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シンガポール通信

Uniquely Singapore
with Global View

前回コラム「エアラインビジネス」の中で、現在の航空会社株式時価総額ベースでの世界トップは中国国際航空(エア・チャイナ)シンガポール航空で、いずれも1兆円を超えています。

という事をお伝えしましたが、2番手グループの中にルフトハンザ(独)や全日空(日)といったレガシーキャリアに伍してライアンエア(アイルランド)とサウスウェスト(米)という所謂、格安航空会社(LCC=Low Cost Carrier)の代表格会社がはいっています。(因みに現在の時価総額はルフトハンザとライアンエアが約7千億円規模、全日空とサウスウェストが約6千億円規模です。)

1971年にテキサス州ダラスで創業されたサウスウェストは、それこそ伝説ともいうべき元祖格安エアラインで、そのビジネスモデルは以降設立された多くの格安航空会社の雛形となっているほどです。

とはいえ、別に特別なことをやっているわけではなく、「目的地への乗客の航空輸送」という究極唯一の目的達成に当たり、平たく言うと「無駄を省いて効率化を図る」事で「低価格運賃を実現」し「それを欲する顧客のニーズに応える」ということでしょうか。

① 機内食といった不要なサービスはなし。
② 客席はすべてエコノミークラスで、定員制自由席。
③ 電子航空券制度を採用しており、紙の航空券は発券されない。
④ web上で簡単に予約ができ、搭乗便の変更も手数料なしで行える。
⑤ 他航空会社との乗り継ぎのための時間調整は行わず、荷物転送もしない。
加えて、経営効率の徹底化が図られており、
⑥ 航空機の地上滞在時間の短縮化の徹底
⑦ 第二空港(主要空港の近くのメインじゃない空港)を使うことにより着陸料を低減化。
⑧ 機種を単一(同社の場合B737)に統一することで整備コスト、乗員教育コストの低減化を図る。
といったところでしょうか。

以上のようなことは地域事情で多少の違いはありますが現在の世界の格安航空会社(LCC)の多くでなされていることです。

ただ、サウスウェストを他の多くの格安航空あるいはメガキャリアも含めて特異な存在にしているのは、「社員第一、顧客第二主義」というその独特の社風にあるようです。

これは、不確定要素の存在する顧客よりも、発展の原動力であり信頼できる人間関係を築き上げることが可能な社員を上位に位置づけているもので、この「従業員を満足させることで、却って従業員自らが顧客に最高の満足を提供する」という経営哲学を追求することにより、実際に高い顧客満足度を得ている。
という、ある意味、今の世の中、改めて考えさせられる社風といえるかと思います。

同社は、
「格安航空会社全般にありがちなイメージとして「従業員の給料が安い」「整備に不安がある」などが挙げられるが、この会社には必ずしも当てはまらないと言われる。同社の総運航コストにおける人件費率は41%で他の格安航空会社より10%前後高く、デルタ航空の人件費率が44%であるのと比べても高い。給与水準は大手航空会社と比較しても遜色なく、操縦士は全米3番目、客室乗務員は全米5番目、地上作業員と整備士は全米最高の給与水準であるという。・・・・乗客が死亡する事故は会社創立以来発生していない。」とのことです。(以上Wikipedia「サウスウェスト航空」)
「アメリカでは少数派の家族主義的経営ともいえ、離職率は5%を切っている。また、対外的にも「愛」を前面に出し、公式サイトでも「LUV(=Love) is ○○○」というキャッチコピーを用いているほか、NYSEの証券コード3文字は「LUV」である。」(同)

さて、現在、格安航空会社がもっとも一般的なのはヨーロッパです。EU圏内では航空行政に関する規制緩和が進み、EUの多くの国に格安航空会社が設立され、欧州内を網の目のように結んでいます。格安航空会社のシェアはEU域内で20%以上、イギリスに関しては50%を確保しているといわれ、アイルランドのライアンエアやイギリスのイージージェットは今や旅客実績においてブリティッシュ・エアウェイズを上回っています

