4月の下旬から始まった田植えもようやく終わり、ようやくブログを更新できるようになりました。そんな中、5月29日に俗に「農政の憲法」と呼ばれる「食料・農業・農村基本法」が改正されました。これについては「罰則・罰金」というパワーワードに引っ張られてとかくそちらの議論がなされますが、憲法というだけあって関連範囲があまりにも広く、それぞれの項目で議論が出来る内容です。

 

その中に肥料や飼料といった生産資材の海外依存の現状を改善するための方向性も定められました。そういったタイミングで、前回まで書いた「卵の黄身が白くなる」を一本の動画にまとめて配信しました。30分を超える対策となってしまいましたが、良かったら時間に余裕があるときにご覧ください。

 

 

 

 

まず初めに、下の写真を見てください。

黄身の色が違う卵がありますが、どちらが美味しいと思いますか?

(ネットで拾った写真なので、著作権にかかるようでしたら削除します)

 

 

恐らく多くの方は、黄身が黄色い左を選ぶのではないでしょうか? 更に言えば、黄色同士で比べた場合はオレンジや赤っぽい方が選ばれるのではないでしょうか?

しかし、各所で指摘されている通り、黄身の色は与えたエサの種類で変わるもので、栄養素や味が大きく変わることはないとのことです。なぜこんな質問をしたのかというと、指摘したいのは個人レベルの味の好みのことではなく、「なんとなくの印象」が生産や販売に影響を与えているということを指摘したかったからです。

 

生産者としては同じコストをかけるなら売れるものを作るのが当然で、卵の例を使うなら黄身が黄色い卵を生産します。黄身を黄色くするためには餌はトウモロコシがメインとなり、更に赤みを付けたいならパプリカやマリーゴールドなどを混ぜると言われています。これらの飼料の多くは輸入に頼っていることから、生産コストが上がって生産者の利益を圧迫しています。

データを示すと、配合飼料の原料の約5割はトウモロコシです。2022年のトウモロコシ輸入量の約6割はアメリカなので、肥料の時のような貿易相手としての不安感はありませんが、トウモロコシの国際価格はウクライナ侵攻等の影響により、2023年1月時点で前年同月比で20%上昇していることから、飼料価格の上昇は避けられません。

 

ここで前回紹介した「食料安全保障強化政策大綱」を思い出していただくと、「飼料作物の生産面積32%拡大」という項目がありました。また、輸入原材料の国産転換として「2030年までに2021年比で小麦+9%、大豆+16%、飼料作物+32%

米粉用米+188%などの生産面積拡大」という目標も立てています。ここから小麦と大豆の生産拡大目標よりも米粉用米が遥かに野心的な目標を掲げているのが分かります。これには仕方がない面があって、そもそも小麦や大豆は「冷涼乾燥」な環境を好む植物であり、稲は「温暖湿潤」な環境に向いた植物であるので、普通に考えれば日本で栽培するには稲が向いているという結果なります。もちろん、国内でも地域ごとに気候条件は違うし、品種改良の成果もあるので一概には言えないわけですが、国の政策という規模感と主食用米の消費量低下という現状を鑑みれば、やはり「飼料用米の増産」という結果に行きつきます。

 

そこで最初の質問に戻ります。「飼料原料の国産化」=「飼料用米の増産」に向かう以上、これからはだんだん卵の黄身が白くなっていきます。そうなったとき、消費者側の「黄身の色は黄色が濃い方が美味しい」という思い込みが捨てられるかどうかに、生産者(養鶏業者だけでなく米農家も含めて)の生存がかかっています。おいしさの指標は人それぞれですが、何時どこで誰が広めたかも分からない「なんとなくの印象」をどうやって払拭するかが、飼料原料の輸入超過の現状を改善するカギとなります。

 

さてここまで、食料自給率の問題だけではなく、そもそも食料を生産するための肥料の確保が厳しい現状であること、国も対策を取ろうとしていますが時間的に間に合わない可能性があるということ、そして消費者側も価格上昇に備えるだけではなく、意識改革も必要であるということを述べてきました。

