詳しく話しを聞いてみた。
私が、異例の早さで【ママ】に出世したのは、お父さんと【そういう仲】だったからだ、と言うのだ。
それ以外、考えられないと。
これは、イチコさんがB店に来る前から言っていたことらしい。
私は気付かぬうちに、彼女の神経を逆撫でしていたのか。
それにしても、だ。
何が悲しくて、自分の体を捧げてまで【ママ】にならなきゃいけないのか。
(お父さんが、工ちゃん・臣ちゃんバリにイイオトコならいざ知らず;)
そんな、そこまでして出世するほどの価値が、この会社にあると思うのか?
いや、実際、それで出世した人も居たらしい(シュガー)から、まるっきりデタラメでもないのかもしれぬが。
だからこそ、何人かの人達は、そんな根も葉もない噂を本気で信じていたらしい。
その後、わざわざ否定して歩く訳にもいかず、そんな機会もなく終わってしまったが。
いまだに信じている人も、中には居るんだろな。
不本意ではあるが、どうしようもない。
女のヒガミは恐ろしいもんだ。
しかしこれで、私は新しい事実を知った。
私が【ママ】と認められたのが、異例の早さだった、ということ。
オトボケ(記憶喪失男)をはじめ、上司には腹立たしい人も多かったが、見るべきトコロは見て、それなりに評価はしてくれていた訳だ。
事実無根の嫌な噂は聞かされたが、結果的に、悪いことばかりではなかったということか。
しかし。
この、とりあえず平穏だった日々も、長くは続かなかった。
その年の年末。
恒例の12月の全店舗、売り上げ競争が行われた。
もちろん、12月は無休。
従業員も、男女共に無休。
前年までは、女性従業員だけ、2回の休みがあったのが、この年から無くなった。
つまり12月1日から12月31日まで、1日たりとも休みなしで、ぶっ通しで働くのだ。
男性はPM3時前からAM3時過ぎまで。
女性はPM5時前からAM3時過ぎまで。
おまけに。
この時期、季節柄、宴会が多い。
宴会には、特別なコース料理を出さなきゃいけない。
その為に、普段の仕込みプラス宴会コース料理の仕込みもあるので、宴会が重なると、手早いダーリンでさえ昼前には出勤しなければならなかった。
そうしないと、仕込みが間に合わなかったのだ。
もちろん、女性も宴会用のテーブルセッティングなどがあったので、いつもより多少は早く出勤した。
(私は普段からダーリンと一緒に出勤していたので、あまり変わらなかったが)
早い人は昼前から出勤。
帰りも、全ての片付けを終えてから、翌日の仕込みもしてから帰ったりした。
中には、準備が間に合わなかったり、疲れ果ててしまって、お店に泊まり込む人もいた。
(帰るヒマがあるなら、少しでも寝たい)
泊まると言っても、布団などがある訳じゃなく。
客席である板の間に、お客さん用の座布団を敷き詰め、更に、体にも座布団を掛けて寝るのだ。
この時期の男性の労働時間は、少なくとも1日15時間以上だった。
(長いと20時間弱)
何人もが倒れでもすれば、会社としても考えねばならなくなるだろうが、皆、倒れそうで倒れない、瀕死の状態で働き続けていた。
そんなに働いていても、給料は、全く増える訳でなく。
出勤日数も、時間も、赤ん坊でも解るほど長いのに、他の月と全く変わらなかったのだ。
一部の人は脱落(時期問わず)していくが、【こんなのやってられるか!!】と、ぼやきながらも、転職する勇気も気力もなく。
何より、拘束時間は長いが、その分、他の職場よりは【それなり】の給料をもらっていたので、仕方なくズルズルと働いている…そンな状態だった。
そういえば、求人雑誌でこの会社の求人広告を見たことがあるが、労働時間、休日、給料、全てが嘘っぱちだった(苦笑;)。
そんな魔の12月を乗り切り、年が明けた最初の営業日。
(といっても、正月休みがある訳ではないので、元旦だけ休み、翌日からは普通に仕事だったが)
営業前に会議が。
ダーリンも、私も、疲れきった体を引きずるように出席。
会議が終わり、お店に向かう時、ミニラから電話が入った。
今日は、A店だ、というのだ。
なんでも、人がいないから、と。
会議の時、誰も何も言っていなかったが?
まぁ、考えても仕方ないので、普通に受け流した。
後から思えば、これが、これから起こる、全ての始まりだったのだが…。
お正月の営業日くらいは静かだろう、と思うと大きな間違いで、次から次へとお客さんが来店。
バカみたいに忙しかった。
お正月ということもあり、皆テンションが異様に高く、【賑やか】を通り越し、騒がしかった。
そんな正月の騒がしさもおさまった翌週。
【事件】は起きた。
ボケとミニラが体調不良、ということで休んだ。
((え。2人同時かよっ。))
と思っていたら…。
営業時間の直前、社長から1本の電話が入った。