とあるマンションの一室。男は仰向けに天井を眺めながらぼんやりとしていた。
「はぁ・・・」
――――――――
このため息混じりのあくびは、
物語において暇を表現するのに欠かせない存在である。
「暇と多忙。考えてみりゃ紙一重だぜ。どっちも大変だ・・・」
暇と多忙。対局に存在するこの2つの違いにすら気づけなくなるのだ。
暇というのは存外恐ろしいものである。
「うるさいなぁさっきから。君は誰だ」
物語において欠かせない存在とでも言っておこうか。
「なんだい、格好つけめ。この場合主人公は僕だろう。
主人公以上に欠かせない存在など、それこそ存在しない」
確かに主人公は大事だ。しかし誰が君を主人公と決めたか。
今この文をしたためているのは作者だ。
君の運命なんぞ作者の一筆で消え去るということを忘れるな。
「ふん。この物語における登場人物は僕と君だけだ。
ならば主人公は必然的に僕と君のどちらかと言うことになる」
そのとおりだ。そして私は主人公ではない。
「そうだろう。ならば僕が主人公で間違いない」
しかし作者が気まぐれを起こすこともある。
「ん?」
――――――――
その瞬間、静かな部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
「どちらさまですか」
男は戸を開いた。そこにいるのは男の古くからの友人だった。
「やぁ、暇だから来てみたよ」
「これは奇遇だな、僕も暇をしていたのだが・・・」
「どうしたんだい」
「いやね。今たしかに1人なのだが、だれかと話していた気がする」
「怖いことを言うなよ。暇も度を超えると危険らしいな」
「まったくだ。これだから暇と多忙は紙一重だと・・・」
――――――――
また始まった。度を超えると危険と言うのは認めざるをえないようだな。
「思い出した、お前だ、また出たか」
どうやら私は作者が筆を止めた間にだけ現れるらしい。
君ら登場人物が暇をしないようにな。
「冗談じゃない。暇にさせたがってるのは作者じゃないか」
それとこれとは別だ。
私のいない間に行われることは、台本通りに進む劇と同じようなものだからな。
「ひどい言われようだな」
それはそうと、例の友達。やつは主人公じゃないのかい。
「後から登場したやつなんぞ主人公とは呼べまい」
そうとは限らんさ。このあと殺人事件が起きて君は殺されてしまう。
なんてことになってみろ。主人公の座は隣にいる彼のものだ。
「それもそうだな・・・。だったらその前にやつをやっちまうか」
君に任せるよ。私は物語を面白くするための助演者に過ぎないんだ。
――――――――
「おい、どうした?」
「あ・・・いや、なんでもない」
男は思った。何かを忘れている。
「すっきりしない顔をしているな」
「ああ・・・」
そしてさらに思った。俺はこいつを殺さねばならない。
どうやって殺そうか。薬殺、刺殺・・・。
しかし薬物などを手に入れるツテがどこにあるか。
ならば刺殺に決まりだ。すこし野蛮だが、殺しに大して違いなどない。
「ちょっと待っていてくれ・・・」
そう言うと男は台所へ向かった。
水道の下にある戸棚を開け、包丁を取り出す・・・そして・・・。
気がつくと男は刑務所にいた。それ以降の記憶はなかった。
「はぁ・・・どうしてあんなことを・・・」
――――――――
感心するな。本当にやってのけるとは。
「またお前か、いい加減にしてくれ」
よかったじゃないか。これで主人公の座は君のものだ。
「何を言っているんだ。刑務所に入った主人公なんぞ聞いたことがない」
なんだ。
君は知らされていないのか。
「何を?」
この本の題名が「発作的殺人」だということだ。
「宇宙人ってのはいると思うかい」
「さぁ。いると言えば嘘になるし、いないと言えども嘘になる」
