とけいのじかん5
謎のダイナミックオート45石
オールド国産腕時計は何が出てくるか分からないらしい。
特に端境期(はざかいき)には新旧の部品を組み合わせた製品が販売されていたりして謎が謎を呼ぶことがあるそうだ。
市井(しせい)で組み合わされた、いわゆるガッチャもたくさんあるから更にまぎらわしい。
うっかりしているとプロでも一杯食わされるとのことだ。
さてここに、ちょっと珍しい、リコー ダイナミックオートカレンダー45石がある。
今年のはじめに某オクで落札した。
1960年代までの腕時計は金色のケースが多い。
腕時計が高級品だった時代には金色ケースの人気が根強かったからだそうだ。
特にSS製ケースの高級機はあまり数が造られなかったので、今では割りと高値で取引されることが多い。
もちろんダイナミックオートも同じ傾向なのだが、その中でも、ちょっと珍しいSS製ケースである。
実を言うと入札した当初は、そんな難しい事は全く考えていなかった。
ただ、あまり目にすることない型のSSケースでデザインが気に入ったことと、某オクのクーポンを取得したのはいいけれど、上限が1000円なのを知らず何でも半額になると思い込み、調子にのって高値で落札してしまったというのが本当のところである。
ともあれ、その後、ネットで何度も検索してみたが同型を見かけたことがない。
ファセットベゼル、インデックス、針が金色のコンビのはあるが、リューズの形が異なる。
私のモデルは独特な形の波頭型と呼ばれるタイプだ。
しかし一番問題なのはローターである。
本来ダイナミックオート45石はローターの回転部分に12個のルビーボールが並んでいるはずなのだが、何故か33石と同じ精密ベアリングが6個になっている。
※こちらの画像が本来の45石のローター。
日本の時計メーカーが石数を偽って製品を販売するとは考えられない。
何故なら信用問題に関わるからだ。
当時は今よりも遥かに機械式時計の石数は重要な問題だったらしいのである。
だとすれば、このローターは、後年、誰かが中心部分を入れ替えたのだろうか?
私も始めはそう考えた。
しかし地元の時計店の店主さんは裏蓋を開けムーヴメントをしげしげとながめてから「これ、ずいぶんいじった跡(あと)があるね」と言っていた。
その時に、もう少し突っ込んで尋(たず)ねてみればよかったのだが、少々頭に血がのぼっていたので忘れてしまった。
しかしそれならば、ひょっとすると、このSSケースのダイナミックオート45石は、どこかの時計士養成所のようなところで分解組み立ての教材として使われていたのではないだろうか。
後から冷静になって調べていくうちにそう考えるようになった。
実際に“1級時計士の検定試験に使用された、いわゆる検定試験用クラウン”というものがあり受験者に“試験後、精工舎が記念に持たせてくれ”ていたらしい。
そんなクラウンが某オクに出品されたことがある。
恐らく各メーカーに同じような検定試験用時計があったと推察されるが、件(くだん)のダイナミックオート45石も、その一つなのかもしれない。
もちろん非売品らしい。
しかし、検定試験用はすり替えができないようにムーヴメントの各部品が色分けされているらしいが、このダイナミックオート45石はローターの中心部以外は市販品と変わらない。
だが、検定試験用のムーヴメントが全て色分けされていたかどうかも私には今のところ定かではない。
いずれにしても、もしも、このダイナミックオート45石が検定試験用もしくは時計士養成の教材用だったとしたら、はじめからローターのルビーボール抜きで造られた可能性も否定できないだろう。
もっとも、お気づきの通り、それなら始めからダイナミックオート33石で良かったはずだ。
わざわざ45石用ローターのルビーボールを精密ベアリングに交換する必要はない。
いや、そもそもローターの中心部品を簡単に交換できるかどうかも自分には分からない。
その後、トンボ出版からタイミングよく「タカノ・リコー」が出版されて、真実が明らかになるかと思ったが寧ろ謎が深まってしまう。
本当は、もっと早くに公開して、オールド国産腕時計に詳しい方々からの情報を得たいと考えていたのだけれど、某オクの落札相場履歴から削除されるのを待つことにした。
何故かというと、出品者との間で充分な信頼関係が築けなかったからだ。
実は入札直後にローターのルビーボールの件に気付いたので、自分なりに調べてから落札後の取り引きメールで出品者に質問をしている。
少々鎌をかけてみた。
しかし、某オクでは毎度のことだが「当方も詳しいことは分かりません。整備をお願いしている時計士に相談して何か分かったらお答えします」と返答があった後、この問題に納得のいく説明は未だ得られていない。
しかも、最初の画像をよく見て頂ければ分かるが、秒針が外れて届いた上に風防の6時位置には、けっこう大きなカケがあり、文字盤のキズも紹介画像よりも目立った。
某オクの説明分は不十分だったと言わざるを得ないと私は思う。
もとよりネットオークションは自己責任の世界だから別段苦情を申し立てるつもりはないが、少々残念なのは事実だった。
こちらの出品者は出品物の多さや頻度、また自己紹介にあるように出張が多いそうだから、間違いなくプロの古物業者だと思われる。
素人の自分でも上記の推理くらいはできる。
ましてやプロの業者や時計士が現物を見て、ある程度の推論を立てられないはずがないではないか。
何故、その旨(むね)を正直に答えなかったのだろう。
忙しくて手が回らなかったのか、それとも面倒だったのか、まさか始めから騙(だま)すつもりはなかったと思いたいが、正直、この一件で出品者としての信頼度が下がったこともまた事実なのである。
しかし、確証を得られないまま、こんなことをブログで書いて炎上問題が起きるのも私の本意ではない。
とにかく、ようやく履歴から削除されたので晴れて公開できるようになった。
その後、私は移植用ドナーを探してムーヴメントを丸ごと交換した。
その時、地元の時計店で同時代の分針に換えて頂いている。
理由は何度も分解や組み立てをしているうちに分針の中心部品がゆるんでしまって、きちんと筒カナにハマらなくなってしまっていたかららしい。
つまり秒針が外れて届いたのは分針に原因があったとのことである。
一方で時間が経ち調べれば調べるほど、届いたままの状態で資料として保存するほうが良かったのかもしれないと考えるようにもなった。
真相の解明には、なるべく元のままの状態のほうが良かったからだ。
まあ、ともあれ、今はこうして整備なって自分の腕元で時を刻んでいる。
トンボ本の序文にもあるが、このダイナミックオート45石をながめていると、腕時計がバリバリのステータスシンボルだった時代には、作り手の心意気からして全く違っていたのがよく分かる。
その瀟洒(しょうしゃ)な高級機然とした佇まいは現行モデルからは感じられない。
また、本機は部品点数も多く設計難易度も高いが、巻き上げ効率と静粛性に優れた歯車式が採用されている上に、ローターの中心部にルビーボールが採用されているため、更にシャラシャラと心地よい回転音がする。
残念ながら秒針停止機能やカレンダーの早送り機能はない。
古時計では定番の時針往復式だ。
その点では必ずしも使い勝手はよくないのだが、そこがまた味わい深いところでもある。
さて、このダイナミックオート45石の真相が解明される日はくるのだろうか?
でも、まあ、こんな謎めいた部分もオールド国産腕時計を愛好する楽しみの一つではないだろうか。
(((uдu*)ゥンゥン
そんなこんなで、せっせとブログを書く時計愛好者の傍(かたわ)らでは、
「オッチャン、なにつまらんことで燃えとるん?」と
シマ子がアッカンベーをしておりますた…