その中でも1985年にアイルランドで設立されたライアンエアは、業界の革命児というか鬼っ子というか、徹底的な価格破壊HP見て下さい。およそ航空運賃とは思えない、衝撃的な価格設定が並びます。まるでスーパーの特売で缶詰でも買うような感覚です。)やEUや航空当局などと常に対立するなど多くの話題を振りまきながら急成長しています。
アイルランドのダブリン空港と、イギリスのロンドンで3番目に大きいロンドン・スタンステッド空港をハブ空港とし、現在ヨーロッパの格安航空会社の中では最大の航路ネットワークを展開しています。

旅行代理店等のオンライン予約システム網を介さず、独自の予約システムを構築して自社ウェブサイトからの予約を基本とし、チェックインなどのシステムを大幅に簡素化してコストを削減し、座席も自由席が原則。新聞や雑誌、機内食などのサービスは行われず、飲物や軽食は有料と、コスト削減のために余計なサービスは一切ない。("No-frills service")であることは普通ですが、時折、ライアンエアーは知名度を上げるためにわざと実行不可能の異様な提案を発表し、注目を浴びることがあります。
「例えば、
•  座席の一部を撤去し、立ち乗りサービスを開始する
•  肥満体の乗客に別料金を適用する
•  受託手荷物を飛行機まで乗客に運ばせる
など。
オ-リアリーCEOはイギリス・BBCのインタビューで機内トイレの有料化を検討していると語っていたが、後に冗談だと判明した。」(以上Wikipedia「ライアンエアー」)
・・・でも、こういうアイデア、悪くないかも・・・

そういえば、先日9月22日付AFPで “ライアンエア、「機内禁煙」に違反しないタバコを発売http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2644719/4646169
とか報道されていましたが、あれも冗談なのでしょうか?

因みに、当地にてシンガポール航空が2003年に49%出資で設立したLCC「タイガーエア」の16%はライアンエア創業者のトニー・ライアンが有しています。
景気の低迷や新型インフルエンザの影響もあり、世界の航空需要は低迷しているようです。

もっとも、航空需要の波なんてものは別に今に始まったわけではなく、ここ20年ほどの間でも結構ありました。

例えば1991年の湾岸戦争勃発の際も航空需要は激減しました。
海外旅行の代名詞でもありました、あのパンアメリカン航空(「兼高かおる、世界の旅」!懐かしいですねえ)が倒産したのもこの年です。
(もっとも、伏線は1978年のカーター政権時に制定された「航空規制緩和法」により、米国で路線や運賃などの自由化が進められたことにあるようです。
旧体質(規制による既得権益を前提にした非効率体質)を改善できず競争に落伍していった結果のようです。
なんとなく、どっかの国のナショナルフラッグ航空の現在の姿のようですねえ。)

面白いのはこの航空不況時に保護政策がとられることなく、逆に1992年に米国とオランダとの間で初めてのオープンスカイ協定(航空路線開設の自由化)が締結され、以後、締結国が拡大していく布石になったということでしょうか。

さて、航空産業に劇的なインパクトを与えた事件といえば、なんといっても2001年の米国同時多発テロでしょう。事件発生後、セキュリティーコストは増加する一方で、航空需要は激減するというまさに踏んだりけったりの事態になりました。

01年以降経営破綻した主なエアラインは、
01年にTWA(米)、ミッドウェイ(米)やスイス航空、02年にはユナイテッド(米)にUSエア(米)、03年にはハワイアン(米)やエアカナダ(加)、05年にはデルタ(米)やノースウェスト(米)等が有ります。
一方、生き残りの為の再編も盛んでTWAはアメリカン航空が買収。USエアはアメリカウェストと合併。ノースウェストはデルタが買収、等々。
日本でも、日本エアシステム(JAS)が日本航空(JAL)に経営統合されたのは2002年の事です。
04年にはエールフランスとKLMが統合。06年にはルフトハンザとスイスインターナショナルが統合しています。

