新年明けましておめでとうございます。
本年もシンガポール通信宜しくお願い申し上げます。
と言っておきながら、このタイトルの「2011年シンガポール重大ニュース」という「今年を振り返る」的なテーマというのは、年明けのこの時期では完璧に時期を失してしまっている感があるのですが、先日買い物に行ったスーパーで山積みされていたフリーペーパーに同タイトルの特集記事があったので御紹介しておきます。
まあ、あえて申しますと国民人口の74%が華人系である当地シンガポール(及び他の多くのアジアも同様なのですが)において「新年」というのはあくまでも「チャイニーズニューイヤー」を指すものでして(1月1日は単に祝日の一つです)、
未だ「Year Of Dragon」は到来していません。
今年の新年は1月23日(月)になります。
さて、普通日本では「重大」ニュースと「10大」ニュースをひっかけて、10個くらいの記事をランキングして紹介するのが定番のようですが、このフリーペーパーには数十個の記事を何のランキングもなく雑然と並べておりましたので、ここでは筆者の独断で適当に抜粋してお伝えいたしますが、2011年のシンガポールを振り返ってみますとどうしてもテーマは「分岐点」ということになるようです。
(1)政治潮流の分岐点
-「2011年総選挙で労働党がグループ選挙区初勝利」-
~議会(一院制、任期5年、定数87)選挙の投票が5月7日行われ、与党・人民行動党(PAP)が81議席を獲得して政権運営を引き続き担当することが決まったが、集団選挙区(GRC)のアルジュニードで野党・労働党(WP)に敗退した。野党は独立以来の選挙で最多となる6議席を獲得した。~
野党が過去最高の6議席!を獲得した事自体が快挙なのですが、野党の過去の獲得議席は全て定数1名の単独選挙区(SMC)での獲得だったのに対し、今回の獲得議席数6の内5議席は集団選挙区(GRC)選挙にて獲得したという点が特筆すべき点でした。
集団選挙区というのはシンガポール特有の所謂「中選挙区制」の一種ですが、今回の選挙区割では、
(1)定数1名の単独選挙区(SMC)が12区(総数12議席)
(2)定数4~6名の集団選挙区(GRC)が15区(総数75議席)
となっており、毎度のことですが集団選挙区(GRC)が鍵となっていました。
集団選挙区(GRC)では、政党として
・その選挙区定数一杯の候補者をチームとして立てる必要があり、
・又そのチームは華人・マレー・インド系といった人種毎のバランスを取れたものにする必要があります。
集団選挙区の有権者は、候補政党のチームに投票し(無所属での立候補はありません)、得票数の高かった政党がその選挙区の「定数全議席を総取りする」という仕組みになっています。
従来は、ゲリマンダー的選挙区割の為に、なかなか与党PAPを上回る票を獲得することができなかった、というよりそもそも野党は集団選挙区に定数を満たすチーム候補の擁立すらままならず与党PAPに多くの集団選挙区で無投票当選を許してきたものでした。
それが今回は、ほぼ全ての集団選挙区で候補者を擁立しコンテストを競い、そしてアルジュニード集団選挙区にて、こともあろうに現職のジョージ・ヨー外相率いる与党PAPチームを破ってラウ・ ティアキアン労働者党(WP)書記長率いるチームが集団選挙区での初の勝利をあげることになったわけです。
PAPは87議席中81議席を獲得してるとはいえ、総得票率は60.1%で、独立以来の最低でした。
又PAPが勝利した14の集団選挙区の内13で、PAPの得票率は60%以下で、レイモンド・リム運輸相のイースト・コーストGRCでは54.8%でした。
当地シンガポールでの盛り上がり方は大変なもので、特に当然ながらアルジュニード地区はお祭り騒ぎでした。
因みに選挙翌日の(当地を代表する新聞)ストレイトタイムズ日曜版は選挙結果を掲載する為に遅れて店頭にならんだのですが、51万部売れたそうです。
シンガポールに住む外国人を含めた全員の10人に1人が新聞を買った計算になります。
総選挙から1週間後の5月14日、リー・クアンユー顧問相とゴー・チョクトン上級相は共同声明にて閣外へ去る発表を行いました。
議員は続けるものの、一つの時代の終わりと言えるでしょうか。
さて、次回2016年の総選挙にてPAPはその得票率を今回の60%から上方方向に回復するのか、はたまた更にクリティカルなレベルにまで支持を失うのか、今後の4年間次第となります。
