実は。
私達が手紙を受け取った時、既に督促は始まっていたのだ。
そう。
ダーリンの実家に、だ。
実家には、昼も夜もなく、日に何度も督促の電話がかかっていたのだ。
そりゃ借りているのが10社以上あったのだから、その大変さは容易に想像出来る。
もちろん24時間ひっきりなしということはないにしても、かなりの回数だったに違いない。
それで義母は義父に頼み、電話のコードを抜いてしまったのだ。
あの、電話が繋がらなかったりしたのはそういう訳だったのだ。
私達がそれを知ったのは、あれから1ヶ月ほど経ってからだった。
ある日。
義母が言いにくそうな顔で話しを切り出した。
「ちょっと…いい?」
『どした?』
「あんた、サラ金とかからお金借りてるんじゃないの?」
『…。』
義母は横の引き出しから、いくつかの手紙を取り出した。
ずらっと並べられた手紙は…
消費者金融からのものだった。
あまりに大量に届いた手紙、
得体の知れない複数の電話、
義母は不安にかられ、その手紙を読んでしまっていた。
ば…バレた。
必死に隠していたのに。
『…実は。』
ダーリンは事情を話した。
友人に頼まれて名義貸しをしたこと、
その友人が、そしてその親も借金を踏み倒して逃げてしまったこと、
それを返済する為に、何社かから借金をしたこと、
債務整理をしようと思い弁護士に頼んだのだが、その弁護士にまで逃げられてしまったこと、
この家にかかってきた電話は、恐らくその弁護士が辞めたのが原因であること、
などなど。
但し。
現在、借金の総額が数百万になっていることや、10社以上から借りているのは伏せて。
もちろん義姉へも名義貸ししているのも内緒で。
【今更】ではあるが、義母はガンと闘っている身。
必要以上に大きなショックを与えたくない、そう思ったのだ。
義母は、ダーリンの話しを黙って聞いていた。
少し寂し気な顔で。
そして話しを聞き終わると黙ってしまった。
言葉を探しているようだ。
元々その借金は、彼が遊びなどで作った訳でなく、友人の借金を被ってしまった訳だが…。
とにかく今のままではいけないので、なんとかしなきゃ、と。
そして私に謝った。
苦労かけるね、と。
ここで義母は初めて、消費者金融から何度も電話があったことを明かした。
私達は驚いた。
知らなかった…
私達がノンキに構えている間に、そんなことがあったなんて。
《なんて電話があったのっ!?脅されたのっ!?》
「うぅうん。ただ
【ダーリンさんいらっしゃいますかッ?】
ッて。そんな脅しみたいなのはなかったけど…。今はいません、て言ったら
【また連絡します】
ッて。まぁ、夜中にかかってきたりすることもなかったし。でもそれが何回もあったからねぇ…。うっとぉしぃから、お父さんに言って電話の線、抜いちゃったの。」
ちょっと困ったような笑顔で話す。
どうりで電話がちゃんと通じない筈だ。
いやもしかしたら、本当は脅しに近いこともあったのやもしれない。
私達に気を使って言わなかっただけで。
私達はあの弁護士が突然辞めてしまってから、どちらかというと、投げやりになりかけていた。
もちろん、今のままではいけない、なんとかしなければ、と思っていた。
思ってはいたが…。
やはり、一度酷い目に遭っていたので、すぐにまた次の弁護士を探す、というところまで気持ちを高めることが出来ずにいた。
しかし。
義母の話しを聞いて、そんなことをしている場合ではない、と思った。
これ以上義母達に迷惑をかけちゃいけない。
電話帳で弁護士を探してみると、弁護士相談会のようなものが載っていた。
それは30分5千円で相談出来る…というものだった。
どんな感じになるのか全く想像も出来なかったが、とりあえずこれをやってみることにした。
何もやらなければ何も始まらない。
電話で予約をするとその週末、相談会へ出掛けた。
私達の担当の弁護士さんは、若くて(多分30代前半)ややポッチャリした男性だった。
少し頼りなく見えたが、素人の私達のお馬鹿な質問にも、一生懸命、丁寧に答えてくれた。
考えながら喋る時、やや斜め上に顔を向け、目を閉じて話しをする様は少し滑稽でもあったが、真剣に答えてくれているのがよく解り、好感は持てた。
そして30分、という時間はあっという間に過ぎてしまった。
「どぉされますか?延長することも出来ますが。もし延長するのなら受け付けで申し込んで、もう一度順番を待たねばなりませんが。」
と弁護士さん。
《私達、もうチャンと弁護士さんに相談して、この借金の問題を解決したいんです…。》
考えるより先に、言葉がこぼれ落ちた。
「そぉですねぇ…。受け付けで誰か弁護士さんを紹介してもらうか…。もしあれなら僕がお話しうかがっても…いいんですが…。」
決して押し付けではなく、あくまでも私達が承知すれば、という言い方をしてくれた。
私達の気持ちは決まっていた。
《ほんとですかっ!?せっかく今、話しを聞いていただいたんで、もしお願い出来るなら…。》
「僕でよろしければ。」
『宜しくお願いしますっ!! 』
他の弁護士さんを紹介してもらい、いまさらまた最初から話しをする気力は残っていなかった。
もちろんそんなことを言っている場合ではなかったが、全く見ず知らずの相手に、簡単にかつ解りやすく説明するのは、かなりの労力を要した。
それに何より。
その紹介してもらった弁護士さんが、必ずしも良い人だとは限らない。
【あの】弁護士みたく、適当にやられちゃコッチの身が持たない。