

さてヤングでナウい今の若者達はマクロスの原点である1stマクロスに関してその発祥と生い立ちをご存知であろうか。この作品はTV放送時においてかなり画期的な作品であった事は言うまでもない。作中に登場する魅力あるメカやキャラクターのみならず、そのストーリー自体がそれまでの子供向けアニメとは一線を画していたのである。
ガンダムの富野監督の1stガンダム製作裏話からも解る様にアニメ製作には玩具スポンサーの存在は不可欠でスポンサーの判断や介入が製作現場に強い影響をもたらしている事は今も変わりはないようだ。つまり両者はギブアンドテイクの存在であり、見ようによっては一体化していると言ってよい。サンライズ系のガンダム以前の作品は劇中の主人公メカの合体変形シーンにはオープニング曲がまるまる1コーラス入っており、我々熱心な幼い視聴者は玩具メーカーの思惑通りに玩具のギミック的な魅力を知らず知らずのうちに頭の中に刷り込まれていったのである。
この当時アニメ製作会社では企画を通す際、A案とB案の2項を作り会社上層部がどちらかを採択すると言う手法が一般的であったらしい。製作現場サイドの意図としては現場が通したい案と箸にも棒にも掛からない愚案を出して上層部に本命案を採択させる事が常套とされていた。今をときめく”超時空要塞マクロス”は実は愚案の方であった。現場サイドはかなりシリアスで暗いイメージの作品を作りたがっていたが、会社上層部はスポンサー的なしがらみもあり、この奇想天外荒唐無稽の”マクロス”の製作に舵を切る事になる。
客観的に考えれば1999年のノストラダムスの大予言の年に宇宙から落下してきた巨人の宇宙船がきっかけで異星人の戦争に巻き込まれた挙句、中華飯店の娘が歌を歌って生物兵器化した異星人を撃退するなどと真面目に考えて出てくるアイデアである筈がない。しかも明らかに少年向けではない、昼メロ真っ青の男女の三角関係のエピソードがだらだらと最終話まで継続したのである。劇場版”愛・憶えていますか?”の中には明らかに一条少尉と早瀬少佐の肉体関係を匂わせるシーンまである。端的に言えば子供向けアニメとしては最初から破綻していたと言わざるを得ない。その要因たる所以の幾つかを列記してみよう。ちなみに公開された”愛・憶えていますか?”と”マクロスFイツワリノウタヒメ”の女性キャラのサービスシャワーシーンにおいては画面上バストトップ(乳首)が露出している。
・バルキリーの変形速度
このF14トムキャットもどきの戦闘機が飛行機の姿から人型に変形完了するまで1秒掛からない。変形プロセスを見せるどころか戦闘中に敵に隙を見せまくっても何故か被弾しないと言うそれまでのスポンサー的な矛盾を初めて克服した。あまりに早い変形に幼い視聴者達はこの瞬間を逃すまいと画面に釘付けになったのである。
バルキリーは現在の河森正治監督がデザインしたもので、慶應義塾大の秀才の頭脳の賜物とまで噂された。当時河森氏は大学生であったが、スタジオぬえのスタッフとしてマクロスの制作に携わっていたのである。この変形パターンはルービックキューブ顔負けの革命的発案であり、中間体型の”ガウオーク”での高機動戦闘は幼い視聴者の大脳にしっかり焼き付けられたのである。
ちなみにバルキリーは巨人との格闘戦の為に変形機能を有しているとの設定であったが戦術的にかなり疑問が残るのは万人の知るところである。VF-25メサイアはF22ラプターがモチーフになっているように見える。
・マクロス主砲発射体制 人型の理由(拾った物を使うからです)
TVシリーズ”ブービートラップ”にて落下時の損害を修理し、地球統合軍の宇宙船として復活したマクロスは進宙式当日のシステム起動時に異星人によるトラップが発動。衛星軌道上に偵察に来ていた巨人の宇宙船を主砲にて撃破してしまう。直後に巨人の反撃を受けた為、緊急発進を試みるが”巨人達のオーバーテクノロジー”である反重力システム本体が甲板を引きちぎりながら天空に飛び去っていく。結局通常ロケット噴射で離陸したマクロスはろくな反撃もする事なく、月の軌道上までフォールドで脱出を試みるもシステム制御が出来ずに冥王星の辺りまで暴走してしまう。”愛・憶えていますか?”の劇中ではエンジントラブルの一言で済まされているが、実はフォールドシステム自体が艦体から周囲の配管ごと消滅しており、エンジンのみ遠いところに吹っ飛んでいったのである。エンジンがかつてあった空間が難民の居住区となり、巨大な市街地が形成される。