政府としては、経済成長策と選挙民への便宜とを同時に目指すという極めて難しい舵取りになりそうです。
-「トニー・タン氏が第7代大統領に、国民の期待は役割以上」-
~8月27日にシンガポール共和国の大統領選挙が行われ、トニー・タン元副首相(71歳)が有効投票の35.2%を獲得し第七代シンガポール共和国大統領(任期6年)に選出されました。~
2011年は国政選挙と大統領選挙とがたまたま重なるという年になったのですが、国政選挙においてシンガポール共和国始まって以来の「異変」が起こったのと同様に、大統領選挙においてもちょっとした「異変」が起こりました。
シンガポール共和国大統領は1991年の法改正後民選となっていますが(それまでは、議会による指名)、実際に選挙が行われたのは法改正後初回選挙であった1993年選挙のみでした。
それも無投票では制度改正の意味がないとの理由で、政府が推薦するオン・テンチョン元副首相(→第五代大統領)の対立候補者がいない中、元主計局長を説得して出馬させ争わせたといういきさつです。
つまり、民選とは言いながらシンガポール共和国大統領というのは従来実質的には政府・与党により有力候補が一本化され、その後押しを受けて決まるというものだったのですが、なんと今回は6名が大統領選挙委員会(PEC)に立候補資格認定を申請し、内4名が資格認定され大統領選を争うという前代未聞の選挙となったわけです。
結果自体は次点のタン・チェンボク氏と0,34ポイント差という僅差ながらも事前の予想通りトニー・タン元副首相が選出されるという順当なものとなりましたが、シンガポールで最も盛り上がった大統領選挙となりました。
又それ以上に興味深かったのは、選挙後に政策研究所(IPS)が実施した調査で、国民の多くが大統領の役割を正しく理解していない(=実際に認められている権限以上のパワー認識)ことが分かったことでしょうか。IPSは「調査結果は、回答者の無知が露呈されたというより、大統領の役割に対する彼らの希望を表明した可能性がある」との見方を示しました。
リー・クアンユー元首相は9月5日の南洋工科大学でのフォーラムで、「シンガポールは政治的に分裂している。その分裂が政治面だけにとどまっていれば、経済成長への影響は少ないが、国の分裂になり、民主党と共和党が論争を続ける米国のような状況になった場合、シンガポールはありきたりの国になってしまう」との発言をしています。
(2)社会・生活環境の分岐点/経済成長の分岐点
政治潮流に変化が出るのは、とりもなおさず社会環境に変化があるからでしょう。筆者は在星丸六年なのですが、このわずかばかりの期間においてすら、肌感覚として思うのは、一言「住みづらくなってきた」ということです。
理由は単純で、人が混雑するほど増えた。物価が上がった。又筆者のような「外国人」からしてみると自国民優先の保護主義的政策が目につくようになってきた。ということでしょうか。
こういったことを端的に表す記事として以下のようなものがありました。
-「人口は518万人、永住者が減少」-
~統計局は9月28日、シンガポールの6月末時点の人口(外国人を含む)は518万3,700人。国民と永住者(PR)の合計である居住者人口は378万9,300人と発表した~
街中いたるところで本当に「人が増えた-!」という実感があります。、
1990年に300万人。2000年に400万人。2010年に500万人と10年ごとに100万人毎の人口増を(とりわけ外人流入により)達成してきたシンガポールですが、どこかで物理的な限界に来るでしょう。
又、社会の高齢化が急速に進んでおり、年齢65歳以上の居住者一人に対する労働人口(15~64歳)は7.9人と初めて8人を下回りました。因みに1980年には14人でした。
-「外国人就労許可の規制強化、永住権認可も減少」-
~シンガポール人材開発庁(MOM)は8月16日、外国人就労許可の要件変更を発表。外国人の流入を抑制し、国民の雇用を経営者に促すのが狙い。要件変更は7月にも実施していた。
外国人に対する永住権付与も減少している。国民と外国人との職の奪い合い、公共交通機関の混雑など、外国人の増加に対する国民の不満が背景に。~
-「通年のインフレ予想、MASが上方修正」-
