オセロ【さん】には、私に対する不満が山のようにあり、それをいつも、他の派遣の人や社員さん(社員にまでっ！！)に愚痴っていたらしい。
どうしていつも、自分の方が検査数(その日、自分が検査し終えた数)が多いのか、
どうして最近(私が)急に仕事をするようになったのか、
などなど…。
検査数がオセロの方が多いのは、彼女がやりたがらない、検査品の移動やら、梱包用の箱作りやら、様々な雑用を全部私が引き受けてるから。
最近急に仕事するようになった…なんて言われても、雑用が少なきゃ検査数は増えるだろし、特に変えてる訳じゃない。
((翌日、派遣会社の担当者と話しをするというのに、何故、今言ったっ？
つか、私に直接言ってんじゃんっ。
言えるんなら、最初から私に言えやっ！！))
そうだ。
そうなのだ。
オセロは、やり方が凄く巧妙だった。
周りの人達に前もって根回しをしておき、私への印象を最悪にしておく。
そして自分の【位置】や【安全】が確立された所で、上司に泣きつく。
帰り際。
「明日、チビロンさん、嫌な思いすると思うけど…。」
と、私の身を案じて下さりやがった。
そして翌朝。
担当者の話しだと…
仕事面で、何でもかんでも重要なことを私がやっているのが気に入らない、
雑用もやらせてもらえない、
仕事のことだけでなく、ダーリンの話しを色々していたのが嫌、
etc.etc.etc.…。
しかもここで、転が辞めたのも私が一因だ、とも言われた。
へぇー。
そーなんだー。
何もかも、全部私が悪いんだー。
転のことも私が悪かった訳だー。
もぉいいっ！！
解ったっ！！
確かにダーリンの話しはした。
だが大した内容を話したつもりもないし、相手が辟易するほど話したつもりもなかった。
でも若い彼女らには、苦痛だったのかもしれない。
それは私が悪かったのかもしれない。
しかし、だ。
ろくに仕事もしないで、大変なこと、面倒なことは全部上手く逃げてる奴らに、そこまで私を否定される覚えはない。
いや、待て。
これだ。
これがいけないんだ。
私は、仕事に関しては手を抜くのが大嫌いだ。
お金を貰っている以上、きちんと働かねばならないと思うし、それが当たり前だ、と思っていた。
それが彼女らは嫌だったんだ。
でもまさか、そんなこと、【チビロンの仕事への姿勢が嫌だ】なんてこと言える筈もなく、ってとこか。
とにかく私は、仕事を辞める決意をした。
少なくとも２人の人間が【私のせいで】仕事が嫌になった、と言った以上、このままこの会社で仕事を続ける、気力も、意味も、なかった。
それに。
他の社員も、皆、私を追い出そうとしているとしか思えず。
特に、あの、ブヒ太郎。
彼は私より年下だったが、最近メキメキと頭角を現し、この会社の中でもかなりの重要な位置にいた。
その彼が、一番私を追い出そうとしている訳で。
こんなに必死に、こんなに一生懸命に仕事をしているのに、全く身に覚えのないことで会社中のさらし者にされるくらいなら、たとえ負け犬と言われようと、サッサと逃げ出した方が良かった。
そう。
私の話しが、全く私と関係のない部署の人達にまで広まっていた。
皆で、おもしろおかしく噂しあっている訳だ。
あの、仲の良かった男性社員のオジチャンが【親切顔で】教えてくれた。
もっとも。
このオジチャンも、とてつもなく噂好きだったので、私の話しが広まったのは案外、この人が犯人だったのかもしれないが。
何がきっかけであったにしろ
退屈しのぎに、
憂さ晴らしに、
見ず知らずの奴らに好き放題言われ、にこやかにやり過ごしたり、あるいは開き直って居座るほど、私は神経が太くはなかった。
数日後。
私は、その旨を派遣会社の担当者に伝えた。
そして、ちょうどこの頃。
追い討ちをかけるように、大変なことが起きようとしていた。
大変なこと。
それは…義母。
ダーリンのお母さんが、ある病気かもしれない、と。
病名は【乳ガン】。
義姉がダーリンに電話をしてきたらしい。
義姉は電話の向こうで、ずっと泣きっぱなしだった。
それを聞いたダーリンもボロボロだった。
一週間後。
検査入院した義母。
軽いだろうと思っていたら…。
ガンは、かなり進行していた。
あちこちへの転移している可能性も高く、今の現状では、手術で治る見込みは低い、と。
何年生きられるか解らない。
１年かもしれないし、１０年かもしれない、とも。
家で泣き崩れてしまったダーリン。
こんな時。
なんて言ってあげればいいのだろう…。
私は、掛ける言葉もなかった。
ただ黙って、ひたすら背中をさするしかなかった。