冷たく、暗い場所にいる。
ここは海底1万メートル付近のはずだ。
少し前から計器の不具合か、どこまで潜っているのかわからない状況だ。
俺は潜水艦に乗艦している乗組員の一人。
まぁ、全乗組員は俺を含めて3人しかいないんだがな。
潜水艦の動力は推進力だけに使うようになっているので、海底へ向かっている状況では不要だ。
浮上するには気圧の変化で上昇するから、この潜水艦にはほとんど燃料は積まれていない。
だから重力に任せて落ちているだけなのだ。
現状の位置を知らせる指針が今は動かない。
時間の経過から1万メートル付近と推測しているだけだ。
他の乗組員たちものんびりしているようだ。
俺だけが少々焦っている。
今はまだ、深度計の不具合だけが確認されているが、他にも不具合があるかもしれないからだ。
上昇するには気圧の変化を起こしてやれば良いだけだ。
燃料は使わない。
浮力が強くなるほどの気体を作り出すための機能に故障がなければ問題ない。
それだけだった。
あと1時間程度で海底に着くはずだ。
それまで他の乗組員には黙っている予定だ。
そもそも今回の目的は海底調査だけである。
目的を達成してからでも遅くはないし、万が一推進力機構に不具合があった場合でも問題ないだろう。
ただ、推進力機構にも問題があった場合、他にも問題がある可能性が高くなる。
要するに考えても同しようもない状況だということだ。
きっとパニックになるんだろうな。
だから俺は冷静を保とうとしているのだ。
この平穏もあと一時間程度か…。
ーーー2時間後ーーー
海底に到着したようだ。
予定より遅い。
海流に流されたような感じもしなかった。
海底到着時間が変わるほど流されれば、何らかの横の力を感じるはずだからだ。
思ったよりも深かったということだろう。
もしくは海底溝にはさまったかだ。
海底は数百メートル潜ると太陽の光は一切届かない暗黒の世界だ。
飾り程度の小さな窓から外を見ても、もちろん真っ暗闇である。
投光器を点灯するため、スイッチに手を伸ばした。
投光器は点灯され、周りの状況がかすかに見える。
小さい窓なので周りの状況はすべて把握することはできないが、海底溝には挟まっていないらしい。
動ける状況のようだ。
このタイミングで計器の不具合を伝えることにするか。
俺は他の乗組員二人に状況を説明した。
ふたりとも思ったことは同じのようで、その場の移動をすることになった。
推進力機構が無事であってほしいと願いを込めてスイッチを入れレバーを動かす。
しかし、潜水艦は前に進まない。
最悪の展開に一歩近づいてしまったようだ。
この潜水艦はとてもシンプルだ。
潜って、移動して、浮上する。
投光器などもあるが、移動するためには潜って移動して浮上するだけで良い。
深度計が故障して移動ができないとなれば、浮上する装置にも不具合があっておかしくない。
だから最悪なのだ。
シンプルな故、超小型潜水艦として成り立っているのだから。
浮上するための装置は他にない。
探索もできない今、浮上して帰還するだけなのだ。
二人の乗組員は顔面蒼白。
俺がしっかりしなければならないだろうが、浮上する事ができなければここで終わりだ。
俺は、ある意味覚悟していたのかもしれない。
スイッチを静かに押した。
さて、浮上できるかな…。
おしまい。