家守綺譚  梨木香歩 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

家守綺譚/梨木 香歩

¥1,470

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学士・綿貫征四郎が、学生時代の亡き親友の実家の管理人として暮らした高堂家に起こる数々の不思議な出来事を、四季おりおりの草花によせて綴る物語。
食べていくのに精一杯の貧乏作家の「私」は、ひょんなことから仲裁犬・ゴローを飼うはめになる。この犬、なんと仲の悪い河童とサギの双方を納得させ見事な仲裁をした?ことにより、狐狸妖怪の世界では、超有名犬。別の世界とこの世界(現実)の両方を繋ぐ知識を持つ隣のおかみさんは、ゴローが大のお気に入りで何かというとおすそわけをもってやってくる。また、狐狸妖怪にも詳しくその都度有益なアドバイスもいただける。「私」のマドンナ「ダァリヤの君」。飄々としたお寺の和尚さん。薬になる虫や蛇を商う怪しげな長虫屋。湖で亡くなったはずの元ボート部員の友は、床の間の掛け軸からときどき私に会いにやってくる。「私」の原稿を取りにやってくる後輩の山内は、友のいる怪かしの世界を小説に書けとせっつく。さて、私は...


庭のサルスベリの花に惚れられる。
河童の抜け殻を手に入れる。
白木蓮がタツノオトシゴを孕む。
信心深い狸を助けたお礼に狸から松茸をもらう。
釣り人の姿をしたカワウソになつかれる。
散り行く桜の精・桜鬼が暇乞いにくる。


わ~っ、何これ?!
てな感じのとっても素敵?な世界です。

日がな一日、憂いなく生きられる理想的な生活は確かに私にとっても憧れです。
それでも、この世知辛い世の中を愉しんで生きられたなら、そのほうがちょっとカッコいいななどと思いました。


現と幻が交錯する屋敷は突拍子もないものなのに、一癖ありそうな人々とゆるやかにながれる季節とその日々おりおりの私の思いは、まるで漱石の小説を読んでいるような安心感がありました。





―― 文明の進歩は、瞬時、と見まごうほど迅速に起きるが、実際我々の精神は深いところでそれに付いていっておらぬのではないか。鬼の子や鳶を見て安んずる心性は、未だ私の精神がその領域で遊んでいる証拠であろう。鬼の子や鳶を見て不安になったとき、漸く私の精神も時代の進歩と齟齬をおこさないでいられるようになるのかもしれぬ。――


そして、この本を読んで安心感を感じた私もまた...




ぱせり > こんばんは。>「まるで漱石の小説を読んでいるような安心感」 本当にそうですよね。大して読んでいないわたしは「坊ちゃん」を思い出していました。不思議で、とても素敵な世界、もっともっと読み続けたかったです。
(2004/11/27 20:55)
青子 > ぱせりさん、こんばんは。時代設定がそう思わせるのでしょうか、なんだかとっても懐かしいような雰囲気が溢れていました。わたしもぱせりさんと同じように、ずーっとこのまま終わらなければいいのにと思いながらよんでいました。妖怪ぽいのは苦手なのに、不思議。 (2004/11/27 23:06)
まゆ > 星5つですね! 私もこれ好きです。古き良き日本というか・・・。また読み返したくなってきました。買っちゃおうかな。 (2004/11/28 19:32)
青子 > まゆさんもお気に入りなのですね。いいですね~。もうめちゃめちゃタイプの作品でした。時間のながれが緩やかで、しかし、季節は規則正しくやってくる、かつてあった美しい時代の物語のようでした。アナログ人間の私はぴったり嵌ってしまいました。 (2004/11/28 20:07)
たばぞう > 超!遅レスですが、青子さんもこれを読んでいたのですね~。今年の梨木さんは最高でした(甘い溜息)。「村田フェンディ滞土録」は読まれましたっけ?。まだならおすすめですよ~。 (2004/12/25 23:07)
青子 > いえいえ、たばぞうさん。これが初めての作品です。確かたばぞうさんの今年のベストに選ばれていましたね。チェックしておきます。この作品はとっても雰囲気があって良い感じでしたもの、たばぞうさんがうっとりされるのも解ります。 (2004/12/25 23:42)