今、シンガポールに住んでいる人なら(多分)誰もが毎日チェックしているであろうと思われるのが、PSI(Pollution Standard Index)とよばれる大気汚染指数でしょうか。
NEA(National Environment Agency)が、毎時、Web上で公表しており、又、民間TV放送でも番組画面上に表示しています。
http://www.nea.gov.sg/psi/
一般に、地震や台風等の「自然災害」がない「安全な場所」と思われがちな当地シンガポールですが、4月から10月にかけての乾季には、西隣に位置するインドネシア領・スマトラ島の森林火災によるHaze(ヘイズ=煙霧)が西風に乗ってマレー半島に飛来し、「煙害」という大気汚染を起こすことがままあります。
日本でも報道されたようですのでご存知の方もいらっしゃるでしょうが、シンガポールにおいて6月14日から観測された今回のHazeによる大気汚染は6月17日の週に日を追って悪化していき、PSI観測史上最悪の数値401を記録した6月21日(金)などはマスク無しには息もできないほど深刻でシンガポールはちょっとしたパニックになりました。
(写真はこちらをどうぞ)
http://www.channelnewsasia.com/news/photo/slideshow/haze-in-singapore/719678.html
NEAによるPSI指数評価と健康への影響についての解説では、
PSI指数
0~50は Good (良好な大気状態) 健康への影響特になし
51~100は Moderate(やや不良) ごく軽度の症状の出現の可能性
101~200は Unhealthy(不健康) 心臓・呼吸器疾患の方や少数の健康な方に症状出現可能性
201~300は Very Unhealty(非常に不健康)健康な方にも症状出現
301以上は Hazardous(危険) 健康に障害を与える可能性
とされています。(上記はあくまで目安であって、症状出現にはかなり個人差があるようです。)
これまでのシンガポールでのPSI観測史上の最悪値は1997年9月の226(次が2006年10月の150)だったのですが、6月17日(月)午後10時に155と2006年の記録を破り、19日(水)午後1時には371と1997年の最悪値記録を塗り替えるどころか、初めて「Hazardous」(危険)というWarning Zoneにはいり、21日(金)正午にはついに401という数値を記録した次第です。
目薬やマスク等は売り切れ店続出。屋内退避するしかないような状態でしたので戸外の飲食店や観光施設は殆どが休業となりました。
-「自然災害」vs「人災」-
そもそも森林火災の原因は主に2つにわかれます。1つが自然発火で、雷や火山の噴火、枯葉どうしの摩擦等が原因。もう1つは人間によるもので焚き火やタバコの不始末、放火や焼畑農業等が主因とされています。
北米やシベリア、豪州等では毎年信じられない程大規模な山火事が発生するのはご案内のとおりで、ある意味、森林火災というものは「自然の摂理」的なところがあるのですが、殊、スマトラ島の火災については乾季高温期の自然発火もあるものの、主に地域農民による古来からの焼畑農業に起因するという理解が従来一般的でした。
野焼き自体はインドネシアにおいても禁じられている行為にはなっているのですが、単に禁止しているというだけでは、なくなるものではありません。
従い、多くのシンガポーリアン(に限らずマレーシア国民、インドネシア国民も)にとっては、「迷惑」ではあるものの、この時期にはHaze被害は起こるもの、との割り切りはあったのですが、要は「規模」の問題でしょうか。
さすがに今回のHazeは観測史上最悪というレベルの深刻度になったものですから、国民の不安、不満は一気に爆発し、シンガポール政府としても動かざるを得ず、まずはバラクリシュナン環境・水資源開発相が、インドネシアに対し迅速な対応を要請したのですが、そのコメントが、
「シンガポール市民の忍耐も限界である。当然ながら怒り、苦しみ、憂慮している。いかなる国も企業も、シンガポール市民の健康を犠牲にして大気を汚染する権利はない」という、あくまでもシンガポールは被害者であり、あたかも加害者はインドネシアであるという単純図式であったので、インドネシア側もかちんときました。
インドネシアのアグン・ラクソノ(Agung Laksono)調整相(公共福祉担当)が、「シンガポールは子供みたいに取り乱すな。森林火災はこの時期は自然にも起こるものだし、インドネシアとしても当然望んでいるものではない(自分たちだって被害を受けている)。更に野焼きの主体にはパームオイルやパルプのプランテーション企業が絡んでおり、そういった企業の中にはマレーシア企業やシンガポール企業が複数ある(おまえたちだって加害者)」と応じてきたものですから、ある種の批難合戦となり、やや険悪な状況になったのですが、さすがに最後はユドヨノ大統領の「謝罪」とリー・シェンロン首相の「とりなし」、という「大人の対応」で今はとりあえず落ち着いています。
尤も、今回の件で、プランテーション企業犯人説に注目が集まり、社会的にやり玉に挙げられることになったという副産物があります。
衛星写真をもとに、Hot Spots(火災地点)の場所と各プランテーション企業の貸与地の関係から10数社の企業名が公表され、取引所上場会社の場合は株価が下落。又、そのパームオイル製品等の不買運動もおきています。
ただ、名指しされたプランテーション企業は皆、「自社は決して野焼きなどに加担していない」というスタンスをとっているのは、まあ当然といえば当然でしょうか。
今回の森林火災はその発生規模からして「人災」という認識になっているようですが、具体的にその「真犯人」は一体誰なのかを突き止めるのは極めてやっかいな気がします。
領域、主権、外交問題の難しさが改めて浮き彫りにされるとともに、マレーシア、インドネシアにはさまれた小国シンガポールの脆弱性が再認識された次第です。