青玉獅子香炉  陳舜臣 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

 

辛亥革命により清朝覆滅後も、廃帝:溥儀は宦官・官女とともに紫禁城に住んでいた。潤古廠の雇われ店主:王福生は、廃帝に仕える宦官:郭祥(かくしょう)から、ある香炉の贋作の制作を依頼される。しかし、その三日後、王福生は脳溢血で倒れ、弟子:李同源が香炉を作ることに。

「青玉獅子香炉」

 

 

 

 

「P+D BOOK」で読みました。

直木賞受賞作。

ちょっと大谷崎っぽくもあり、面白かったハートです。

 

李同源が自分の作った贋作:青玉獅子香炉に執着し、生涯をささげていると思いきや、実は自分でも気づかず……というオチがついてます。

 

 

本物と見まごうまでに彫り上げた香炉は、一旦紫禁城に収められたものの、内戦の激化に伴い、より安全な場所を求め、転々と各地へ移送され続けます。

自分の作品に並々ならぬ執着を持った李同源は、師匠:王福生の息子の寡婦:素英の紹介で『清室善後委員会』に転職し、戦火メラメラを避けるため香炉の輸送に同行するのですが、彼が愛するのは紫禁城の膨大な玉器の中ただひとつの品です。

 

その数、八千三百六十九分の一。

百五十年前である乾隆三十四年と銘はあるものの、より古くて高価なものも数知れず。

その上、贋作だし。驚き

しかし、李同源には、自分の作品である青玉獅子香炉以外は目に入らず、無きに等しい。

 

あちらへこちらへと絶え間なく移送が続き、李同源に再び自分の作品を目にする機会が訪れるのは、宝物の避難がはじまってから十七年後です。

しかし、……。

 

 

なんせずっと梱包されたままですからね、実はすでに誰かに売り飛ばされてるんじゃないだろうか、本当にあるんだろうかとか、会心の作とは作者の思い込みで実際たいしたことないんじゃないかとか、李同源以上に、何度も何度もドキドキドキドキさせられました。

 

このどうなん?どうなん?と、先を妄想?して最後までヤキモキさせられるのが、面白いところですね。

 

 

 

    

本 女人の膚の精を吸うのは、玉そのものではなく、製作者の心なのだ。玉はその心をうつし出すのにすぎない。

 

 

 

 

 年輪のない木

長年ラワン材の輸入を担当してきた香川は、「ラワンの神様」とよばれていた。仕入先の北ボルネオのサンダカンの木材問屋:聯信記(れんしんき)の老主人:王究は広東出身の華僑で、ラワン材に惚れ込んだだけあり、上質のラワン材を扱っていた。王究には若い妻:紅蘭がいて、彼女の誘惑に屈したのは香川だけではなかった。軍隊で早世した息子の上官とも……。

なんとなく想像はついたけど、王究の復讐が、めっちゃ怖いポーンです。

 

 

 太湖帰田石(たいこきでんせき)

彫刻家:菊川淳介は、姉に「太湖帰田石」をつくってほしいと頼まれた。菊川家は父の死とともに没落し、姉はかつての栄耀を忘れられず、転々と人手に渡り今では大月邸となった芦屋の旧菊川邸で半年ほど前から家政婦をしている。姉が菊川家のシンボルとする「太湖帰田石」は、今でも黒檀の台に乗って応接間に飾られているという。模造品を作り本物とすりかえようというわけだ。

これまた、ゾクッとしますねぇ。

模造品をすりかえたところ……。

だけじゃないところが。ゲッソリ

 

「年輪のない木」といい、こういう結末が多いのかな。

 

 

 小指を追う

神戸市東灘区に住む実業家の一人息子:宇野譲が誘拐された。翌朝、鶴鳴寺の重要文化財:観音菩薩立像が盗まれたと届け出があったが、すぐに見つかった。しかし、仏像には右手の小指がなく、切断されたヤスリのあとがあった。なぜ小指がないのか。仏像の小指を追うと……。

これは、会話が神戸弁で、流血シーンとかもあるけど、なんだか和みます。

「カーテンのお克」なんて呼び名を持つ女の子が出てきたりして、昭和のカチンコ日活映画みたいでした。

 

 

 カーブルへの道

高校の英語教師:三谷宣照は、仏跡巡礼の最終コースのアフガニスタンに入り、カーブルの外人墓地のオーレル・スタインの墓前で、ソ連人:ナザロフ教授と知り合った。ナザロフは急にサマルカンドへ帰らなければならなくなり、中国の農政学者:張国棟博士からアメリカの学術探検隊のダウラト・キリジ氏に渡してほしいと頼まれた掛け軸を、代わりに届けてほしいと三谷に託した。翌日、バーミヤーンに着き、学術探検隊が出かけたというシャーレ・ゴルゴラに向かった三谷は、死体を囲んで立っている三人の男女に出会う。

出会った三人は、紅一点のヘスター・フルトン、ユダヤ人の隊長:ベン・ラウゼン、キリジ氏の秘書:ジョージ・ウィラーの学術探検隊のメンバーです。

そして、死体は、崩れた壁に頭を割られたロジャー・ジョンソン。

彼らと出会ったことで、三谷は次々と事件に巻き込まれていきます。

そして、……。

 

面白いけど、突っ込みどころ満載の三谷氏の冒険譚です。笑ううさぎ

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

◆P+D BOOKS

P=ペーパー

D=デジタル

現在入手困難となっている名作をペーパーバック書籍と電子書籍を同時かつ同価格で発売・発信する小学館のブックレーベル。