第51話
「さて、血液型コンパ!」
「いま座っている席を一度立って、血液型がA型の人は左前テーブル、B型の人は右前テーブル、O型の人は後ろの左側テーブル、AB型の人は右後ろテーブルに移動しましょう」
一年生は皆んな、ビールやお酒、ジュースやお茶の入ったグラスを片手に移動し始める。恵ちゃんと僕はO型の席に。大樹はB型。義雄はAB型。僕らもそれぞれ分散する。
「意外に均等に分散されるのね。血液型で。AB型は少なめだけど」
「さて、皆でお見合いするように話を盛り上げていってください!」
最初は静かめだが、次第にガヤガヤ笑い声が飛び交い始める。でも、AB型の席は意外に静かなまま。
しばらく、皆んなで歓談する。何となしか、B型コンパの席が明るい。
20分も経ったろうか、どの席も盛り上がり、ワイワイして楽しそう。意外に血液型コンパは、同じ血液型同士で盛り上がる。
「さて、次に他己紹介をいたしましょう。制限時間、ひとり1分厳守です」
「大樹せんぱ~い。他己紹介って何ですか?」
少し酔って、ろれつの回らない男の子が質問する。
「皆んな、自己紹介は嫌なほど済んだでしょうから、他己紹介。今右となりにいる人と二人ペアで、例えばその人の名前の由来、出身地の自慢や特産物、好きなアーティスト、好きな食べ物などなど、他人から聞いたことを他己紹介します」
「自分が他人に紹介される。そんなゲームみたいなものです」
「は~い」
「話し合いは今からワンペア5分くらい取りますから、それを1分で紹介できるよう短く他己紹介してください」
「そうそう、大切なことがあります」
「他己紹介は、明るい話、プラス面の話のみ、何でもいいです。しかし、人を傷つけたり、不快にしたり、その人の政治、宗教に関わる話などは避けてください」
皆んなでガヤガヤ、ペアになって互いの聞き取り合いが始まる。
さて、他己紹介が始まる。血液型合コンで気もあっているのか、時間も予定通りスムーズに運ぶ。
「加藤洋行さんの洋行の名前は、洋、つまり7つの海を飛び回り、行くは、世界の色々なところに行けるよう名付けられたそうです!」
「なるほどね、加藤、英語できるしな」
「将来、楽しみだな」
色々なリアクションのつぶやきが聞こえる。やはり、ペアの相手の名前の由来の他己紹介が多い。この他己紹介は、盛り上がると言うより、へえ~そうなんだ、と言う内容のものが多い。
「さて、他己紹介も終わり、懇親もより深まったと思います」
「続きまして、出身別コンパ!」
「北海道、東北の人は左前テーブル、関東の人は右前テーブル、中部、近畿の人は後ろの左側テーブル、中国、四国、九州の人は後ろの右テーブルに移動しましょう」
これは、関東の人が少し多い。また歓談が始まる。血液型コンパより盛り上がりが大きい。やはり、同郷の話題。皆楽しんでいる。
「皆さんには後で、それぞれのグループで、地方の面白い方言を紹介していただきます」
大樹は先に発表内容をアナウンスする。
「北海道では、とても美味しいを、なまらうまい、と言います。なまらは、とてもという意味で、味だけでなく、なまら疲れた、なまら面白い。英語で言うveryと同じの形容詞です!」
「鹿児島では、だるいことをてせ、とても疲れることをてせ~と言います。宮崎や大分では、面倒臭いことを、よだきいと言います」
「だから岩崎、農場実習で疲れた時、てせ~って呟いていたんだ。今わかったよ」
「田辺は、よだきい、よだきいが口癖みたいだしな」
地方別コンパも盛り上がる。夜も10時をまわった。今度は一年生が音頭をとる。
「それでは皆さん。そろそろ今夜の宴会をお開きにしましょう。そして四年生の先輩方に盛大な拍手をお願いします!」
食堂中割れんばかりの歓声と拍手。僕らは深く深くお辞儀をした。
皆んな、大いに喜んでくれた。他己紹介、企画コンパのおかげで、どうやら話したくても話せなかった男の子、女の子たち同士、さらに仲良くなったらしい。
ーーーーー
「さて、海行くヤツ。いないか?」
大樹が一年生の何人かに声をかける。
「おいおい、大樹、やっぱり行くのかよ?」
僕が聞くと、
「まあな」
「歩ちゃんに嫌われるぞ」
「はいはい」
大樹は一年生のイケメン男子を4−5人連れて、また夜の海に向かっていった。
「恵ちゃん。大樹、呆れるよね」
「私たちも行こうよ。海」
「えっ?」
恵ちゃんの真面目顔。
「さっきの続きが欲しいの」
「正くんと確かめたいの……」
「何を?」
「人は恋を語り合うことで恋するようになるから」
「わかった。お互い、シャワーを浴びてから海に向かおうか?」
「うん。そうする」
食堂では中締めをしたが、まだ一年生はワイワイ騒いでいる。底抜けの若さ。血液型合コン、出身地別合コンの成果も上がっているようだ。