「そりゃそうだ。わからないんだからな」
当たり障りのない、実に曖昧な会話だ。
この友人は星を眺めるのが趣味らしく、ちょくちょく空を見上げている。
今も望遠鏡なんぞを眺め回しながらの会話だ。
「ちょっと見せてごらんよ・・・あれはなんて星だい?」
僕も星を眺めるのは嫌いじゃない。たまにこうやって尋ねることもある。
「ああ、あれは木星だ。ああ見えてもガスで出来ているんだぜ」
「ほう、宇宙人はいなさそうだな」
星なんてのはどれがどれだかすぐわからなくなる。
それを覚えている学者やこの友人などにはつくづく感心してしまう。
「それでさっきの話だがね・・・」
彼は筒を覗きながら話を戻そうとする。
しかしそこから話が進まない。彼が黙り込んだためだ。
「おい、どうしたんだい」
「ちょっとまってくれ・・・」
妙に焦った面持ちだ。
「円盤でも見えたかい」
「いや・・・消えちまったが・・・確かに光っていたよ」
「星じゃないのかい」
「いや動いてた。飛行機でもない。高かったからな」
「そりゃいいや。そういうのはよく見えるのかい」
「たまにね。しかしすぐ消えちまうのがほとんどだ」
これは驚きだ。“たまに”とは言いつつも、
すぐに消えてしまう飛行物体に彼は何度も遭遇しているという。
「君は、どこか行ってみたい星はあるのかい」
「そうさなぁ・・・」
そう言うと彼は黙り込んだ。よほど真剣に考えているのだろう。
「・・・ほら、そこに見えているだろう、青い星」
「ああ、見えるね。あそこに行きたいのかい」
「そうだ。実を言うとね、僕の見る飛行物体は
すべてあの星から出てきては消えちまうんだ」
「そいつは驚きだな。あの星には宇宙人がいるかもしれない。なんて星だい?」
「なんていったかな。確かチキュウという星で・・・・・・・」
「さぁ。いると言えば嘘になるし、いないと言えども嘘になる」
「そりゃそうだ。わからないんだからな」
当たり障りのない、実に曖昧な会話だ。
この友人は星を眺めるのが趣味らしく、ちょくちょく空を見上げている。
今も望遠鏡なんぞを眺め回しながらの会話だ。
「ちょっと見せてごらんよ・・・あれはなんて星だい?」
僕も星を眺めるのは嫌いじゃない。たまにこうやって尋ねることもある。
「ああ、あれは木星だ。ああ見えてもガスで出来ているんだぜ」
「ほう、宇宙人はいなさそうだな」
星なんてのはどれがどれだかすぐわからなくなる。
それを覚えている学者やこの友人などにはつくづく感心してしまう。
「それでさっきの話だがね・・・」
彼は筒を覗きながら話を戻そうとする。
しかしそこから話が進まない。彼が黙り込んだためだ。
「おい、どうしたんだい」
「ちょっとまってくれ・・・」
妙に焦った面持ちだ。
「円盤でも見えたかい」
「いや・・・消えちまったが・・・確かに光っていたよ」
「星じゃないのかい」
「いや動いてた。飛行機でもない。高かったからな」
「そりゃいいや。そういうのはよく見えるのかい」
「たまにね。しかしすぐ消えちまうのがほとんどだ」
これは驚きだ。“たまに”とは言いつつも、
すぐに消えてしまう飛行物体に彼は何度も遭遇しているという。
「君は、どこか行ってみたい星はあるのかい」
「そうさなぁ・・・」
そう言うと彼は黙り込んだ。よほど真剣に考えているのだろう。
「・・・ほら、そこに見えているだろう、青い星」
「ああ、見えるね。あそこに行きたいのかい」
「そうだ。実を言うとね、僕の見る飛行物体は
すべてあの星から出てきては消えちまうんだ」
「そいつは驚きだな。あの星には宇宙人がいるかもしれない。なんて星だい?」
「なんていったかな。確かチキュウという星で・・・・・・・」
あれは昨日のことだ。テレビを見ていたら急に画面がザーザーいいやがる。
テレビが壊れたか?電波がおかしくなったか?