その上で最後に言いたいことは、ここに肥料の使用を大幅に抑えられる「アクアポニックス」という農法がありますよ、ということです。アクアポニックスなら少なくとも窒素(尿素)は不要です。食用を考慮しなければ、魚には何を食べさせてもかまわないので、特別にエサを輸入する必要もないでしょう。そう考えると、今後の情勢においてはアクアポニックスの存在価値は高いと言えます。ただ、問題は国の政策に乗っかれるかどうか。有機栽培面積の拡大方針の中で、アクアポニックスが農法として認められるかなのですが…

先日の2月27日、政府は「食料・農業・農村基本法」改正案を閣議決定しました。

地上波ニュースでは取り扱いは少なく、見出しとしては「食糧安保強化のため、政府が生産者に生産拡大を要請でき、従わない生産者には罰金を科す」といった感じで、中身の解説は特にやっていなかったと思います。(全てを確認したわけではありませんので悪しからず)

 

 

視聴者側からすれば「罰金」というパワーワードから、「ぼんやりと必要だとは思うけど、急にどうした?」という印象だったかもしれませんが、法改正が必要になった背景は前回のとおりです。高名なシンクタンクがこの法律改正の背景を解説しているものがありますが、歴史的背景と政治問題からの視点の物が多く、意外にも私が指摘している話があまりないのが気になりますが……

 

改正内容は、以下の3つのポイントが挙げられます。

①食料安全保障の抜本的強化

②環境と調和のとれた産業への転換

③人口減少下における生産水準の維持・発展と地域コミュニティの維持

これらの内容について、詳しくは首相官邸が出している資料がありますので、こちらをご覧ください。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/pdf/20231227kaisei_gaiyou.pdf

 

項目それぞれについては、立場や視点の違いから各々異なった見方ができるとは思いますが、私が注目しているのは「過度な輸入依存の低減」という点で、改正案の中では食料そのものだけでなく、肥料などの生産資材も含まれています。この点については2022年12月に決定した「食料安全保障強化政策大綱」が元になっているものと思われます。

これによると、生産資材の国内代替転換の目標として、

①化学肥料の使用量を20%低減

②堆肥・下水汚泥資源の使用量を倍増し、肥料の使用量(りんベース)に占める

 国内資源の利用割合を25%(2021年)から40%まで拡大

③有機農業の取り組み面積を2.5万ha(2020年:2.5万ha)から6.3万haに拡大

④飼料作物の生産面積を32%拡大

などを、2030年までに達成するとしています。

https://www.maff.go.jp/j/kanbo/attach/pdf/anteikyokyukiban-4.pdf

 

このうち①~③が肥料の海外依存度の低減に向けた対策になっていますが、あと6年のうちに達成できるのかといえば、現場の空気としては甚だ疑問です。

①については肥料自体を減らして今と同等のもの(質・量)を栽培する技術として、ICT技術を活用したスマート農業での効率的な肥料散布などによる化学肥料の使用量の削減など、前向きな技術開発などで対応し、④については差し当たり飼料米の増産で対応するのかと思われますが、②③については結構ハードルが高いと思われます。

 

②について、まず下水汚泥資源については国交省の取り組みの資料を見ると、現状は下水そのもののネガティブイメージ、重金属の含有リスク、リン回収施設のコスト高などの課題により、肥料としての活用は全汚泥発生量の1割にとどまっているとのことで、これを解決するのは容易ではありません。

https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001517796.pd

 

 

堆肥の活用についても、そもそも堆肥の元を作る酪農・畜産農家が減少傾向の中、更に牛を減らすことに補助金をつける事業を2023年3月から始めるなど、目標と逆行するような政策が行われていたりします。また、堆肥をベレット化して流通や使用の簡易化を図る計画もありますが、まだまだ成果は出ていません。

https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/attach/pdf/haisetsuyuko-7.pdf

 

