ナンバー60 怖い話(登山 中に) | 堀切光男のエッセイ畑

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主にエッセイ。

私たち夫婦は 二人とも霊感とか幽霊と言うものには余り縁がない。


こんな事があった。山歩きで二人 奥武蔵を歩いていると、道端にワラビが出ている。


摘み採っていると 某新聞社のカメラマンと名乗る男が現れて、ちょうどそこが


数年前の事件の死体遺棄現場だと教えてくれた。


ちょっと驚いたが 折角採ったワラビだしと、持ち帰って食べてしまった。


そんな私たちだが、一度だけ怖い思いをしたことがある。


四月のある日、飯能市石倉付近から大仁田山に入山した。


この山は余程ローカルなのか日曜日と言うのに、誰一人出会わない。


四十八曲がり峠を経て尾根道に出ると、三体のお地蔵さんが祀られた


板囲いの古い小屋があった。


先を行く妻が めずらしく素通りした。


「おやっ、いつもなら必ず 手を合わせて行くのに」と


小屋の前で立ち止まると、急に生暖かい風が私を包んだ。


草いきれが混じったようなムアーとした 空気だ。


尾根が少し窪んでいるので,風の通り道なのかなと思ったが、何となく嫌な胸騒ぎがする。


あわてて、妻の後を追った。


つづく


低山なのですぐに山頂に着いたが眺望も無く、直ぐに下山する事にする。


ふもとに車を止めてあるので、来た道を折り返さなくてはならない。


何となく二人とも無口になり 私は胸ポケットのラジオをつけた。


先ほどの小屋が近づくにつれ、言い知れぬ不安が増して来る。


あと数歩と近づいた時、いきなりプツンとラジオの音声が切れてしまった。


途端に背筋にぞ~と来た。


つづく


走り出したいのだが,妻の手前,我慢して小屋から顔を背けて速足で通り過ぎた。


「待ってよ」 妻が小走りについて来る。


二人が速足でやっと車にたどり着き、乗り込むと 止まっていた胸のラジオが


途端になり出して、飛び上がる程 驚いた。


妻が堰を切った様にしゃべり出す。


「あー、怖かった。口に出すのが怖くて黙っていたんだけど、ほら、 さっきの


お地蔵さんがあった所。 何かいやーな感じ しなかった?」


「えっ、お前も感じていたのか。 俺はお前が恐がると思って ずっと黙っていたんだが」


お互いに同じ様に悪寒がよぎっていたと知った、私たちは


あわてて、車を急発進させたのだった。