皆んな、心打ち解け楽しそう。そうだ。僕も今宵を楽しもう。
ーーーーー
「恵ちゃん、行こうか?」
「うん!」
オレンジ色のワンピースに着替えて来た恵ちゃん。とても綺麗だ。一年生の中にいるからかもしれないが、普段のおてんば娘さんが今日は特段大人びて見える。
濡れたままの洗い髪のシャンプー・リンスの香りと、お気に入りのティファニーの香水の混ざった素敵な香り。僕は魔法にかけられる。それだけで、胸の鼓動が高鳴ってくる。
二人並んで、さっき通った海岸への細道を歩いて行く。手を繋ぐ。この、ごく自然な行動だけで、僕には言葉にできない嬉しさがこみ上げてくる。花火をした時間とは大違い。10時を過ぎた夜の海の人影はまばらだ。
「船の灯り、星空。さっきよりも素敵だね」
「うん」
ひと気のない方へと二人足を進める。
「正くん。一年生の時からずっと私を見つめていてくれたの?」
「いや、恵ちゃんは気にはなっていたけど、三年生までは彼女なんて作らないと心に固く決めていたから。恵ちゃんが誰かに取られても仕方ないと思っていた」
「どうして?」
「話は僕が貧乏なところからはじまるんだ。デートに出せるお金もないし、洒落た服を買うお金もない」
「でもね、心と身なりは清潔にしてたよ」
「だから、オケではモテたのね」
「それはどうだか」
「今のオケは異常。こずえちゃんが僕にクレイジーで、今少しブームになっているだけ」
「だいたいわかるんだ。彼女のような陽気で社交的な子は、優しく断れば、すぐに新しい彼氏を見つける」
「あら、それでいいのかしら?」
「僕には恵ちゃんがいる」
「さあ、どうだか。私だって、わからないよ~。陽気で社交的な子だから」
二人で微笑む。
「でも今日の、今の私は正くんのものよ」
人影のない二人隠れる暗闇の中、互いに寄り添う。さっきと同じ、僕は背後から恵ちゃんを抱きしめる。
さざなみの音と、微かな潮風が優しい。
「ずっとこのままでいたいね。永遠? だっけ?」
「うん。太陽と共に去って行った海」
僕は無言で背後からブラジャーの下の乳房を優しく両手で包んだ。そして恵ちゃんの首筋を唇で優しく愛撫する。恵ちゃんは、後ろから右手で僕のジーパンのチャックあたりをさすり始めた。
沈黙の時。
そして、耐えられない……。
「ちょっといい?」
「うん? 何?」
少し息遣いの荒くなった恵ちゃんが僕に問いかける。僕はジーンズのチャックを開ける。密着して背後から抱いたまま、恵ちゃんにそそり出るものを握らせた。
恵ちゃんは、握りしめた手をピストン運動のようにゆっくり動かす。僕はさらに恵ちゃんを強く抱きしめ愛撫し、髪に顔を深く埋め、香水と入り混じった恵ちゃんの香りだけで呼吸する。
さざなみの音が、意識を失う様に遠のいて聞こえなくなってくる。
「恵ちゃん……。いいかな?」
僕は恵ちゃんの耳元で囁く。
「何?」
「うん……。あの、出したくて……」
「どうすればいいの?」
「恵ちゃん。手のひらを出して」
「うん?」
恵ちゃんの小さな声。
恵ちゃんは僕の方を向き、小さな右手の手のひらを僕のところに差し出した。
「いくよ……」
最後は自分で。恵ちゃんの手のひらに長い間射精した。
「ごめんね。こんな風で。初めての……」
「いいのよ。恋の感情というのは、もともと理性でコントロールできるものじゃないから」
「恋はその場の行動よ。言葉だけじゃ恋なんかできない」
「恋したら、いつだってこころは頭より先にすべきことを成しちゃうものなの」
二人見つめ合い微笑む。
「そう。恵ちゃん、ティッシュ持ってる?」
「ううん。ないよ」
「どうしよう? それ……」
「海があるじゃない」
恵ちゃんはお椀型にした僕の精液のあるその手のひらを、こぼさぬよう大事そうにして海まで運ぶ。
「流しちゃうよ。海に」
「うん」
穏やかな波が、かがんだ恵ちゃんの手をくぐる。
「永遠ね」
恵ちゃんの手をすすぐ言葉が優しい。
「僕だけ気持ちよかったね」
「ううん。そんなことないよ。私も」
恵ちゃんは立ち上がり、手を胸に当てる。
「よかった。正くんのこと、とても好きだったから、友達の関係だけで終わりたくなくて」
「僕も」
「好きな人がいるという、今ある幸せに目を向けられる。そして、そう幸せな自分自身を受け入れて、さらに正くんを好きになれる」
「これから楽しみにしてね。私は女に生まれたんじゃないのよ。女になるために生まれてきたの」
「本当に始まったね。恋」
「うん。始まった」
「よろしくお願い申し上げます」
お辞儀してから夜空を見上げる恵ちゃんの姿を船の灯りが照らし、ワンピースのオレンジ色が、永遠の海と星空の神秘に映える。