どっちにしろ不快には違いない。どうにかならないものか。
どうしよう、こうしようと考えているうちに、あることに気がついた。
ザーザーいってやがる画面をよくみると、どうも人の形に見えてきた。
いつもならば、気のせいだろう、で済ますところだが
丁度暇を持て余しているのだ。じっくり眺めて見ることにした。
不気味とは思わなかった。不思議と引き込まれていくような気がする。
今思えばさっさとチャンネルを変えちまえばいいんだがね。
今はそんなことしても無駄だ、そんな気がしたのさ。
そのときだよ。
「・・・ウ・・・」
なにか喋った気がした。テレビだからね。
電波が途切れ途切れ放送を拾っているのかもしれない。
「・・・ウメ・・・ウメロ・・・」
「埋める?何をだい」
我ながら何をやっているのか。
テレビに話しかけてやがる。端から見たら酔狂もいいところだ。
「オ前・・・ノ・・・家ノ・・・石・・・青イ石・・・」
いや驚いたね。まるで俺の言葉に返答したかのようだった。
「青い石?なんのこと・・・」
そこで考えると思い当たるフシがあった。
5つか6つのころだったかな?庭で綺麗な石を見つけてね。
持ち帰って部屋に置いといたはいいが、捨てるに捨てられない。
そうしてとうとう今も部屋に飾ってある。
「どこへ石を埋めるんだい」
「山・・・山ニ・・・埋メル・・・ンダ・・・」
まいったね。とうとう会話が成立した。ここまできたら引き下がれない。
しかしそろそろ恐怖心なんてものが浮かび上がってくる。
「山・・・山ってぇと近くの山でいいのかい」
「・・・ソ・・・ウダ・・・明日マデ・・・ニ・・・」
そこまで言うとテレビは普通のチャンネルに戻った。
チャンネルの様子から見てもさっきまでのような言葉は聞こえてきそうにない。
ここまできて恐怖を感じた。あの様子を見るからに、霊の類に違いあるまい。
山に石を埋める?明日までに?明日までに埋めなければどうなるのだろう。
やはり呪われてしまうのだろうか。次々と不幸が訪れ、そして・・・。
そんなことがあってはならない。別にとっておくほどのものでもないのだ。
さっさと埋めちまおう・・・・・・。
そうして埋めちまったのさ。あれっきりテレビは正常だな。
石ってのは霊が憑きやすいだなんて言うしな。君も気をつけたまえ・・・
―――――――――――
「ふむ、この石で間違いない」
それは、男が石を埋めた山にいた。
大きく、丸い。そしてすこしばかり浮いている。俗に言うUFOで間違い無いだろう。
そして乗っているのは・・・大きな目、鼻はなく、耳は大きく尖っている。
宇宙人というやつに間違いなさそうだ。
「ちょっと待っていてくれ」
そういうと彼は奥の部屋に入った。残された2人は話し始めた。
「しかし変わった種族だよ。地球人なんてのは」
「まったくだ。なんでもかんでもレイとやらのせいにして自分から勝手に焦り始める。
そして俺たちの思い通りに動いてくれるんだ。世話のないことだ」
「昔から使われている方法だが最初に考えた奴にはつくづく関心するよ」
「地球人も自分たちの信じるレイとやらが宇宙人の仕業とは思うまい」
「やつらがこの事実に気付くのは何年後だろうか」
「さぁ。10年、20年、ひょっとすると100年経っても気づかぬかもしれない」
「まぬけなことだ。気づいた時のやつらの驚く顔を拝むのが楽しみでならない」
そのとき、ドアが開き先程の彼が入ってきた。
それと同時に2人のうちの1人がこう尋ねた。
「一体、その石は何に使うんだい」
すると彼は突然、神妙な顔でこう語り始めた。
「あれは昨日のことだ。テレビを見ていたら急に・・・・・・」
テレビが壊れたか?電波がおかしくなったか?
