この週末に予定していた山はどうやらお天気がよくない。休みやテント場の予約を確保していてもお天気まで合わせるのは難しい。仕方がないのでどこか行ける山を探す。松本在住の良いところは、文字通り四方八方を山に囲まれているのでエリアの選択肢が多い点だ。今回も東西南北色んな山の天気を調べ上げて、奥秩父の代表的な山のひとつ、甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)へ向かうこととした。
甲武信ヶ岳は甲斐(山梨)、武蔵(埼玉)、信濃(長野)の3県にまたがっている標高2475mの山だ。ネーミングが大変わかりやすくて良い。以前に小説『春を背負って』(笹本稜平著)で知ってからずっと気になっていた。今回は長野県側の登山口である毛木平(もうきだいら)駐車場から千曲川源流ルートで登る。
7月27日(土)
23時頃登山口着 車中泊
トイレあり
7月28日(日)
7:10 毛木平登山口発
9:10 ナメ滝
10:40 千曲川水源地標
11:30 甲武信ヶ岳頂上
12:00 甲武信小屋着
7月29日(月)
7:50 甲武信小屋発
8:05 巻道経由で甲武信ヶ岳頂上
8:40 三宝山
9:20 尻岩
11:30 十文字小屋
12:45 毛木平駐車場
前夜に駐車場に到着。収容台数60台。人気の山だしと思って前夜入りしたが、その時点で駐車場はガラガラ。ぽろぽろと車中泊カーがやってくるも、なんなら翌朝7時時点でもまだ数台分空いていた。やっぱみんな真夏はアルプスに行くのかな。
真っ暗闇の駐車場で外に出ると頭上は満点の星空。うおおおおおー…。こんな見事な星空、久しぶりに見た。思わず口を開けて見入ってしまう。
本日はコースタイム4時間の予定。朝はのんびり支度して出発。
初っ端から朝日と緑輝く登山道。小鳥のさえずりと川のせせらぎの音。爽やか〜。
木から垂れ下がるとろろ昆布みたいなやつ。サルオガゼという。霧を水の供給源とし、光合成をしている地衣類らしい。へ〜。
これがね、朝日を受けてキラキラと揺らいでいて、まるでビーズレースのようだったんじゃよ。美しや。写真じゃ全然伝わらないのがもどかしい。
千曲川源流に沿って緩やかに登っていく。千曲川といえばなんか上田市の方を流れている大きな川っていうイメージだけど、その源はここ甲武信ヶ岳だったのか。なんとも壮大な話だ。
時折道にもちょろちょろと水が流れているのを跨いでいく。あたり一面瑞々しくマイナスイオンが溢れまくっている。植物が生き生きとしていて、せせらぎに沿って生命が溢れ出している感じ。視界全体がフレッシュグリーンで視力が少し回復した。
この道脇の小さな流れの周りに苔がモコモコで、そこに日の光が差した光景がめちゃくちゃにきれいだった。
たぶん妖精さんとかいた。
妖精さんが戯れながら小川で髪梳かしてた。
うわー、千曲川源流コース、美しすぎる。いいお天気のタイミングで良かった!
実は甲武信小屋のHPに雨の日こそ森が潤って美しいのでオススメとあったので、甲武信ヶ岳なら天気が悪くても楽しめるのかもと思ってここを選んだのだ。そうは言ってもやっぱり晴れに勝るものはない。急ぐ道でもないので存分に楽しみながらゆっくり歩く。
途中のナメ滝。ウォータースライダーとかしたら楽しそう。
やがて傾斜が急になるのを頑張って登っていく。ここが千曲川水源の場所。
奥の人がいるところの地面から水が静かに湧き出している。(写真撮ってなかった) そこから水がざばざばと潤沢に流れていくんだけど、それより上には水は見当たらない。ちょっと不思議な光景。ここから千曲川が始まって松本市も流れる犀川と合流し、やがて信濃川となり日本海へ流れ出る。
今調べると信濃川って日本一長い川なのか。そういえば小学生だかでテストに出たはずだけど全然覚えられなかったな。山の名前だって飛騨・木曽・赤石山脈の順番覚えるのに苦労した記憶がある。今なら絶対間違えない。今なら地理は得意科目になる気がする。興味関心って大事。
ずっと沢沿いの涼やかな道を登ってきたが、水源地点を過ぎると水のない急な登りとなる。稜線に出てゴロゴロ岩の道をエイヤーっと登るとついに甲武信ヶ岳頂上に到着。
お疲れさまでしたーっ!
