クロヤギ頭の読まず買い -16ページ目

クロヤギ頭の読まず買い

ちまちまと進まない読書をしつつ、本を買うのは止められない。

こんなに買っていつ読むん?と自分に一人ツッコミを入れつつ日々を暮らす不良主婦の読書(購入)記録ブログ

天地明察/冲方 丁
(2009.11)
¥1,890
Amazon.co.jp

なんとまあ、こんな贅沢な小説があっていいものか!!


475ページの残り10分の1くらいになった時には読み終えるのが惜しいと心から思いました。


読み終えていうのもおかしいですが、歴史小説の中でも、戦をする武将よりも、学問や芸事のプロフェッショナルの話が殊に好物な私には垂涎モノ。


これを己の天職と定め、心の奥から湧き出でるような欲求に任せるまま、その職分を全うするそんな男たちの生き様に、羨望とともに涙を禁じえない、そんな傑作です。


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


「は……春海様……。い、いよいよです。こ、この日本の改暦の儀が、いよいよ決します。」泰福が言った。



将軍家出入りの碁打ちの安井家で、養子にとった兄の後に生まれた安井算哲。


しかしながらこの安井算哲という名は、碁打ちとしての安井家の家督を継ぐものの名前であり、碁の名手である兄を慮るとともに自ら思うところあって、碁打ちとしての公式の場以外では好んで渋川春海と名乗ったという。


算術が学問としてよりも知識人の趣味のような趣もあったこの頃、江戸は金王八幡の境内に座り込んだまま絵馬に掲げられた算術の難問を解こうとする春海がいた。


登城の時刻が迫り、境内を掃除する美しい娘・えんに箒で追われ、慌ててその場を離れた春海が腰に差し慣れぬ両刀を取りに戻った間にすれ違うようにして、一瞥にしてその難問の数々に正答した男がいた。


絵馬には解答と"関"という署名のみ。


これが後に鑑みて世界でも卓越した数学者であった関孝和と渋川春海の間接的で運命的な出会いであった。


やがて時の大老となる酒井忠清から水戸光国を通じ、会津藩主であり、将軍家の御落胤で陰の大立者・保科正之公の引き立てで、800年を経ての改暦という大事業を背負って立つ渋川春海の生涯を賭けた勝負がここに始まる…。


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


登場人物のそれぞれが皆かっこよくて、好きな登場人物のアンケートを取ったら10人以上に意見が分かれるんじゃないの?と思います。


反面、なんだか大好きなおもちゃで遊んでる大きな子どもたちの姿を見るようでもあります。


滅多に買わない新刊ですが読んでよかった~


男も女も、いい男に惚れたい歴史小説好きのア・ナ・タ(笑) 是非に読んでください。


そういや、先月絶賛したのも算術・算額絡みの話でしたねぇ。(『烏金 』)

ブラバン (新潮文庫)/津原 泰水
(2009.11)
¥620
Amazon.co.jp

先日ダッシュで書店に寄った際に、ランキングだか店長オススメだかのコーナーをチラッと眺めて目に留まった本が3冊…また忘れないうちにと古本で買ったり図書館にリクエストしてみた中の1冊です。


☆☆ ☆☆ ☆☆


他片(たひら)等は赤字続きの酒場を経営するマスター。


バンドで演奏できるなら何でもいい、そんな気持ちで典則高校の吹奏楽部に弦バス(コントラバス)担当で入部した時から四半世紀が過ぎた。


昔の仲間が店を時折訪ねてくる以外は、軽音楽部と掛け持ちで活動し音楽漬けだった日の名残はなく、楽器も手許にあるのは古びたマンドリンだけ。


都会的な話し方や佇まいで皆の憧れであり、途中で転校してしまった桜井さんの披露宴で演奏するため、吹奏楽のバンドを再結成する話が持ち上がり…。


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


表紙だけ見るとなんとなく高校生の爽やか青春部活物語かと思いきや、


「バスクラリネットの死を知ったトロンボーンとアルトサクソフォンは、ちょっとしたパニックに陥った。…」


物語はこんな書き出しから始まり、今度はなんだか音楽ミステリみたいで愉快。


その実は、高校時代に同じ空間や時間、そして音楽を共有した仲間が再び出逢う。


亡くなった者、心の病に冒された者、事故に遭った者…それぞれ現実と向かい合いながらも束の間の夢の続きを見ようとする。


高校時代とて、三角関係、恐喝の被害者、顧問の独身教師の妊娠…夢のような出来事ばかりではなかったのだが。


…と、そんなほろ苦い切なさに満ちた物語。


著者が広島出身らしく、会話は地方色たっぷり。


ジャズやロック、楽器の薀蓄が満載で、娘や友だちが楽器やってるくらいの知識しかない私にはかなりの部分はわからなかったりもしたのですが、それでも十分面白みのある作品です。


