旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の解散命令請求に関連し、3/1に統一教会に対する4回目の質問権が行使され、約110項目について報告を求めましたが、3/15の教団からの返事は封筒1通のみだったとのことです。現在、5回目の質問権行使の可能性があるとのことであり、解散命令請求の可否判断は4月以降にずれ込む公算とのことです。
以下、統一教会の解散命令請求に関連するこれまでの情報を集め、まとめておりますので、ご参考ください。もし抜けている情報や誤りがあれば、遠慮なくご指摘ください。
前回の記事から、主に12/9以降の動き(初回から4回目までの質問権の行使、12/8の解散命令請求を求める署名提出、統一教会側からの意見書や嘆願書の提出、2/3の教団財産保全のための野党法案作成の動きなど)、今後のスケジュールを追加しています。今後も不定期で、追加情報をアップデートしていく予定です。
[目次]
- 宗教法人解散命令の手続きと要件
- 統一教会の解散命令に関する主な経緯
- 宗教法人解散命令の結果・影響
- 宗教法人の調査(報告・質問)制度
- 宗教法人の税制優遇(作成中)
- 宗教法人法とその改正議論(解散命令関連)
■宗教法人解散命令の手続きと要件
裁判所による解散命令は、次の要件に該当すれば、所轄庁(文部科学省文化庁または都道府県知事)、利害関係人(信者も含む)若しくは検察官の請求により、又は裁判所の職権で行える。
- [法令違反] 法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと(宗教法人法第81条第1項)。
- [目的逸脱行為] 宗教法人法第2条(注1)に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと(宗教法人法第81条第2項)。
【解散命令請求の要件】は、文部科学省(9月12日など)の説明によると、具体的には「役職員が刑事罰を受けたこと」と解釈されるという。
(※統一教会について、2009年の新世事件があって懲役刑(注2)が出ているが、販売会社は宗教法人とは別法人のため、上記の解散命令の要件を満たさない。)
ただし、上記の条文にはそのような限定は一切なく、解釈の余地がある。これまで、解散命令請求について刑事事件の判例しかないのは、文化庁が刑事事件の事例(オウム真理教と明覚寺)でしか解散命令の請求をしなかったためと考えられる(注3)。
これに対し、岸田首相(10月19日)は、解散命令請求の要件に「民法上の不法行為」(民法709条(不法行為責任)および715条(使用者責任)を含む)も入り得るとし、そうした違法行為として認められるために「組織性・悪質性・継続性」を要件として述べた。
(※統一教会の問題は、すでに教団の組織的不法行為を認めた民事裁判例が多数(政府が確認したのは22件)ある。統一教会の事案は715条違反も多い。一方、問題の多くが家族間で起こっており、警察は積極的に立件しない。)
- 参考記事:菅野志桜里『「民法上の不法行為は解散命令要件にあたらない」とどうなるの?』 2022.10.18
なお、上記の1号2号の解散命令請求の要件は、過去形であるため、統一教会の反省や改革は要件該当性に関係ないと解釈できる。
【請求人】について「利害関係人」も解散命令を請求できるが、これには信者が含まれるというのが通説である。国も含まれるという議論もある。債権者も含まれるが、教団が借金を返済すれば債権者でなくなるため、利害関係人ではなくなる。
【信教の自由との関係】については、宗教法人の解散命令は宗教法人格を剥奪するという重い結果をもたらすため、信教の自由を保障する観点からは慎重に判断すべきものである。
ただし、1996年のオウム真理教事件最高裁判決によると、解散命令は「信教の自由」の直接的な侵害にはあたらないとされる。宗教法人を解散したとしても、信教の自由は保たれる。その論理としては、宗教法人法は、団体が施設などの財産を所有して維持するために法律上の能力を与える目的であり、法による団体への規制は、精神的・宗教的側面は対象外で「信教の自由」に介入しようとするものではないからという。
注1:宗教法人法第二条 この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。
一 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体
二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体
注2:「新世」事件の論告。「新世以外の教区や全国の統一教会の物販店舗にまでその手法を広めていたことが認められる」「犯行の動機・目的は極めて反社会的で悪質である」「統一教会の組織を背景に同種手口で信者や献金の獲得のために活動している他の会社にも多大な影響を及ぼした点も悪質である」