甲武信ヶ岳は日本百名山だ。
天気はいいものの雲が多い。遠くの山は雲に遮られている。ここから富士山も見えるはずだけどあいにくちょうど雲が目の前に。
少し休憩して小屋へ。
甲武信小屋に到着。趣ある山小屋。
テント泊の受付を済ませる。この日のテントは私を入れて3張りだけだった。一番乗りだったので広々とした区画を選んでゆるゆると張る。
さて、時刻はまだ13時前。遠出をする時間はないけど身軽にもうひと歩きしたい気持ち。YAMAPを見ると小屋から20分ぐらい下ったところに荒川源流点という水源があるようだ。荒川ってあの東京に流れてる、あのアンダーザブリッジな荒川? とよく分からずにいたらその通りらしい。水は小屋で1L100円で購入できるが、水源で汲めば無料。せっかくなので水を汲みがてら見に行ってみる。
テント場の下からどんどこどんどこ下って到着。道はしっかりと踏み跡がついているので問題ないが、本当にどんどこ下っちゃう。これ下ったら登らなあかんやつ…と下ってしまったことを後悔し始める。でもここまで下っちゃったらもう後には引けない。人間はそう簡単には後戻りできないのだ。
水源地は千曲川水源地と違って地面から湧き出しているというよりはすでにザバザバ流れている。ここから荒川となって関東平野を流れ、東京湾にたどり着くんだって。甲武信ヶ岳は千曲川、荒川の他に山梨県を流れる笛吹川の水源でもあり、これはいずれ富士川となって太平洋に流れこむんだとか。つくづく壮大だね。甲武信ヶ岳がただ3県を跨ぐ素敵ネーミングな山なだけでなく、日本の代表的な川を生み出す分水嶺でもあると思うと恐れ入った!という感じ。これぞ百名山。
荒川水源で汲んだ2Lの水を抱いて、どんどこ下ってしまった道をまたぜいぜいと登り返す。また汗が吹き出した。
テント場まで戻って本日終了。1L100円の水代をケチったくせに500円の氷結を購入してしまった。しかも水源で汲んだ水は煮沸すべきだろうと周りの人に言われ、ですよね、となってめんどくさいので結局1L100円の水を購入したというオチ。いいんだ、荒川水源を見に行ったことに価値があるんだから。
昼寝したりなんやかんやしている間に夕食タイム。本日は米を炊いてレトルト中華丼。
今回は全く焦げつかせず、ふっくら柔らかめご飯が炊けた。我ながら米を炊くのがうまい。
夜になってもそんなに寒くはない。テント内でダウンはいらないレベル。虫も多い。標高2400mほどの高地だがやっぱり3000m級とは違うなと感じる。
夜な夜なkindleで小説を読む。普段なかなかじっくりと本を読めないのでこういう時に読むべし。没頭しすぎて本を閉じたのは0時を回ってからだった。明日も出発を急がないからいいけどご来光は断念だな。
7月29日(月)
6時ごろ起床。外は明るく、すでに他の登山者は出発していた。
のんびりのんびり支度して7時過ぎ、甲武信小屋出発。小屋前から雲海のような景色が見える。朝焼けが綺麗に見えたのかな。
下りもあの美しくて涼やかな千曲川ルートをいきたいところだが、同じ道を戻ってもおもしろくないのでもう一つの十文字小屋経由のルートでいく。
小屋から甲武信ヶ岳頂上に登り返さなくて済む巻道ルートを進むが、こんなに天気がいいし頂上からの景色もよく見えるかも。分かれ道でザックをデポして水とカメラを持って頂上へ寄り道。
めっちゃくちゃ景色きれいやわー。
富士山がこれまた見事。ちょっとだけかかった飾りのような雲がまたいい仕事している。今日もあそこには人が大勢いるんだろうな。
手前の奥秩父の山の向こうに見えるのは南アルプス。(たぶん)
本来なら今頃あそこを歩いているはずだったけど天気予報を見て予定変更した南アルプス。
めっちゃ晴れとるわ。
絶好の登山日和ですけど?って顔しとるわ。なんで私はそれをこんな遠くから見ているんだろう。
いや、予報では明日は崩れるはずで、それで私は2日間で行けるこっちの計画に変更したのだ。…いや、2日間なら晴れていたし、せっかく休みも予約も確保していたわけだし無理やり2日間で歩き通すという手もあったんじゃ…、いや、甲武信ヶ岳だって十分満喫しているじゃないか。今回はこっちでいいんだ。そうだそうだ。
色んな葛藤がよぎる中、この見事な景色を眺めた。(実際翌日は雨天だったので私の判断に間違いはなかった。そうだそうだ。)
ザックをピックアップして先へ進む。
ちょっと下ってまた登り返して三宝山2483m。埼玉県最高峰なんだって。樹林帯で眺望はない。
未だに甲信越と関東地方の位置関係が掴みきれておらず、ここが埼玉県だと言われてもピンとこない。
先へ進む。なんだかでっかい塊があると思ったら岩。その名も「尻岩」。この割れ目がそういうこと?とか思ったりする。
尻岩の上には立派な木々がにょきにょきと育っている。どういう仕組みになっているんだろう。
甲武信ヶ岳を下山と思っていたけど、三宝山や大山など案外アップダウンがある。時々眺望あり。
十文字小屋で少し休憩して小屋のおじさんとお喋り。シャクナゲの木が茂っており、開花の季節には大賑わいなんだそう。おじさんはこの夏に尾瀬を歩きに行くんだって。羨ましすぎ。まだまだ行きたいところがありすぎる。
それにしても暑い。時間の余裕があってもこういう標高では気温が低いうちに行動すべしなのかも。と言ってもこれでも標高2000mある。なのにこの暑さってヤバい。これまで真夏は2000m以下には暑くて登れんわ〜などと言っていたが、もう2500mでも無理かも。酷暑が酷暑すぎて怖い。水をガブガブ飲んで、塩分タブレットをボリボリ食べながらヘロヘロで毛木平駐車場に到着。途中の道の駅的なところで濃厚ソフトクリームを食して帰宅した。
前から気になっていた甲武信ヶ岳に登れて満足。山そのものだけじゃなく、川が関東甲信越を流れて海に流れつくのも思い描けて充実感のある登山となった。
また新緑や紅葉の季節にも訪れてみたい。
終わり