文章を書くことは嫌いではないのですが、心の余裕がないとできないものです。

ここまで地震による被害の復旧を優先的に行ってきて、ようやく終わりが見えてきたところで、やっとブログを書く気力も生まれてきました。復旧作業の様子については、動画を配信していますのでご覧いただけると幸いです。

 

 

さて、早くも2月が終わりに向かう頃です。3月になれば本格的に春を迎え、農作業を始める方も多くなってくることでしょう。露地栽培で始めに行う作業といえば、農地を耕して栽培作物に合わせた元肥を入れるという所でしょうか(慣行栽培なら)。

しかし、昨年から農薬や肥料の価格が急騰してしまい、今年も高止まりのままかと思われます。農家としては頭を抱える事態であり、厳しい状態が続きます。

その原因はマスコミでは「ウクライナ侵攻のため」とふんわり触れていただけでしたが、実際はそれだけではありません。

 

肥料の三要素と言えば、窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)ですね。ただ、その原料は世界的に遍在しており、国内ではほぼ産出されないことから、どれも限られた相手国からの輸入に頼っています。

(以下のデータは『令和5年版食料・農業・農村白書』より、2021年の実績)

①窒素の元となる尿素は95%が輸入で、60%がマレーシア、25%は中国から。

②リン酸アンモニウムはほぼ全量が輸入で、76%が中国、18%はモロッコから。

③塩化カリもほぼ全量が輸入で、80%がカナダ、9%はイスラエルから。

 

塩化カリの輸入先は2020年ではカナダ59%、ロシア16%、ベラルーシ10%だったのですが、翌年にはロシア・ベラルーシ共に3%まで減少し、代わりにカナダ・イスラエルからの輸入量が増加しています。これは確かにウクライナ侵攻による影響と言えます(なお、輸入量は約8万トン増加)。

一方、中国に頼っている尿素とリン酸は、2021年秋以降、中国は国内需給のひっ迫を理由に輸出規制をかけられました。前年との比較をすると、尿素はマレーシア47%、中国37%だったのをマレーシアからの輸入量を増やして対応し、リン酸は中国90%、米国10%だったのを、新たな輸入先としてモロッコを開拓することで対応しています。ただし、両方とも約4万トンの輸入量が減ったことから、2022年の肥料の高騰の原因となったと考えられます。なのに、マスコミの報道ではウクライナ侵攻は指摘しても、中国の輸出規制はあまり言われていません。なぜでしょう……

 

 

この現状を踏まえて、国際情勢を鑑みると不安が増してしまいます。

イスラエルの問題が浮上したとはいえ、主な輸入先のカナダは安定的な友好国なので塩化カリは良いとして、問題は中国からの輸入に偏重している尿素とリン酸です。今は国内需給を理由に輸出規制をしているところですが、あの国の言う理由などあってないようなもので、我が国への外交的圧力をかけるために輸出停止をする可能性は十分にあります。特に昨今は台湾有事が現実味を帯びており、そうなれば肥料原料だけでなく、全ての輸出入が止まることでしょう。そうなれば尿素とリン酸は輸入での確保が極めて難しい状況となってしまいます。

 

台湾有事が起こった場合、主な戦域は東シナ海及び南シナ海となります。尿素の輸入先第1位のマレーシアは南シナ海沿岸国なので輸送ルートが制限され、大幅な迂回が避けられないでしょう。そうなれば尿素の価格はさらに高騰します。また、マレーシア政権の判断次第では我が国への輸出を停止する可能性もあります。

リン酸は輸入比率を考えるとさらに深刻です。輸入先として新たに開拓したモロッコですが、アフリカからということで元から輸送コストが高いことに加え、輸送ルートとなるスエズ運河がフーシ派からの攻撃により使えなくなっていることから、今後は更なる輸送コストの増大が見込まれています。

 

 

こう考えると、普通に国内で生活していると他人事に聞こえていたニュースが、実は身近なことだったことに気づきます。政府・農水省も危機感を持って対応していると思われます。次回はそちらをみていきます。