ロケットエンジンのみで太陽系の外周からのこのこと地球を目指している間に地球は巨人の攻撃を受けて全滅してしまう。マクロスは開戦のきっかけを作り、挙げ句の果てにノアの箱船になってしまうと言うもの凄いご都合主義の夢物語的存在である。このエンジン消失のせいで主砲へのエネルギー供給回路を失った為に艦体そのものを変形させてバイパス回路を形成させて主砲を運用している。天空に消えて行く反重力システムを見上げながら嘆く早瀬少佐の”拾った物を使うからです!”の叫び声に幼い私が大爆笑したのは言うまでもない。
・ダイダロスアタック(アームド1・2)
TV版のマクロスの姿を最初見たときにある種の違和感を憶えた。人型に変形したマクロスの両腕にあたる部分が明らかに海上を航行する船の船体そのものであったせいである。デザインした人間の感性を疑わざるを得ない異様な雰囲気に幼い私はかなり不快感を覚えたものだ。この宇宙的でない船の正体は地球統合軍所属の航空母艦である。マクロスがフォールドで脱出した際に巻き添えに冥王星まで連れてこられた。本来はアームド1・2と言うバルキリーの発着の為の空母があった筈なのである。TV版ではアームド1・2は衛星軌道で巨人に撃破されているが劇場版ではめでたく腕の部分に納まっていた。何故にこんな物があるのか?設定によれば宇宙空間でバルキリーの高機動戦闘では燃料が直ぐに底をつき、漂流してしまう事態が想定されているので空母がマクロスから分離してガス欠のバルキリーを回収しに出る事になっている。
TV版マクロスの破天荒さはこの航空母艦(ダイダロス)の艦首にピンポイントバリアを張り、敵艦に正拳突きの如くめり込ませ、甲板に配置されたバトロイドの砲撃で敵艦内部から破壊すると言う非常識極まりない戦法によく表現されている。
ちなみにマクロスF劇場版のSMS艦隊にはこの戦法が1stのオマージュとして引き継がれている。
・人員補充のないスカル小隊
”愛・憶えていますか?”を見ていれば解るが、物語中盤にスカル小隊の隊長フォッカーが戦死。その後、柿崎も戦死。マキシミリアン・ジーナスはミリア936に一目惚れをして敵軍に寝返る。クライマックスの最終戦ではスカル小隊は一条中尉が一人だけになっている。隊長機のコードネームは”スカル1”又は”スカルリーダー”であるが、たった一機で小隊長って言われても・・。まるでリストラ寸前の窓際族ではないか。マクロスFでも主人公が所属する部隊はスカル小隊であるがマーキングが人の骸骨から牛(山羊?)の頭骨に変更されている。
・リン ミンメイ (美樹本晴彦氏の大学ノートの隅っこ)
この物語のヒロインにして大銀河的歌姫のルーツは河森正治監督と同じく当時、慶応義塾大の大学生でありスタジオぬえでキャラデザインを担当していた美樹本晴彦氏の大学講義のノートの隅に落書きされたチャイナドレスの少女が元と言われている。美樹本氏の描く美人画はかなり秀逸な物で私自身、彼の小作品集を所有していた。独特のタッチはそれまでの人物デザインには無かったものである。大銀河の初代歌姫は非凡なる才能を持った大学生の授業の暇つぶしに生まれた産物であったのである。それにしてもミンメイが落書きが元になっている事から解るように如何に企画段階でマクロスが当て馬であったが推測されよう。
この手のネタは数え上げればきりがないが、確実に言える事はこの作品はかつて秋葉原文化だのヲタ文化だのと言った言葉がまだ無かった頃に天才的な二人の秋葉系ヲタの河森正治氏と美樹本晴彦氏がスタジオぬえと言う場所で非凡なる才能を発揮した結果が今に続いていると言う事である。
マクロスはヲタが作ったヲタの為のアニメであり、決して子供向けの作品ではないと言う事を私は断言する。