特に技術や楽器の良し悪しではなく、人が音楽を求める精神、ココロを熱く語る部分には深く感じるものが。


ジャンル問わず音楽を愛する方、高校時代の部活が青春だった!という中年を自認する方に♪

アカペラ/山本 文緒
(2008)
¥1,470
Amazon.co.jp

どうも私は端的に本の感想をまとめるのが苦手なんですよ。


また時間が経つと内容をすぐ忘れるので、何かの写しではなく、自分なりにあらすじをまとめてみたりするのもいいかと、つい長々と書きますが、最近本は結構読んでいるものの、パソコンを自由に使える時間が少なく、記事にしてない本ばかりが増えてきております。


この記事のスタイルもそろそろ考えないといけませんねぇ…


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


「タマや、捜さないでください、…」


ママ鏡子がまた家出した。


15歳の中学生・権藤たまこ(通称ゴンタマ)は、なぜだかたまこを"まあこさん"と呼ぶお洒落で料理上手なじっちゃんと夫婦のように仲睦まじく暮らしていたのだが、GW明けには戻るかと思ったママは夏休みが始まっても戻らなかった…。


父親は単身赴任を口実に連絡もよこさず、母親は放浪癖があり、じっちゃんはいくらか呆けている(らしい)。



人からみれば可哀想な境遇のたまこだが、本人はいたって平静である。



就職ーそんなゴンタマの進路調査票を見て仰天。



初めて生徒と本気で向き合ったデモシカ教師の蟹江ことカニータだが…。


「アカペラ」


高校三年でふらっと家出したまま、父親の死を機に二十年ぶりに実家に帰省した春一は、父との激しいいさかいの火種になったかつての恋人で幼馴染の美緒と、父が孫のように可愛がったというその娘に出会い…。


「ソリチュード」


永年社長秘書を務める姉と病弱で働いたことのない弟。


他人が入る隙間のないほどにお互いを当たり前のように思い遣るその姉弟と、その弟に恋をした十九歳の心温(ココア)。


社長の引退で希望退職する姉に求婚者が…。


「ネロリ」


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆



三つの家族の物語を収めた中編集。


表題作では、ゴンタマこと権藤たまこが語るジュブナイルのような書き出しが、途中で担任のカニータの視点にスイッチ。


たまこの進路相談のはずが、いつの間にか目を背けてきた自分と対峙しているような気分にさせられていく蟹江


少女と青年、それぞれの物語のようで俄然面白くなります。


姉の視点と心温の視点、それぞれの年齢や立場の違いから一つの家族に起こった出来事が語られる「ネロリ」、中学に進む前の多感な時期にある美緒の娘・一花と春一の交流を軸に、彼らを取り囲む近しい人たちの過去から今に至るそれぞれの生活と想いが、春一の胸に刻まれてく「ソリチュード」。


山本文緒は読んだことないけど、平安寿子、伊藤たかみ、鷺沢萠…の小説なんかが好きって方に是非お薦めしたいと思います。


かくいう私も以前は昔のどろどろ恋愛ドラマ原作のイメージで避けてたんですよ、山本さん


この次の次に読んだ最近話題のあの歴史小説があまりによかったので、ちょっとインパクトが薄れてしまいましたけれども。

猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)/平出 隆
(2009.5 フランスでは2006年に文庫化)
¥599
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たまに何かで見かけた本が急に読みたくなって買いに走ることがあります。


