ナンバー 236 話は続くよどこまでも その3 完結編 | 堀切光男のエッセイ畑

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主にエッセイ。

去る5月7日 から 書き始めた

ナンバー221の「話は 続くよ どこまでも」と  「 ナンバー225 のその2」は

「ナンバー 236 その3 」にして やっと完結に漕ぎつけました。

 

 

奥武蔵の 登山道には この様な峠 が沢山有ります。

 

 

Y S 11 プロペラ旅客機 から始まった話は トイレから 腸の話につながり、

やがて ウンチの話に 堕ちましたが、この辺りで きれいに流して 終わり たいと思います

 

ここまでの 話は

登山中に便意をもようし、峠を少し離れたところで キジ撃ち を終えた 私は

土の中に 隠すように埋まっていた割れた 古伊万里の大皿を 見つけました。

なぜ こんな所に?

 

 

「ナンバー 236話は 続くよ どこまでも その 3 完結編」

 

昭和 二十五年 五月二十一日 大安のその日 山奥の小さな村には、

 朝早くから五月晴れの爽やかな青空が広がっていた。

奥の仏間に 並んで座った 祖父母の前に 白無垢の花嫁衣装に身を包んだ

大宮 民子 は両手をつくと、ゆっくりと角隠しの頭を下げた。

 

「おじいちゃん、おばあちゃん長い間 お世話になりました。

二十一になる 今日まで私を育ててくれて 本当にありがとう御座いました。

私は 今日 嫁ぎます。

どうぞ、お二人仲良く いつまでも長生きしてね」

 大粒の涙が ほろほろと こぼれ落ちた。

 

「あらあら、 せっかくの花嫁衣装が濡れてしまうわよ」

と ハンカチを渡し乍ら

「きれいだよ、本当に きれい。おととし死んだ お前の母親も生きていれば・・・・」

と 言葉を 詰まらせた。

 

「ほうじゃのう 、おまえの父が戦死したのが十七年じゃったから、民子はまだ

十三ぐらいやったのう。

その後はホントにお前が大きくなるのだけを 楽しみにのう・・・・」

 

「そうよねえ、こんな山奥に嫁に来てくれて、息子が戦死した後は

民子を連れて出戻っても わたしらなーんも 言えんのに、私らの為に残ってくれたんよ。

さあ お父さんと お母さんに 花嫁姿を見せて上げてね」

 

と 仏前に導いた。

「お父さん おかあさん 嫁って来ます。おじいちゃんとおばあちゃんの事

見守っていてね」

また、 涙が とめどなく あふれ出た。

 

つづく

 

「民子 はん。そろそろ 支度出来たんかのう」

庭先から 民子の 伯父、 松吉の声がした。

「まつきちか? 上がってやっ、 今日はほんに 世話かけるのう」

祖母に招かれた 松吉、縁側から 上がりこむと

「うおう、民子はん きれいやなあ 。おじいとおばあに花嫁衣裳観てもろたんか。

父ちゃん、母ちゃん  良かったのう孫の  こんな綺麗な花嫁姿見せて貰えて・・・」

 

「ほんに よう、おれら 年寄はもう峠を越えられん。街の結婚式にも出られん。

でもよう、こうして綺麗な花嫁姿を見る事が出来て・・・。

これの 父親が 生きていたらどんなに 喜んだ事かのう」

と、チンと 鼻を かんだ。

 

松吉が遠い目をして おじいの話を受け継ぐ

「そうじゃのう、弟が 先のミッドウェー海戦で瀕死の負傷をしたのが、十七年の六月六日。

何とか日本に帰ってこれて 街の病院に入れられたが、もう助からんのは皆 解っていた・・」

 

「ほうじゃったのう、そんでもベッドの上で 三か月も よう生きとったわ。

交代で 街の病院に 泊まり込むのに何度 峠を越えたじゃろのう・・・・・。

あれは・・・・突然、 息子がかぼそい声で  スイカが食べたい 言うたのはもう、十一月も近い頃やった」

 

「そうや これはもういよいよ あかんとおもってのう、親父と二人でスイカを探し回ったのう。

今はハウスもの ゆうスイカもあるようじゃけどあの頃は季節しか食べられんし、

いくら探してもスイカは見つからんかった」

 

じっと聴いとった おばあが 割り込んだ

「二人が 困った困ったゆうんで、ワシが 知恵を出しての。

種を取ろうと 庭先に残していた まくわ瓜を砂糖で甘く煮詰めての、弁当箱に入れて持たせたんじゃ」

 

松吉が 後を続けて

「スプーンで おかんの作ったまくわ瓜の煮たものを  スイカやでと 口に入れると・・・

ゆっくり ゆっくり 噛みしめてよう・・・。」

 

民子がしぼり出すような声で

「知ってる。 覚えてる。その日は 私も 一緒だったんよ。

お父さんは 包帯で巻かれた目から涙を流して、「おいしい 、 ありがとう」

とだけ言って ・・・・あとは 意識も遠くなって行って・・・」

あとは 嗚咽で声にならなかった。

 

つづく

 

四人が 手を取り合って わんわん 泣いていると 表から 声がした。

「おーい、親父 。なにしてんだよ。 早くしないと 日が暮れてまうでえ」

松吉の 長男と次男がしびれを切らしていた。

他にも村の四人が結婚式に参列してくれるので、総勢八人が峠を越えて町に出る。

民子はあわてて花嫁衣裳を脱ぎモンペに着替えるともう一度祖父母に別れを告げた。

「おじいちゃん、おばあちゃん 体にだけは気をつけてね」

「なあに、近所には松吉 家族もいるでよう。なあんも心配する事はねえよう。

それより、嫁入りに持たせてやるのが、昔からあった お皿一枚しか無いんですまんのう。

かんにんやで」

「なに言うてんの。古伊万里のお皿やで、値打ちもんや。ほんまにありがとう  おおきに」

花嫁衣装が入った行李を長男が、古伊万里の皿が入った木箱を次男が背負って

一行は峠を目指して出立した。

つづく

 

山道 の途中で 馬頭観音に手を合わす民子に 伯父の松吉が声をかけた。

「民子 はん、つかれたンと違うか」

「なーんも。 この道は 町の 小学校、中学校 を卒業するまで毎日通ったんやもん」

「そうやったなあ。 片道で 二時間はかかったじゃろ」

「うん、同級生のあきちゃんと二人 毎日 毎日 峠を 超えた。

いつだったか、冬で 帰りが遅くなった日があって、 峠の途中で真っ暗になってしまって。

懐中電灯 はいつも持っていたのであわて無かったけど、いきなり 上から 大きなイノシシが

走り 降りてきて、 あんときは 本当に恐かったわ」

 

つづく

 

 

一時間ほど 山道を登り一行は 峠の頂上に ついた。

ここで 小休止を とる事にし、各人 「よっこらしょっ」と腰を下ろした。

 

しばらくして、次男が 兄の傍に そっと近寄って小声で話しかけた

「あんちゃん、ちょっと 来てほしいんやけど」

そう言うと 次男は 背負子( しょいこ)を肩にかけ

「ちょっと、キジ撃ちに 行ってきます」と 林の方に歩き出した。

「じやあ 俺も」 と 兄が後を追った。

「どうしたんや?」 兄が 弟の顔を覗き込みながら 尋ねた。

木々の間から町を 見下ろせる所まで 来ると弟は

泣き出しそうな顔で振り向いた。

つづく