~MAS(シンガポール金融管理局)は7月21日、CPI上昇率で見た通年のインフレ予想を従来の前年比3~4%から4~5%へ引き上げると発表した。インフレの要因として挙げられるのは、労働市場の逼迫、所得増、一次産品価格の上昇で、エコノミストは、外国人労働者の流入を抑制した結果、生産能力の限度に近づいているという構造上の変化が、低成長、高インフレをもたらしていると見ている。~
-「外国人の住宅購入を規制、印紙税を追加」-
~政府は12月7日、民間住宅購入規制を8日付で強化すると発表した。特に外国人によるコンドミニアム購入を規制する。現在、政府は民間住宅購入に購入者印紙税(価格の1~3%)を課しているが、外国人が購入する場合、購入価格か市場価格の高い方の10%を追加印紙税として課す。追加印紙税は、企業、また信託など集団投資スキームにも適用する。
アメリカ、スイス、ノルウェーなどの投資家は、シンガポールと締結している自由貿易協定(FTA)の条項に基づき、追加印紙税が免除される。~
ターマン副首相は発表にあたり「シンガポールは市場を開放してきた。これは維持するが、不動産市場への資金流入はかつてないほど多く、将来の大幅値下がりの可能性を回避するため、投資需要を冷え込ませる」と語っており、過去2年間でも、4回にわたり講じてきた過熱鎮静化措置の一環としています。
確かにこのところの、コンドミニアム開発物件を見てますと、バブル期の日本を彷彿とさせるような狭隘立地での開発もあり、これまで豊かであった街中の緑がどんどんなくなっています。
シンガポールをシンガポールたらしめていた風景が徐々に失われておりなんだか「嫌な感じ」がしてきています。
さて、住宅やその他物価の高騰に加え、道路渋滞、バスや電車の混雑といったシンガポール市民の「不平」を煽る極めつけの事件が先月起こりました。
-「MRTの運行停止、4日間で3回に」-
~SMRTが運営するMRT(地下鉄・高架鉄道)で12月14日、15日、17日に軌道のずれなどで一時運行ができなくなり、多数の乗客が影響を受けた。15日は夕方のラッシュアワーに起きており、5時間の運行停止で12万7,000人が影響を受けた。14日午前はサークルラインで通信ネットワークに問題が発生し、40分にわたり運行が停止された。15日と17日の事故は南北線で、15日はマリーナ・ベイからビシャンまでの11駅で夕方7時直前、突然電力供給が途絶え電車が停止し、車内は真っ暗になった。車内放送、換気もなく、一部の乗客は消火器を窓に投げつけ空気を車内に取り入れた。乗客が車内で待たされた時間は約1時間。影響を受けた駅のプラットホームでも事故内容の放送はなく、乗客は右往左往するばかりだったようだ。~
東京や大阪においてはこの程度の電車の運行障害など、「半ば日常的?」かもしれませんが、少なくとも従来のシンガポールにおいては考えられなかった事象でした。
16日のSMRT側の謝罪会見翌日にも再度トラブルとなりネット上を含め市民の非難続出。さすがにこれは・・・ということで、休暇返上してリー首相も会見に姿を現し国民に謝罪するという事態になりました。
従来の優等生国家シンガポールにもいろんな点で、綻びが出てきているようです。
最後は、年末の首相メッセージです。
-「住宅、公共輸送、人口問題に取り組み、首相メッセージ」-
~リー・シェンロン首相は12月31日、国民に向けた新年メッセージを発表した。
2011年の国内総生産(GDP、速報値)は前年比4.8%の増加で、政府予想の5%を下回った。
リー首相は「欧州の債務問題は解決のめどが立たず、12年の世界経済の見通しは厳しい。シンガポールは影響を免れない」と述べた。
リー首相は12年の取り組み課題として、手ごろな価格での住宅供給、公共輸送網の充実、人口・移民問題を挙げた。
住宅対策では11年と同数の2万5,000戸の公営住宅を着工する。MRT(地下鉄・高架鉄道)の延伸、新設を行う。
リー首相が「複雑で重大な課題」として取り上げたのが人口問題で、経済活動の維持には十分な数の労働者が必要だが、出生率は低下しており、一方で外国人労働者の急増を国民が望んでいないとの板ばさみにあると指摘。
「受け入れる外国人を減らすことはビジネス機会を見送ることであり、低成長はやむを得ない」と、2012年のGPD増加率予想を1~3%の低率に設定した理由を説明した。
政府は1年をかけ人口問題を論じ、国として最善の選択肢を探る。リー首相はシンガポールの国際的地位が高くなっていることも指摘し、国民に自覚を促した。~