大きな書店にしかない時には、電話で在庫を尋ねてレジ脇に取り置き、就業後に慌てて受取りに立ち寄って、家族が料理番を待つ家に帰るというのが恒例。


最近は職場から近い旭屋書店が御用達になっておりますが、たまには飽きるまで本屋を眺めて帰るような余裕を持ちたいものです。


さてさて、これはそんな風にして買い求めた、詩人でもあり国内よりも海外で認知度が高いのではないかと思われる著者の自伝的エッセイ。


J書店のメールマガジンで下の新刊を見て興味を惹かれ、とりあえず既刊の文庫を読んでみることに。


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


著者夫婦がその折れ曲がり具合から"稲妻小路"と名付けた小路の先で、1950年代にここを買ったという老大家夫婦の敷地内にある離れ一戸。


やがては会社を辞めて物書きで食べていこうとする夫と、校閲者の妻。


子どもはおらず、特に欲しいとも思わない三十代の夫婦の静かな暮らしである。


欅のある隣家の男の子が子猫を飼うという。


やがて"チビ"と名付けられた美しい猫は庭を通って出入りし、庭で妻と玉遊びをし、布団を出した押入れの中で眠っていくようになる。


「ーシャンシャン、来ないねえ。」とこの夫婦の家族同様の客として心待ちにされる存在になるのだが…


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


タイトルの通り、第二の我が家のように隣家からこの夫婦の家を訪れた「猫の客」との触れ合いを軸に、やがては年老いた大家の敷地ごと三分割されて売却されることになったその離れの暮らしと、その猫をはじめありのままにある生き物を愛した妻、大家との交流や、年老いた大家に代わって庭の手入れをしつつ目に留まって親しい気持ちを抱いた生き物や木々のこと、早世した友人のこと…などなど、気取りのない中に詩人らしさの覗く品のある文章で綴った回想録。


手に汗握るおもしろい本とはまた違って、何回読み返しても、細切れの時間で日々少しずつ読み進めても飽きないのは、こんな文章ではなかろうか、と思わせてくれます。


著者がアムステルダムで親しんだ最初の「特別の猫」ベルタが登場する、装填の美しいこんなエッセイにも惹かれます。


ウィリアム・ブレイクのバット/平出 隆

¥2,940
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著者の新刊。


鳥を探しに/平出 隆

¥3,990
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奇跡の自転車/ロン・マクラーティ
(2006 森田 義信 訳)
¥2,730
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戦前から戦後にかけての日本を舞台に、実用自転車を使用した日本縦断自転車レースを題材にした小説『銀輪の覇者 』を記事にした時にネットで見かけて、indi-bookさん からのプッシュもあり自転車つながりで購入した1冊。


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆

43歳で体重126キロのスミスソン(スミシー)・アイド。

ロードアイランド州イースト・プロビデンスで育ったぼくは、恋人も友だちもなく、昼間はアクション・フィギアの製品検査係、夜はラウンジでビールを飲みながらスポーツ中継を観て日々を過ごしている。


1990年の8月。幼い頃から何度も訪れた湖の側のキャビンでぼくと一緒に休暇を過ごした後、両親の乗った車が事故に遭い、やがて二人は別々に息を引き取る。


何十年か振りに幼馴染みのノーマに会い、両親の葬儀を終えた時、父宛ての郵便物でベサニーの死亡通知を読んだぼくは、少年時代愛用した自転車を修理しようと家を出たまま、路上で暮らしていたという51歳の彼女の遺体の待つロサンジェルスを目指していつの間にかアメリカ横断の旅に出ていた…


べサニーは完璧なまでに美しいぼくの姉で、"フック"と呼ばれていたぼくにはもちろん、父にも母にも、妹のように育ち幼い頃ぼくの傍を離れなかったノーマにも、ジョークを連発する愉快な伯父や料理上手な伯母にも愛されていた。


なのに、頭の中であの"声"が命令をはじめると、べサニーは所構わず突然服を全て脱ぎ捨てて何時間も同じポーズをしたまま動かなくなり、行方が分からなくなったり、自分の顔を骨が見えるまで爪で傷つけたりして、いくつもの精神科医に通った。

その間に小さなノーマは自動車事故に遭い、小さな車椅子に乗っていつもアイド家の窓を眺めるようになり、ぼくたちもべサニーのことを口実にノーマを訪ねることを止めてしまった。


ぼくはベトナムで負傷して以来、走る事もせず酒と煙草とジャンクフードのせいで巨大化し、そして結婚式を挙げて幸せのただ中にいたはずの姉はいなくなったまま二度と帰ることがなかった…


☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆

愛に溢れているのに長い間辛い想いを共有してきた家族を一度に亡くしたスミシーは、誤解されて酷い扱いを受けることもあるけれども、東海岸のノーマと連絡を取りながら旅を続け、自分と同じように家族や恋人や友だちをなくしたとても哀しくて優しい人たちに出会い、また本を読む楽しさを思い出します。


作家としてはほぼ無名だった俳優である著者の朗読するオーディオブックをスティーブン・キングが絶賛し、瞬く間に出版に至ったのだとか。


読んだとたんに快哉を叫びたい本もあれば、下手に言葉を連ねても、その本の持つ独特の雰囲気や微妙なニュアンスが人に伝わるように説明するのが難しい作品がたまにあると思うのですが、この本は後者の方。


好みは分かれるかもしれませんが、お薦めです。