々な因習が語られていきます

 

 

 

 

 

 

後半では島を脱出した根吉とウマの船を、濡れ衣とは知らずに追って来る島の青年たちのチェイス場面。 個人を隠し掟を守る使者に変容する為に仮面を付けて襲う場面はもうホラー映画で、この作品が「ミッドサマー」に影響を与えたというのも頷けます

 

 


 

 

 

画面からは終始焼けるような太陽の光と、むせるように暑く湿った空気がビシビシ伝わり、休憩の字幕が出る直前には海岸を歩く刈谷の口から 「スカッと爽やかコカ・コーラ」という懐かしのフレーズまで飛び出します。 このコカ・コーラは観光地化した後半にも登場し、近代化、欧米文化の象徴として、戦後の日本をクラゲ島として描いているように思えます。

 

 

 

 

 

 

太陽、島、海、岸壁、砂浜、泥、サトウキビ、人間、汗、性、因習が画面の中をのた打ち回っているような今村昌平ワールド。 時折差し込まれるヘビやフクロウ、アリといった生き物が印象的な人間と文明のサバイバルカルト映画でございます。 

 

 

 

 

 

 

他では見る事が出来ない得体のしれないパワーを持った映画だと思いますので、一度はご覧になる事を強くお薦めいたします、です。

 

 

では、また次回ですよ~! パー