注3:オウム解散の理由は 「本件プラントによるサリンの生成は、...殺人予備行為に該当することが明らかであるのみでなく、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為であり、また、宗教法人法2条の定める宗教団体の目的を著しく逸脱した行為であることはいうまでもない」(参考:判決文)
■統一教会の解散命令に関する主な経緯
- 【参考資料集】統一教会の解散命令請求~これまでの経緯と参考記事~→こちら。
2022年8月29日、消費者庁の霊界商法等への対策検討会始まる(~10月17日)。
2022年9月16日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、「文部科学大臣は、旧統一協会に対し、宗教法人法第78条の2に定める報告質問権を行使するとともに、同法第81条1項に基づき解散命令を請求されたい。」と声明を出した(声明文へ)。
2022年10月6日、岸田首相は参院本会議の代表質問で、旧統一教会の解散命令請求について「慎重に判断する」と答弁した(参考記事へ)。
2022年10月11日、全国弁連が都内で会見を開き、文部科学相と法務相に対し、旧統一教会の解散命令請求の申入れ(郵送)をした(公開申入書へ)。
2022年10月17日、消費者庁の霊界商法等への対策検討会が報告書を公表し(報告書へ)、統一教会について解散命令請求も視野に入れた質問権などの行使を提言。これを受け、岸田首相が、統一教会に対する質問権の行使を永岡文科相に指示。また同日、統一教会の解散を求めるネット署名が始まる(署名サイト)。
2022年10月19日、岸田首相は参議院予算委員会で、統一教会の解散命令請求の要件に関連して「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかになり、宗教法人法の要件に該当すると認められる場合には、民法の不法行為も入り得る」と述べた。
2022年10月24日、岸田首相が参議院予算委員会で、統一教会への質問権行使に当たり、被害者らから直接話を聞く考えを表明した。
2022年10月25日、文化庁による有識者会議の初会合で、どのような場合に「質問権」を行使できるかという基準などを議論した。宗教団体幹部や法律の専門家ら19人で構成。
2022年10月28日、岸田首相は首相官邸で記者会見し、「文化庁の宗務課の体制について、従来の8名を、来月には38名に拡充する」と表明。「法律や会計の専門家の協力を得つつ、他省庁が把握している情報の提供を受けるとともに、被害者や旧統一教会問題をよく知る弁護士の団体などからも情報提供を得て、必要な協力を得ていく」と述べた(参考:FNNプライム)。
2022年11月8日、文化庁の有識者会議が「質問権」行使の基準をまとめ、宗教法人に所属する人物の行為について民事・刑事を問わず公的機関が法令違反と認めた判断があり、かつ法令違反行為が繰り返されるなどの場合に調査できるとする。統一教会は、少なくとも20件の民事判決があることなどから基準に合致すると判断。
2022年11月21日 文科省が統一教会への「質問権」の行使を宗教法人審議会(非公開)に諮問し、了承を得る。
2022年11月22日 文科省が統一教会に対して「質問権」を行使し、組織運営体制や財務状況などに関する報告を求める文書を送る。
2022年12月9日 初回質問権行使(11月22日)に対する回答が、文科省に届く。段ボール8箱分の文書。
2022年12月9日 解散命令請求を文化庁に求める署名20万超筆が、文科省に提出。
2022年12月10日 統一教会が「質問権行使は違法」とする意見書を文科省に提出していたことが分かる。
2022年12月14日 文科省が統一教会に対して2回目質問権を行使し、高額献金を巡る22件の民事判決など、より焦点を絞った報告を求める。
2022年12月21日 統一教会が、解散請求をしないよう求める信者約2万3千人分の嘆願書を、岸田首相宛で文化庁に発送。
2023年1月6日 2回目質問権行使(12月14日)に対する回答が、文科省に届く。段ボール4箱分。
2023年1月18日 文科省が統一教会に対して3回目質問権を行使し、信者からの献金や韓国本部への送金といった指揮命令の仕組みや資金の流れなどについて、約80項目について報告を求める。
2023年2月3日 立憲民主党と日本維新の会の幹部が、解散命令が請求された場合に教団の財産を別の団体や個人に移すことを禁じる法案を共同で作成する方針で一致。
2023年2月7日 3回目質問権行使(1月18日)に対する回答が、文科省に届く。段ボール2箱分。
2023年3月1日 文科省が統一教会に対して4回目質問権を行使し、教団の組織運営や各地教会の管理、信者団体の信徒会と教団の関係などについて、約110項目について報告を求める。
2023年3月15日 4回目質問権行使(3月1日)に対する回答が、文科省に届く。封筒1通。
2023年3月16日 教団側の弁護士が文科省に申し入れ書を繰り返し送り、ほかの宗教団体で起きた事件の裁判例などをもとに解散命令請求をしないよう求めていることがわかる。
【今後のスケジュール】
- 5回目の質問権行使の可能性。
- 解散命令請求の可否判断は4月以降にずれ込む公算(重大な法令違反などの請求要件が必要)。
