幻夜  東野圭吾 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

東野 圭吾
幻夜


阪神淡路大震災の前日、借金を苦にして自殺した町工場の経営者である父の通夜が行われた。水原雅也は保険金目当てに近づいてきた叔父が、瓦礫に埋まりで身動きの取れなくなったのを幸いと殺してしまう。その場に偶然居合わせた深海美冬に目撃され‥‥。


図書館の本日返却のブックトラックでGET! (^o^)v
次々と起こる物語の展開の早さに、一気に読んでしまいました。
ミステリーが苦手の私でも、次から次へと登場する人物とその関係に引き込まれて、なかなか本が閉じられませんでした。

阪神淡路大震災を背景に持ってきたのは上手い設定。
確かにみんなが自分や家族のことで精一杯だった状態のときに、人一人くらい消えてしまっても不信を抱く者などいないだろうなと思うと、リアリティがあります。
それでも、やはり人はどこかで誰かと繋がっていて、それがまた人間関係を煩わしく感じさせてもいるのかもしれませんが、私はやっぱり誰かに自分のことを覚えていて欲しいな。
関西弁もリアルだし(大阪出身の作者で当然だけど)、「震災」という言葉を出したときの人々の反応とかも、すごく納得しました。


一人の美女に取りつかれてしまった男の転落の人生は、かなり痛いです。
2人で夜の道を歩いているつもりが、実は男のほうだけ夜だった、まさしく幻夜。
幻の夜は男にとっては切なくて、女にとっては美しい。
そんなラストはちょっと悲しい。

それにしても、「美」に対する女性の確執と「美女」にたいする男性の執着、どちらも恐い物語でした。