- 猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)/平出 隆
(2009.5 フランスでは2006年に文庫化)
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たまに何かで見かけた本が急に読みたくなって買いに走ることがあります。
大きな書店にしかない時には、電話で在庫を尋ねてレジ脇に取り置き、就業後に慌てて受取りに立ち寄って、家族が料理番を待つ家に帰るというのが恒例。
最近は職場から近い旭屋書店が御用達になっておりますが、たまには飽きるまで本屋を眺めて帰るような余裕を持ちたいものです。
さてさて、これはそんな風にして買い求めた、詩人でもあり国内よりも海外で認知度が高いのではないかと思われる著者の自伝的エッセイ。
J書店のメールマガジンで下の新刊を見て興味を惹かれ、とりあえず既刊の文庫を読んでみることに。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
著者夫婦がその折れ曲がり具合から"稲妻小路"と名付けた小路の先で、1950年代にここを買ったという老大家夫婦の敷地内にある離れ一戸。
やがては会社を辞めて物書きで食べていこうとする夫と、校閲者の妻。
子どもはおらず、特に欲しいとも思わない三十代の夫婦の静かな暮らしである。
欅のある隣家の男の子が子猫を飼うという。
やがて"チビ"と名付けられた美しい猫は庭を通って出入りし、庭で妻と玉遊びをし、布団を出した押入れの中で眠っていくようになる。
「ーシャンシャン、来ないねえ。」とこの夫婦の家族同様の客として心待ちにされる存在になるのだが…
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タイトルの通り、第二の我が家のように隣家からこの夫婦の家を訪れた「猫の客」との触れ合いを軸に、やがては年老いた大家の敷地ごと三分割されて売却されることになったその離れの暮らしと、その猫をはじめありのままにある生き物を愛した妻、大家との交流や、年老いた大家に代わって庭の手入れをしつつ目に留まって親しい気持ちを抱いた生き物や木々のこと、早世した友人のこと…などなど、気取りのない中に詩人らしさの覗く品のある文章で綴った回想録。
手に汗握るおもしろい本とはまた違って、何回読み返しても、細切れの時間で日々少しずつ読み進めても飽きないのは、こんな文章ではなかろうか、と思わせてくれます。
著者がアムステルダムで親しんだ最初の「特別の猫」ベルタが登場する、装填の美しいこんなエッセイにも惹かれます。
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著者の新刊。
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