魔性の子  小野不由美 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

小野 不由美, 山田 章博
魔性の子 (新潮文庫―ファンタジーノベル・シリーズ)

教育実習生として母校を訪れた広瀬の目をひいたのは、教室で孤立している生徒・高里。彼をいじめた者は、必ず不慮の事故に遇う。それはどうやら、数年前、高里が”神隠し”にあい、1年後ひょっこり戻ってきた時から始まったらしい。まるで、報復のような事故が彼の周りで次々とエスカレートしていき、やがて死人が出るまでにいたる。しかし、その現象は一向にやむどころか……。


ようやくというかやっと「十二国記」既刊本の手付かずの最後の一冊に、手を出してしまいました。
いやぁー、めちゃめちゃ怖い!!
覚悟はしていたものの、ホラー嫌いの私、何度も途中で挫折しそうでした。
しかし、完読!
それは、この本があの「十二国記」の一部だったから。

報復の始まり、いわば序の口で、体育祭の準備中に鋸で脚を切る子や釘を手に打つ子がでてきたシーンで、もう怖くて怖くて。
「コウリはタイキ、コウリはタイキ。」と呪文のように唱えて読み進みました。
そうあの「十二国記」の泰国の行方不明中の麒麟・泰麒=高里なのです。
「風の海、迷宮の岸」で蓬莱山にいた期間が、こちらの世界で”神隠し”にあってた物語なのです。


それにしても、このホラーファンタジー人が死に過ぎ。
「十二国記」ファンには原因が分かっているので、やりきれない思いがあるのですが、独立した一つの作品として読むと、これまた人間のエゴの怖さがひしひしと感じられます。
誰しも、自分の気に入らない人たち、自分に危害を加えようとする者たちが、自らが手を下さずとも勝手に事故にあって目の前から消えてくれたらいいのに、なんて思うことがあるはず。
でも、そんなことは絶対起こらないと思っているから、「くそ~、死ね!」なんて思えるのであって、それが確実に起こってしまう日常を描いたこの作品、怖くないわけがありません。

例えば、私が高里の位置にいるとして、邪魔者が消えていってくれるのは正直、守られてるって快感無きにしも非ずと少しは思ったとしても、コレ死にすぎです。
それも、ごく普通の身のまわりにあるものが凶器となり事故として処理されるところが怖いです。

まるで、触るものがすべて金に変わってしまう王様みたく、自らの意志の外で近寄る人々がどんどん亡くなっていくのは、恐怖の極みでしょう。
周りにいる人々が恐怖を感じる以上に、私のようなエゴの塊の人間と違って、慈悲の動物・麒麟である高里にとっては、もう瀕死寸前の辛い日々に違いありません。
そして、また、死を免れようと高里の周りに集まってくる人々の卑屈さ、それが叶えられないとなった時には逆上し殺意をもって迫ってくる者のあさましさ。
人間って怖いなぁ。
で、それを納得してる私自身も怖い人間なんですよね。
ちょっと反省なんかもしちゃったりして。
どっちの側にたっても怖い物語でした。

もし、こんなふうにちょっとしたことで誰かの怒りをかっている可能性があるとしたらと思うと、プラットホームの最前列に立つのが怖い今日この頃です。



それはそれとして、延王がお迎えに来てくれてるなんて、その続き早く読みたいな~♪




まゆ > これが文庫で出た当時になんとなく読んだんですが、「人が死にすぎ」なのと、高里がどこかに行っちゃって、「おーい、それでいったいなんだったの~!」と茫然としてしまったのでした。で、「十二国記」読んで、再読したら、ようやくわかりました。そういうことだったんですねえ。でも、本編の前にこれだけ出版されても、ねえ・・・。 (2004/12/18 19:14)
青子 > まゆさん、まさにそういうことだったんですよ。ほんとにバッタバッタと容赦なく、良い人も嫌なヤツも高里に関わった人間がどんどん死んでいきますね。「十二国記」のバックボーンがあってこその物語ですが、ホラーとしてもかなり怖いものがありました。高里に人が近づくたびにわー、またかと広瀬センセと一緒になってドキドキしてました。 (2004/12/18 23:44)
ふく > 青子さん、こんばんは。僕は十二国記シリーズの存在すらしらない時期にこれを読んだので、???という感じでした。でも薄ら寒くなるような怖さは印象に残ってます。騎馬戦(だったっけ?)の場面とか、学校の屋上から・・・、の場面とか。今手元にあるシリーズを読み終えたら再読してみようかな。 (2004/12/19 01:25)
青子 > ふくさん、やはりこの1冊のみでは???ですよね。
騎馬戦も屋上も怖いですね。だいたい学校って場所がホラーにはもってこいですもん。そして、高里の異質さはまるで魔女裁判。最後に200人も殺しちゃって、いったいどうするんだって感じですよね。私はやっぱりホラー苦手です。 (2004/12/19 17:59)
たばぞう > 十二国記ナシで読んだら、スプラッター・ホラーめいた物語で終わったかもしれませんね。これ1作だけの物語だったら、私は恐らく読まなかったのではと思います。 (2004/12/25 23:10)
青子 > たばぞうさん、こちらにもレスありがとうございます。確かに確かに。この点はみなさんの意見が一致してますね。私も「十二国記」と言うことで勇気?をだして読みました。でも、怖かった~。続きが気になる1冊ですね。 (2004/12/25 23:46)