鏡を見ながら髭を剃っているといつもあの時のことを思い出す。
エオラさんがラブホテルに行きたいと言い出し、無理やり連れていかれてことがあります。どういう経緯でそうなったのかよく覚えてませんが、彼女はお酒を飲んで酔っぱらうとやたらと外に出かけたがり、その流れで突然そんなことを言い出したのだと思います。
私は過去にラブホテルなんかに行った経験はないし、エオラさんも行ったことはなさそうでした。でも彼女は前から行ってみたかったのだとか言って、目星をつけていたと思われる近所のホテルに私を引っ張って突入しました。
部屋に入ってみると、想像していたようなどぎつい装飾などは一切なく、ちょっときれいな普通のホテルでした。
さて、どうしようか……。
とりあえず私は髭を剃ることにしました。エオラさんは私の髭でチクチクされるのが嫌いだったので、私も彼女に会うときはいつもすべすべに剃ってから行くのですが、この時はしばらく時間が経って伸び始めていたのです。
洗面所には備え付けのカミソリが置いてあったので、それを使って剃ることにしました。
ところがいつもと勝手が違ったせいか、あるいはカミソリの切れ味が悪かったのか、剃り終わってみると顔中血だらけになっていました。
血だらけの私の顔を見て彼女は悲鳴を上げていました。
高級ホテルというわけでもないので質の悪いカミソリを置いてあったのかもしれませんが、私の剃り方も悪かったのだと思います。
髭の濃い私は十代のころから毎日のように(毎日剃ると肌が荒れるので1日か2日おきでしたが)髭を剃り続けていながら、剃り方がヘタだったんですね。最初から逆剃り(髭の向きと逆)に剃っていたのです。その方が綺麗に剃れると思ってずっとそうしていたのですが、どうもそれがいけなかったようです。いつものようにお風呂に入って温めてから使い慣れたカミソリを使っていれば血だらけになることなんてなかったのですが……。
あとで調べてみたところ、髭の向きにそって順剃りするのが正しい剃り方なのだとか。そうすることで血も出にくくなります。
以来、髭を剃るときにはいつも順剃りするようになりました。
その後、ホテルではちゃんと楽しんで帰りましたよ。彼女とホテルに行ったのはその1回だけです。
私が彼女のところ(占い事務所のホワイトガーデン)に遊びに行ったときには時々その事務所のユニットバスでお風呂に入ることがあるのですが、私が入っているとエオラさんが頭を洗ってくれたり背中を流してくれたりすることもあります。お風呂の中で髭を剃ったりもするのですが、彼女にカミソリを渡して剃ってもらったこともあります。
自分の顔にカミソリを当てさせることで彼女のことを信頼しているということを示したかったのです。刃物を自分の肌に当てるのですから、信頼していなければできることではありません。
はじめは彼女も初めての経験だったので怖がっていましたが、慣れない手つきで剃ってくれました。もちろんラブホテルでの失敗を思い出しながら順剃りでね。
毎日髭剃りなんてめんどくさいんだけどさ。剃らないと彼女がうるさいんだよね。だから、今日も髭を剃る。
ほら、すべすべだよ。