どっちにしろ不快には違いない。どうにかならないものか。
どうしよう、こうしようと考えているうちに、あることに気がついた。
ザーザーいってやがる画面をよくみると、どうも人の形に見えてきた。
いつもならば、気のせいだろう、で済ますところだが
丁度暇を持て余しているのだ。じっくり眺めて見ることにした。
不気味とは思わなかった。不思議と引き込まれていくような気がする。
今思えばさっさとチャンネルを変えちまえばいいんだがね。
今はそんなことしても無駄だ、そんな気がしたのさ。
そのときだよ。
「・・・ウ・・・」
なにか喋った気がした。テレビだからね。
電波が途切れ途切れ放送を拾っているのかもしれない。
「・・・ウメ・・・ウメロ・・・」
「埋める?何をだい」
我ながら何をやっているのか。
テレビに話しかけてやがる。端から見たら酔狂もいいところだ。
「オ前・・・ノ・・・家ノ・・・石・・・青イ石・・・」
いや驚いたね。まるで俺の言葉に返答したかのようだった。
「青い石?なんのこと・・・」
そこで考えると思い当たるフシがあった。
5つか6つのころだったかな?庭で綺麗な石を見つけてね。
持ち帰って部屋に置いといたはいいが、捨てるに捨てられない。
そうしてとうとう今も部屋に飾ってある。
「どこへ石を埋めるんだい」
「山・・・山ニ・・・埋メル・・・ンダ・・・」
まいったね。とうとう会話が成立した。ここまできたら引き下がれない。
しかしそろそろ恐怖心なんてものが浮かび上がってくる。
「山・・・山ってぇと近くの山でいいのかい」
「・・・ソ・・・ウダ・・・明日マデ・・・ニ・・・」
そこまで言うとテレビは普通のチャンネルに戻った。
チャンネルの様子から見てもさっきまでのような言葉は聞こえてきそうにない。
ここまできて恐怖を感じた。あの様子を見るからに、霊の類に違いあるまい。
山に石を埋める?明日までに?明日までに埋めなければどうなるのだろう。
やはり呪われてしまうのだろうか。次々と不幸が訪れ、そして・・・。
そんなことがあってはならない。別にとっておくほどのものでもないのだ。
さっさと埋めちまおう・・・・・・。
そうして埋めちまったのさ。あれっきりテレビは正常だな。
石ってのは霊が憑きやすいだなんて言うしな。君も気をつけたまえ・・・
―――――――――――
「ふむ、この石で間違いない」
それは、男が石を埋めた山にいた。
大きく、丸い。そしてすこしばかり浮いている。俗に言うUFOで間違い無いだろう。
そして乗っているのは・・・大きな目、鼻はなく、耳は大きく尖っている。
宇宙人というやつに間違いなさそうだ。
「ちょっと待っていてくれ」
そういうと彼は奥の部屋に入った。残された2人は話し始めた。
「しかし変わった種族だよ。地球人なんてのは」
「まったくだ。なんでもかんでもレイとやらのせいにして自分から勝手に焦り始める。
そして俺たちの思い通りに動いてくれるんだ。世話のないことだ」
「昔から使われている方法だが最初に考えた奴にはつくづく関心するよ」
「地球人も自分たちの信じるレイとやらが宇宙人の仕業とは思うまい」
「やつらがこの事実に気付くのは何年後だろうか」
「さぁ。10年、20年、ひょっとすると100年経っても気づかぬかもしれない」
「まぬけなことだ。気づいた時のやつらの驚く顔を拝むのが楽しみでならない」
そのとき、ドアが開き先程の彼が入ってきた。
それと同時に2人のうちの1人がこう尋ねた。
「一体、その石は何に使うんだい」
すると彼は突然、神妙な顔でこう語り始めた。
「あれは昨日のことだ。テレビを見ていたら急に・・・・・・」