このような大手航空会社の合従連衡の動きは、経営規模の拡大によって効率化を図る(早い話、要はコストを下げる)のが狙いなのですが、各地でのLCC(低コスト航空)の台頭もあり、一筋縄ではいかないようです。再編淘汰は今後も続きそうです。

さて、トップエアラインの代名詞的存在の当地シンガポール航空も現下の航空「不況」の例外ではありません。
このエアライン株式時価総額で世界2位のシンガポール航空(SIA)が先月発表した第1四半期(4~6月)決算は、3億700万Sドル(約202億円)の赤字でした。
SIAが四半期ベースで赤字になったのは、アジアが新型肺炎SARSに見舞われた2003年4~6月期以来の事です。
要因は世界同時不況、新型インフルエンザの発生による航空需要の低迷とのことですが、赤字の内訳は、SIA単体が2億7,100万Sドル(約178億円)、地域航空のシルクエアーが300万Sドル(約2億円)、貨物部門のSIAカーゴが1億400万Sドル(約68億円)となっているものの、燃料ヘッジ取引の失敗による損失が2億8,700万Sドル(約189億円)となっており、要はヘッジ取引の「失敗?」が赤字の大半のようです。

一方、エアライン株式時価総額世界1位の中国国際航空(エア・チャイナ)が先般発表した今年上期(1-6月)の利益は29億元(約450億円)の黒字で前年同期比倍増以上の結果になっています。
燃料コストの低下と旺盛な旅客需要の増加を主因としていますが、燃料ヘッジ取引でSIAとは逆に15億元の利益が計上されており(一体どういう「ヘッジ」取引なのでしょうか?)、通常収入の増加に加え特殊要因が働いているようです。

■ 一口メモ
世界の航空会社の株式時価総額ランクは、上述のように1位が中国国際航空で、2位がシンガポール航空というのは最近の不動の順位のようで、時価総額が1兆円を超えているのは現在この二社のみです。ただ中国の航空会社についていうと中国国際航空の他にも、中国東方航空、中国南方航空、海南航空の合計4社が航空会社時価総額世界20位以内に入っているのですが、中国企業は他の産業でもそうですが、政府保有株式比率が大きすぎるので単純な時価総額で計るには無理があります。因みに中国国際航空の政府保有比率は8割を超えています。一方シンガポール航空の政府(テマセック)保有比率は5割強です。

さて、現在世界で唯一の景気牽引地域(というか牽引期待地域)ともいえるアジアにおいてもナショナルフラッグ航空会社の業績はまちまちです。国際航空運送協会(IATA)によると6月の国際線旅客数はアジア太平洋地域の航空会社でも前年同月比14.5%減少したそうです。

そういった中、唯一気を吐いているのはアジアの格安航空会社(LCC)群でしょうか。
アジアでの低価格化の加速に加え、航空機利用可能所得世帯の増加を追い風に台頭してきています。
前回、「100近くある日本の空港の9割以上が赤字経営」という事をお伝えしたのですが、空港を空港「業」というビジネスの観点で改めて捉え直してみますと、実は空港というのは本来「儲かるビジネス」のようです。

例えば、テーマパークとか遊園地といった典型的「集客ビジネス」では、要は「集客力」が事業の鍵なわけですが、空港の場合、航空機の利用客は否応なしに空港を利用せざるを得ないのですから、航空機利用者数が成長する限り、ほっといても全体としての空港利用者数は成長するという図式になります。

世界景気の低迷あるいは新型インフルエンザの影響で一時的には航空機利用者数が減少しているように見えるかもしれませんが、世界的には人口は拡大(爆発?)しており、新興国を中心とした航空機利用可能所得世帯の成長を考えると、数字は増えこそすれ減らないようです。