■宗教法人解散命令の結果・影響
これまで宗教法人の解散命令が出されたのは、オウム真理教と明覚寺(和歌山県)の2件のみ。いずれも刑事事件で、教祖が有罪になっている(注4、注5)。
宗教法人が解散されても法人格や非課税などの特権を失うだけで、任意団体として、信徒は信仰を続けられる。
また、宗教法人の解散命令が出ると、法人に債務があれば、残余財産(礼拝施設など)を債権者に分配するために「清算人」が裁判所から任命される。債権者が献金等の損害賠償をする場合は、基本的に、清算人相手に請求することになる。このため、事実上、宗教団体にとっては死活問題になり得る。
注4:1995年3月の地下鉄サリン事件により、同年6月、検察官と所轄官庁である東京都の鈴木俊一知事は、東京地裁にオウム真理教の解散命令の請求を行った。同年10月、1審で請求を認める決定を行ったが、オウムは即時抗告。2審は1審を支持し、即時抗告を棄却したため、オウムは信教の自由を侵害するとして最高裁に特別抗告した。1996年1月、最高裁は抗告を棄却、解散が決定した。
注5:1995年10月、明覚寺系列の満願寺(名古屋市)に対して、愛知県警が強制捜査に着手した。1996年3月までに僧侶9人と最高幹部の西川ら2人を逮捕。11人は詐欺罪で起訴され、1999年7月、名古屋地裁で8人の有罪が確定したため、同年12月、文化庁が和歌山地裁に明覚寺の解散命令の請求を行った。2002年1月、和歌山地裁は解散命令を出した。そして2003年4月、最高裁で西川は懲役6年の実刑が確定した。
■宗教法人の調査(報告・質問)制度
宗教法人について解散命令事由(宗教法人法第81条第1~4項)に該当する疑いがあると認めるときは、所轄庁(文部科学省文化庁宗務課)は当該宗教法人に対して報告・質問制度(報告徴収・質問権)を利用できる(宗教法人法第78条の2第1項、1995年新設)(注6)。
こうした「報告徴収・質問権」を行使する基準は、宗教法人に所属する人物の行為について民事・刑事を問わず公的機関が法令違反と認めた判断があり、かつ法令違反行為が繰り返されるなどの場合に調査できるものとされた(文化庁による2022.11.8有識者会議)。
報告徴収・質問権を行使する際には、あらかじめ報告を求める事項や質問事項を宗教法人審議会に示し、その意見を聞かなければならない(同第2項)。宗教法人審議会は、文部科学大臣が任命する10名~20名の組織で、宗教団体関係者や法律家などが委員になっている。
その後、宗教法人に対し「質問・報告」を求めるのは、宗教法人の同意がなくてもできる。質問に回答しなかったり虚偽報告をしたりした場合、幹部らに10万円以下の過料を科す罰則規定が設けられている。
→宗教法人の業務や事業の管理運営に関する事項に関し、相手の反論や弁解を聞いて、疑いが固まれば解散命令請求し、疑いが晴れれば解散命令請求しないといったもの。
ただし、宗教法人施設への「立ち入り」は、法人側の同意が必要。ただし、施設内の資料を強制的に入手できるわけではない。
これまで、宗教法人に対して調査制度が利用されたことはなく、文化庁宗務課は調査を行うのに否定的な態度であった。文化庁宗務課は、人員8名、年間予算4700万円程度の小さな組織。2022年11月に、人員38名に増員された。
- 参考記事:菅野志桜里『【緊急投稿】誰が何を質問するの?素朴な疑問に答えます』 2022.10.17
注6:宗教法人法第七十八条の二 所轄庁は、宗教法人について次の各号の一に該当する疑いがあると認めるときは、この法律を施行するため必要な限度において、当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求め、又は当該職員に当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に対し質問させることができる。この場合において、当該職員が質問するために当該宗教法人の施設に立ち入るときは、当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者の同意を得なければならない。
■宗教法人の税制優遇(作成中)
■宗教法人法とその改正議論(解散命令関連)
「宗教法人法」は、礼拝施設の維持管理や献金など、宗教団体の「世俗的事項」のみを規定するもので、憲法で保障された信教の自由に基づく宗教行為を制限すると解釈されてはならない(文化庁の解説)。
「宗教法人」は法人税法で定める公益法人であって、献金など宗教活動に伴う収入や、「喜捨」と見なされるお守りやおみくじの収入などは非課税となる。絵はがきなどのお土産販売や有料駐車場経営など、宗教活動以外の収益事業は課税対象である。社会的信頼度が増すとか、法人として契約を結べるといった利点がある。
宗教法人法の改正に関して、消費者担当相が所管の文科省に調査権の発動を勧告できるなど、他の大臣を関与させる仕組みも一つの案である(菅野志桜里、参考:10/13東京新聞)。
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