わたくしは、書院の与えられた席で、羽あるものにまつわる記述を筆写していたとき、光をまとって隅にたつ青年を認めた。わたくしの眼は、生まれつき見えないものを捕らまえてしまうようだ。青年は自らの来し方を知らず、ひとまず、わたくしの庵へと連れ帰ったものの、らちが明かず、お智慧拝借と黙蓮寺の和尚を訪ねると、智慧者の野狐(やこ)に訊ねよと教えられる。その夜、庵にやってきた野狐から青年の正体を聞かされ、わたくしは……。
「羽あるもの」
『雨月物語』でも読んでいるみたいに風情があり、めっちゃ好みの物語でした。
どれも、ありえへん出来事であるのに、なぜか情景が目の前に浮かぶ不思議なお話です。
妖しげで美しい物語の丁寧な語り口にうっとりして、思わず声に出して読んじゃった。
”放埓な悪僧”と自ら悪ぶる和尚から眠り続ける娘を預かり、庵に連れ帰る途中、娘は傀儡女の末裔(遊女)であると野狐から教えられる。
わたくしは、娘にかつての自分を重ね、シエラザードのように夜伽を語る亡き母の依り代となった過去が語られる「その花の香り」。
「羽あるものにまつわる伝説」をもとめるわたくしに、「光を食む者の語り」と交換したいと申し出た者がいた。
その若人には、心を通いあわせた赤い魚がおり、女の魚を海に返してやるために光を食す必要があると打ち明けられる「虹喰い」。
紙面の文字が剥がれ落ち、こぼれた文字をかき集め、書の修繕師:鞠村氏を訪ねたわたくしは、文字が時の流れに反し、進みゆく時を押しとどめようとしているのだと聞く「夕舟」。
わたくしは時をさかのぼり若かりし姿になり、和尚もまた……。
和尚が、かつて見目麗しい美青年であったことに、思わずニヤリ。
そして、野狐が少年となったのは、次の物語への伏線でした。
ここから、書下ろしの「彼方より」へと繋がります。
和尚からの使いだと野狐に案内され着いた平原には、野狐に連れられ先に着いていた和尚が待っていました。
二人の前で野狐が語ったのは、かつて人であった野狐が、時の流れをさかのぼりやってきた理由。
それは……。
戦乱の未来からやってきた野狐の言葉は、今だからこその反戦メッセージなのですが、物語としては無理やり繋げたような違和感を感じないでもありません。
正直もう少し不思議の物語に浸っていたかったなぁ。
どうも、端折られた感が否めません。
なんたって、シエラザードばりの”わたくし”が主人公なんですから、お話のおねだりするのは当然でしょ。
そういう意味では成功ですね。
作者自身もまた、この終わり方は不本意なんじゃないかなとも思います。
だって、あとがきでも「ひとまず完結」と結んでいて、いつか”続き書きたい宣言”もされてます。
なので私も、”続き読みたい宣言”を!
そして、最後の最後に『肩胛骨は翼のなごり』になるところは、たぶん、これが到着予定地だったのではないかなと思います。
それには、やっぱり、もうちょっと読みたいよ~。
どのようなさだめによるものか、いつからか、人はその生を終えるときまで天に昇ることが許されぬ。魂も羽もじつに軽いのでな。しかと地に足をつけて、抱きとめておかねばならんのじゃ