③の有機農法面積を約2.5倍にするという目標もなかなか厳しいと思います。

行政や農協に紐づいている多くの農家に慣行農法から有機農法への一部転換を勧めるなら、結局は補助金になると考えられます。ただし、慣行農法から有機農法に転換するということは除草・防虫・予防などの労力が増えることを意味するので、農家からそれに見合う補助金の額と評価される必要があり、農業予算の増大は避けられません。一方、すでに有機農法を実践している農家に規模拡大を勧めることもあるでしょうが、実現するかどうかは各農家の経営判断と、これまでの行政との関係性次第(就農時の支援の有無など)になると思います。

最後に新規就農者の募集支援に際し、有機農法実践者を優先する方法も考えられますが、現状は「実質、慣行農法しか認めない」という対応であることは、私の経験談で以前紹介したとおりです。この方針が今回の法改正の後、変更されるのかどうかは現状では不明であり、今後とも注目したいところです。

 

ここまでこの目標の達成には高いハードルがあるということを述べてきましたが、それに加えて、目標達成時期を2030年としているのも心配です。というのも、台湾有事発生の可能性が2027年までにという予想があり、それに間に合っていないという点です。

なぜ、「2027年までに発生」なのかと言えば、習近平がそれまで2期10年までと規定していた中国共産党国家主席の任期を、憲法改正してまで3期目も就任した以上、何かしらの歴史的レガシーを達成する必要があり、それが台湾統一であると予想されるからであり、3期目満了となる2027年までに侵攻するのではないかとの予想です。その予想が盛んに指摘されたのが憲法改正と3期目就任があった2022年ですが、それから2年経った今も基本的な方針に変更はないとみられています。

ということは、あと2.3年のうちに尿素とリン酸の確保をどうするのかは喫緊の課題であることが分かります。政府が法改正で目標を設定すること自体は正しい方針だと思いますが、時間的に間に合わない可能性があります。食料自給率を心配することは当然としても、そもそも肥料が無ければ、その「自給」もままなりません。

 

今回は国の政策という大きな視点で考えてみました。次回はこのテーマの最後に、個人レベルのもっと小さな視点で考えてみたいと思います。

文章を書くことは嫌いではないのですが、心の余裕がないとできないものです。

ここまで地震による被害の復旧を優先的に行ってきて、ようやく終わりが見えてきたところで、やっとブログを書く気力も生まれてきました。復旧作業の様子については、動画を配信していますのでご覧いただけると幸いです。

 

 

さて、早くも2月が終わりに向かう頃です。3月になれば本格的に春を迎え、農作業を始める方も多くなってくることでしょう。露地栽培で始めに行う作業といえば、農地を耕して栽培作物に合わせた元肥を入れるという所でしょうか(慣行栽培なら)。

しかし、昨年から農薬や肥料の価格が急騰してしまい、今年も高止まりのままかと思われます。農家としては頭を抱える事態であり、厳しい状態が続きます。

その原因はマスコミでは「ウクライナ侵攻のため」とふんわり触れていただけでしたが、実際はそれだけではありません。

 

肥料の三要素と言えば、窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)ですね。ただ、その原料は世界的に遍在しており、国内ではほぼ産出されないことから、どれも限られた相手国からの輸入に頼っています。

(以下のデータは『令和5年版食料・農業・農村白書』より、2021年の実績)

①窒素の元となる尿素は95%が輸入で、60%がマレーシア、25%は中国から。

②リン酸アンモニウムはほぼ全量が輸入で、76%が中国、18%はモロッコから。

③塩化カリもほぼ全量が輸入で、80%がカナダ、9%はイスラエルから。

 

塩化カリの輸入先は2020年ではカナダ59%、ロシア16%、ベラルーシ10%だったのですが、翌年にはロシア・ベラルーシ共に3%まで減少し、代わりにカナダ・イスラエルからの輸入量が増加しています。これは確かにウクライナ侵攻による影響と言えます(なお、輸入量は約8万トン増加)。

