ナンバー 173 オラが村のあれこれ その5(ヤエンの話) | 堀切光男のエッセイ畑

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ヤエンの話

木材を運ぶ ロープウエイ「  ヤエン」

ヤエンは野猿からきているそうです、日本サルが谷を越える時

集団がつながって橋を作ったという伝説からです。

次兄が二十才頃にヤエンの仕事についていたので後日その話を聞く機会もありました。

次兄の左手小指はヤエンの事故で失くしました。

ドラムが回ってワイヤーロープが絶えず動いていて、そのロープとドラムの間に

巻き込まれたそうです。

その後ずっとヤクザに間違われて困ったと笑っていましたが、山仕事はいつも

危険と隣あわせ、大変な仕事なのです。

 

古くは丸太の川流し、その後はトラックでの運搬 どちらも川辺や道路まで

丸太を運んで来るのは ヤエンです。

二つも三つも山を越え谷を越えて山奥から、材木を運ぶのですからそのルート

も最短で、なるべく直線でなければなりません。

材木を積みだす出発点は山の麓、山の上の方から丸太を下して積み出し口に

集めます。

山を二つ越えるならその山の稜線にワイヤーロープを通す櫓を組ます。

櫓は丸太で組むのですが、その山が雑木林だったら、他から杉の丸太を十本程

運んで来なくてはなりません。

山から山の間だけでも二キロ それが二か所、終点まで二キロ、都合六キロ。

その太いワイヤーの重量を支える櫓は三角形を多用してしっかりと計算された造りです。

 

櫓が作られたら何十キロもの長さの針金を背負って二本を設置しながら、

山越え谷越えで丸太の積みだし地に向かいます。

この時地面に置いた針金が引っかから無い様又、後のメンテナンス様にヤエンの真下の

木は切られ仕事道が造られます。

同時に有線電話の回線も設置して行きます。

こちらは道路を横切る所は高く柱を立てますが、山の中は立ち木に引っ掛けて行くだけです。

無線を使わないのは、山が深く 電波が届かないのでトランシーバーも使えないからです。

 

此の頃には積み出し口も出来上がっています。丸太を何十本も使ってプラットホームを

造ります。そこに大きな地中に埋まった岩が有れば、それに結わえつければ良いのですが、

無い時は二メートル以上の深い穴を掘り、一抱えもある太い丸太を二本対にして、

斜めに立つように埋めます。

そしてその後方 にもう一つ同じものを造り、ワイヤーで連結します。

これが後にメインのワイヤーロープを結わえつける柱となる訳です。

今は滑車だけが取り付けて有ります。

谷を渡り斜面を登り、大変な思いをして針金が積みだし口に届くと滑車をくぐらせた

一本を もう一本と繋ぎ合わせます。 これで長い針金の輪が出来た訳です。

 

積み出し口で滑車を通された針金は、積み下ろし口に 設置されている

重油のエンジンもバカでかいワイヤーの巻き上げ機で巻き取られて行きます。

針金から少しづつ太いワイヤーに替えられて行き、最終にはぶっといワイヤー

が張られます。

ワイヤーが細い内にもう一本ワイヤーを送って置きます,メインの他にカラの

吊り器具を送り返すワイヤーロープが必要なのです。

他にも駆動用の細いワイヤーも必要です。

しかし、メインのワイヤーが張られた後はこれを利用して行程は一気に進みます。

 

 

下 奧の雑木林が切り開かれています。

その跡に杉の木が植えられます。 緑色は杉林。やがて伐採されるでしょう。

山を一度に全部杉林にすると根が浅い杉のせいで、土砂崩れが起きてしまいますから

この写真の様に雑木林も残してある訳です。

 

 

下 青い点線が過去にヤエンがあった処。

一か所で長い所は五年程は稼働していた。小学校に通う道端にもヤエンがあり、

冬などは必ず焚火で仕事前の 暖をとっていた。

石で囲ったかまどでは、真っ黒になった大きなヤカンが湯気をだしている。

熱い 灰の中から小枝で取り出したのは、丸いこぶし大の石、熱く焼けている。

これは「温石石  おんじゃくいし」と呼び、ボロ布などに包み カイロにした。

学校の帰りにこの石を返して置くと次の日の朝も 又温めてくれていたものです。

 

 

ヤエンの仕事を見ているのは楽しい。

大きなハネグルマについている取っ手を握り反動をつけて回してエンジンを始動させますが

冷え込んだ朝などは中々かからない、 すると焚火の中から火のついた薪を取り出し

エンジンや重油の入ったタンクに近づけます。

火が燃えうつら無いかと心配しますが、慣れたものでちゃんと距離はとっているようです。

やっと かかり、エンジンが温まると 有線 電話( となりの トトロに出てきたような形)で

積み出し口と連絡を取り、ヤエンを動かします。

向こうには朝早く二時間もかけて到着した仕事仲間がいる訳ですが、もっと山が深い

場所では、いちいち帰って来ないで小屋を立てて泊まり込んでいた様です。

そんな中、交代で一人 二人と帰る男がヤエンの丸太の上にまたがって山を

下りて来るのを見た事が有ります。

山と山の間付近は 二百メートルの高さは有りますから、落ちたら助かりません。

今では考えられないとても危険な行為ですが、落っこちたという話は聞きませんでした。

 

ヤエンには前後 二本の吊り器具で丸太が三本程ワイヤーでくくり付けられています。

長いこん棒で大きなネジ式のストッパーを叩いて外すと一気に丸太は転がり落ちます。

後はカラの二本の吊り器具を登り用のワイヤーに付け替えると、こん棒でおもむろに

太いワイヤーをぶっ叩きますこの振動が向こう側への合図で一々有線電話は使わない。

向こう側は丸太を積み込む分時間がかかる、しばらくして合図が来ると、二本ある

レバーを操作してギアを入れるとヤエンは動き出し五十メートル程後ろの次の丸太が

下りて来る。

ヤエンを知らない人には中々伝わらないかも知れませんが現代のケーブルカーは

終着駅に着くとそのままの態勢でバックをするような形で下りて来ます。

ヤエンは滑車でぶら下がっているのは同じですが、バックはしないで,上り 下り

二本のワイヤーロープが張られており一方通行です。

スキー場のリフトは距離が短いので、ワイヤーロープ自体が動いていて

下のリフトは固定されたまま くるりと回るとそのまま下に下りて行きます。

昔,リフトからどうしても降りられなかった友人は又下までリフトに乗ったまま、

下りて行きましたが、丸太を積んだり降ろしたり 又、五十メートル毎に止める事、

五年程で終了して他の山に移る事を考えると設備にもお金はかけられませんし、

今、考えると昔のシンプルなシステムがベストだったのでしょう。

 

冒頭の写真、現在のヤエンは進化していて、リモコンで途中で停止させると

ワイヤーロープを降ろし下の丸太を吊りあげ,移動させます。

もっとも、吉野地方では、ヘリコプターを使って丸太を運んでいるようで、

今昔の差を見る思いです。