まあ理屈の上ではそうなのですが、日本においては空港なんていうものは未だに利権の対象でしかなく、ビジネスとしての対象からは程遠い状況です。
例えば空港の構成要素は、滑走路、誘導路及びエプロンといった「基本施設」と、空港ターミナルビルや駐車場といった「周辺施設」から成っているわけですが、日本においては株式会社空港は別にして、国管理空港や地方自治体管理空港では、会計主体自体が基本施設、ターミナルビル、駐車場で違っており、国の特別会計(及び自治体会計)、第3セクター、財団法人等で夫々バラバラに行われているという実態のようです。
これだと、空港全体としての収益、費用の把握すら出来ず、要は(空港)「経営」にあたってのイロハのイが無いわけですから、そもそも(空港)「経営」という概念自体が育たず、誰も責任を取らないし、取れないし、取る必要がない空港が乱立するということになってしまいます。毎度毎度 役所が絡む話には頭が痛くなってきます。

さて、世界で最初に民営化され株式上場を果たしたのは1987年の英国空港会社(BAA)です。ターミナル事業を商業化することで着陸料等の空港使用料以外からの収入(非航空収入)を増やし、空港使用料を抑制しながら株主価値を上昇させました。
BAAは07年にスペインの不動産会社フェロビアルとPEファンドのコンソーシアムに買収され上場廃止になったものの、その経営戦略は民営化空港の代表事例になっています。

一般的な空港では、「非航空収入」の割合は総収入の5割が一つのハードルらしいのですが、BAAの非航空収入の割合は一時7割を超えたそうです。
株式市場は高くBAAを評価し、ピーク時には株式発行時の5倍以上の株価をつけました。

BAA民営化の成功以来、「空港は儲かるビジネス」として脚光を浴び、特にターミナル事業の収益性が注目されました。90年代にはドイツ、スウェーデン、ベルギー等の欧州諸国で、空港株式の一部を特定企業に売却する方式で民営化が進み、又オーストラリアでは、連邦空港公社が管理運営していた主要空港を長期リースによる営業権の売却というかたちで民営化。メルボルン、ブリスベーン、アデレード、キャンベラ、シドニーの各空港等が、地元企業と海外の空港会社や建設不動産会社、ファンドとの企業連合に売却されています。

官民パートナーシップ(PPP)やPFIといった手法で民間が資金を提供し、空港の整備、運営を受託するケースも増えています。

又、空港会社の買収も盛んで、未上場ケースでは、ブリュッセル、ブダペスト、ムンバイ、デリー等、上場会社ではローマ、コペンハーゲン、BAA等が買収されています。

コペンハーゲンや「日本空港ビルディング」(羽田空港ターミナルビルを所有する東証一部上場会社)に出資するオーストラリアのマッコーリーや、先に述べたフェロビアルは、「インフラ事業は経営の無駄さえ省ければリターンの向上は容易」と述べています。

世界には株式市場に上場されている空港が多くあるのですが、意外なのは中国の主要空港の多くが公開上場されているということでしょうか。
中でも上海、北京は共に時価総額ベースで空港会社世界5位以内にはいっています。(トップはフランスのド・ゴール空港、オルリー空港を擁するADP)

以前ご紹介しましたように当地シンガポール・チャンギ空港の運営は、この6月までは交通省の外局のCAAS(シンガポール民間航空庁)が行っておりましたが、7月1日より空港運営を行う空港新会社(Changi Airport Group)と、航空交渉や航空管制、ライセンス発行機能をもつ新CAASに分かれました。
シンガポールで空港関連上場会社というとSingapore Airport Terminal Services Ltd というチャンギ空港での地上サービスや機内食などの事業を手がけているシンガポール航空の子会社があるのですが、多分将来はChangi Airport Groupからいくつかの上場会社が生まれてくるのではないかと楽しみにしています。

そういった中、成田国際空港株式会社は平成22年度に上場を目指しているらしいのですが、はてさて如何なる株価形成がなされるのか見ものです。