■“A Sustainable Population for a Dynamic Singapore”
昨年5月のシンガポール通信にてお伝えしました「シンガポール国民人口の先行き見通しに関する調査報告書」(Occasional Paper: Citizen Population Scenarios)<シンガポール首相府傘下で、人口問題に携わる人口・人材局(NPTD=National Population and Talent Division)作成>が先月末に「人口白書」として国会に提出され、5日間にわたる国会審議を経て、(一部修正の上)、先般2月8日に議会承認がなされました。
http://population.sg/
と、こうやって書きますと、特に何もなかったように思われるかもしれませんが、いやはや、白書発表前後から国会審議中、そして議会承認がなされた後でも本件を伝える当地新聞、TVといったマスメディアの報道は大変なものでした。
白書で示された人口政策は、「急速に進む高齢化と少子化による生産年齢人口の減少と労働力不足を移民で補い、経済成長を維持すること」、という、早い話が、従来シンガポールがとってきた政策の踏襲なのですが、これが今や(一部?)国民の大反発を誘い、与党PAP内からも異論が出るほどで、まさに「社会を揺るがしている」という感じでしょうか。
更にネットを見てみますと政府批判書き込みが結構あって、「もし今、選挙があったら与党PAPは大敗を喫するんじゃないかしら?」と思われるほどの 「Hot Topic」でした。
「人口白書」(A Sustainable Population For A Dynamic Singapore)自体は、
Executive Summaryと
Chapter 1: Our Demographic Challenge and Sustainable Population Objectives
Chapter 2: Sustaining a Core Singaporean Population
Chapter 3: Creating Good Opportunities For Singaporean
Chapter 4: Population Trajectories
Chapter 5: A High Quality Living Environment
Chapter 6: Conclusion
の6章構成からなっており、各章でふれられるDATAを読んでいく限りは、シンガポールの状況を客観的に知りうるものになっています。
即ち、
1:昨年2012年はシンガポール国の団塊世代前期(注)が65歳に達した年であり人口動態上の転換期に達した。シンガポール国は今後2030年まで嘗て経験したことがない高齢化シフトを迎えていく。
(注)シンガポールでは、第2次世界大戦終結後の1947年からシンガポールが独立した1965年までに生まれた世代が団塊世代と呼ばれており、更に前期(1947年~1954年)と後期(1955年~1965年)に分けています。その数は国民人口の1/4以上を占める90万人にのぼり、この人口ピラミッド上の塊が去年から65歳の壁を向こう20年近くに渡り越えていくわけです。
一方、
2:合計特殊出生率(TFR)は現在1.2人とReplacement TFRの2.1人を下回る状況が過去30年以上(実際は1976年以降ずっと,ですからもう37年も!)続いており若年層が減り続けている。
同時に
3:1970年には66歳であった国民平均寿命は2010年には82歳と伸びており今や世界の長寿国の一つになっている。
つまり、
4:現在のTFRのまま(移民なしでは)、2020年に生産年齢(20歳~64歳)人口数は減少に転じ、2025年には総人口も減少に転じる。
国民年齢中央値は現在の40歳から2025年には45歳になる。
というものです。
さて、国民人口動態の決定要因は、「寿命」と「TFR」と「移民」によるわけでして、(寿命は充分すぎるくらい?長生きですのでいじらない中)まずはTFR引き上げ策がChapter2で述べられています。
その核は「Marriage & Parenthood Package」とよばれるもので新婚カップルへの住宅優遇、出産奨励の為の各種援助等々であって、「それなりに」充実したものになっています。
(少なくとも日本の「子ども手当」よりはまとも)
元々、2001年に導入されたもので、2004年、2008年に段階的に強化されていました。それを今年2013年より更に強化し政府年間支出はS$1.6BLNからS$2BILと25%増となります。
とはいえ、今回の「Marriage & Parenthood Package」の議論あたりから、「これで充分なのか」、「そもそもアプローチの方法が違うのではないか」、「そもそも何故晩婚化(あるいは非婚化)が進み且少子化が進むのか」、といった議論が噴出し収拾がつかなくなり始めます。
で、TFRを上げる策を講じていると言っておきながら、実際には「引き上げるのは無理」という(ある種自己矛盾した)Projectionを提示し、国民人口規模の維持には「移民受け入れ不可欠」というロジックになっています。
即ち、今後も「毎年1万5000人~2万5千人の移民を受け入れ続ける」という人口政策です。
現状では年間1万8500人の国籍取得枠を、最大で35%増の2万5000人に拡大するとし、その結果、現在531万人の総人口(注2)は2030年には最大で約3割増の690万人と見込まれる。
又、総人口に占める「国民」の割合は現在の62%から、2030年には55%になると想定しています。
尤も、2030年の、この55%の「国民」には、市民権を認められて間もない外国人が含まれた上での数字ですので、所謂シンガポール「国民」というのが果たして過半数いるのかどうかさえ疑わしいものと言えます。
と、こうしたものですから、さすがに(現)シンガポール「国民」の間では非難轟々となりました。
ただでさえ、近年の人口増加による「混雑」、「競争激化」、「価格上昇」等といった悪影響に辟易としているところに、政府はこの見通しでの人口政策を取り上げるとしたものですから、まあ庶民感覚からしますと反発するのが普通の反応でしょうか。
Chapter 5で、こういった人口増加予想を踏まえた上でのインフラ整備計画が述べられているわけですが、「実際にはインフラ整備が追いついていない」という近年の実績を実感している市民側からするとこれも全く信頼出来ないものとみなされても致し方ありません。
冒頭に、今回の「人口白書」が(一部修正の上)議会承認された、と申し上げましたが、内実は、今年から「2020年」までの「当面の対応」については百歩譲ってしょうがないとして、そこから先は改めて考えましょうというものです。
いやはや、実にシンガポール国は大きな曲がり角?にきているようです。