一方、中国に頼っている尿素とリン酸は、2021年秋以降、中国は国内需給のひっ迫を理由に輸出規制をかけられました。前年との比較をすると、尿素はマレーシア47%、中国37%だったのをマレーシアからの輸入量を増やして対応し、リン酸は中国90%、米国10%だったのを、新たな輸入先としてモロッコを開拓することで対応しています。ただし、両方とも約4万トンの輸入量が減ったことから、2022年の肥料の高騰の原因となったと考えられます。なのに、マスコミの報道ではウクライナ侵攻は指摘しても、中国の輸出規制はあまり言われていません。なぜでしょう……

 

 

この現状を踏まえて、国際情勢を鑑みると不安が増してしまいます。

イスラエルの問題が浮上したとはいえ、主な輸入先のカナダは安定的な友好国なので塩化カリは良いとして、問題は中国からの輸入に偏重している尿素とリン酸です。今は国内需給を理由に輸出規制をしているところですが、あの国の言う理由などあってないようなもので、我が国への外交的圧力をかけるために輸出停止をする可能性は十分にあります。特に昨今は台湾有事が現実味を帯びており、そうなれば肥料原料だけでなく、全ての輸出入が止まることでしょう。そうなれば尿素とリン酸は輸入での確保が極めて難しい状況となってしまいます。

 

台湾有事が起こった場合、主な戦域は東シナ海及び南シナ海となります。尿素の輸入先第1位のマレーシアは南シナ海沿岸国なので輸送ルートが制限され、大幅な迂回が避けられないでしょう。そうなれば尿素の価格はさらに高騰します。また、マレーシア政権の判断次第では我が国への輸出を停止する可能性もあります。

リン酸は輸入比率を考えるとさらに深刻です。輸入先として新たに開拓したモロッコですが、アフリカからということで元から輸送コストが高いことに加え、輸送ルートとなるスエズ運河がフーシ派からの攻撃により使えなくなっていることから、今後は更なる輸送コストの増大が見込まれています。

 

 

こう考えると、普通に国内で生活していると他人事に聞こえていたニュースが、実は身近なことだったことに気づきます。政府・農水省も危機感を持って対応していると思われます。次回はそちらをみていきます。

明けましておめでとうございます、と心からお祝いできない状況ですね。

まずは能登半島地震で被災された方々にお見舞い申し上げます。

 

当地は能登半島より距離はあるものの、震度5強という今までで最も強い地震を受けることになりました。これまで中越地震、中越沖地震、東日本大震災など、震源が近い大きな地震では震度5弱が最大で、大きな揺れは感じたものの直接的な被害は受けなかったのですが、今回はそれを上回る揺れによって被害が生じてしまいました。幸い命に関わる被害ではなかったものの、農場に被害が出てしまい、生産活動を止めざるを得ない状況になっています。

 

まず、アクアポニックス設備の核となる魚タンクが大きく傾いてしまいました。

地震により中の水が大量にあふれてしまい、主に砂で作った地盤があふれた水によってえぐれて流れてしまったことが原因です。幸い、魚たちは生存していてくれましたが、現状は水を循環することができない状態であり、現在栽培しているほうれん草に水を送ることができていません。

 

次に、主にミントを栽培していた自作の棚が地震の揺れで倒壊してしまいました。

それこそ完全に崩壊してしまったので、すぐには復旧できない状況です。

 

今回の地震による被害の大きなものはこの2つです。差し当たり、魚タンクの復旧をしようと考えていますが、そのためには一度すべての水を抜いて魚を移動し、タンク自体も一旦撤去して地盤の整地を行う必要があります。大がかりな作業となりますが、これをやらなければ始まらないのでがんばります。

 

前回、ハーブの資格を取得したという報告をしたので、年明けからそちらを中心に栽培や活用情報を発信しようと考えていましたが、こんなことになるとは思ってもみませんでした…

 

※被害の詳しい状況については動画を配信しているので、ご興味のある方はご覧ください。

https://youtu.be/Pm9lQgPe3ro