公募に応募 「おかえり 短文集」 石川県美川町の公募で 第三集に
平成十三年九月に 応募 入選しました。
(おかえりの一言が いえなくて)
妻の父親が末期ガンで入院したのは、 十五年前の初秋の頃だった。
私達夫婦は小さなラーメン屋を営んでいる。
昼間は看病に行けず、妻は夜間の付き添いを引き受け、
毎日店を閉めてから病院に通っていた。
ベッドの側で仮眠が取れるとはいえ、 苦しむ父親を前にどれ程の
睡眠が取れた事だろう。
二か月近くも経った頃には、妻がもうろうとしているのが私にも解った。
店の休みは日曜日。 土日は兄弟に代わって貰えるので、妻は
土曜の夜から月曜の朝まで 泥の様に眠っていた。
幼い娘二人には、どんなにか寂しい日々だっただろう。
私も洗濯や 子供たちの世話でイライラして、妻にやさしい言葉をかけられなくなった。
お互い 些細な事で口喧嘩を 繰り返してしまった。
「病人って看病する者が疲れた顔を見せた時、 逝ってしまうんだって」
父親が亡くなった時、そう言って後悔の涙を流した妻を見て私はもっと後悔した。
早朝に 帰ってくる妻を 「おかえり」と 何故やさしく迎えてあげられなかったのかと。
了
