M子さん 61才 通院歴6年 診断名:パニック障害(+恐怖症)、デパス依存
32歳頃、乗物恐怖、閉所恐怖出現。精神科受診が怖くて、内科からデパスを処方してもらうようになった。「デパスをお守り代わりに使って、子育てもやった」と語る。
52歳時(平成20年2月)子育てが終わってホッとした頃から、「自宅に一人でいると、不安で不安でたまらなくなり」夫に頻回に電話をかけるようになった。同時に乗物恐怖も復活。以来、デパス(0.5)1錠を、毎日3回服用するようになった。平成20年4月~平成21年11月、2か所の精神科クリニックを受診。両方でSSRI(デプロメール)の服用を勧められたが、「抗うつ剤は怖くて」飲めず。内科からもらうデパスに依存する生活に、ふたたび逆戻りした。
平成23年5月、当クリニック初診時「デパスが止められない、切れてくるのがわかる。1人で居られない。頭が重いと脳梗塞じゃないか、腹の具合が悪いと、癌じゃないかと心配になって、救急車を呼んでしまった」との訴え。まずは、デパスをメイラックス1mgに置き換えて抗不安薬の切れ目はなくなった。M子さんの強迫的な性格傾向や、恐怖レベルの高さを考慮して、<SSRIのジェイゾロフト(25)1錠だけ飲んでみませんか>と提案。しかし、抗うつ剤恐怖のために、服用できなかった。そして、これから2年と3か月のバトルが始まった。月1回の来院のたびごとに、<ジェイゾロフト飲んでみませんか>と持ち掛けた。仕事も家事もすべてこなしてはいるけれど、不安発作(パニック発作ほど強烈なものではない)が起こるたびに、当クリニックに電話をかけてきたり、ちょっとした体の異変で内科を受診したりは続いた。その間、「ジェイゾロフト1回だけ飲んでみました」「ジェイゾロフト半錠を3回飲みました」「ジェイゾロフトお守りに持って歩いています」と何度もチャレンジ精神をアピール。私も,手変え品変え、ジェイゾロフトの効果をアピール。受診のたびごとに、漫才の掛け合いのごときやり取りがつづいた。そしてついに、その時が来た。平成25年7月29日。この日から彼女は、ジェイゾロフトの服用を継続。平成25年9月21日、来院時、「最近みんなに元気になったねといわれる。何か考えることがあっても、まあいいかとおもえる。レジを待つことも苦手でなくなった。1日に2つのスケジュールを、前はこなせなかったが、今はこなせる。病院に駆け込むこともなくなった」「こんなことなら、もっと早くに飲んでいればよかった」と。バトルについに勝ったと思った。<平成25年7月29日を、ジェイゾロフト記念日と呼びましょう>と返した。この2年3か月間、2人とも暗くならずにバトルしたのが良い結果を生んだ。その後、彼女は癌で大手術を受けたが、うろたえることなく、堂々としていた。
パニック障害の薬物療法の基本は、うつ状態であろうがなかろうが、抗うつ剤を主体とし、抗不安薬は少なければ少ないほど良い(ただし、抗不安薬を焦って減らすのも良くない)。この症例で見るように、抗うつ剤を服用することによって、生活の質が格段に良くなる。しかし、多くの患者さんは、抗うつ剤を止めたがる。「抗うつ剤は副作用のつよいクスリで自分には効いていない、抗不安薬は軽いクスリで自分には良く効いている」と、実際とは全く正反対の理解をしている。確かに、抗不安薬は効いてくるのが分かり、抗うつ剤は効いているのが分からないクスリである。だからなおさら、初診の段階で、クスリを飲む前からこのことを説明しておく必要がある。<症状が良くなってきたら、抗うつ剤は残しておいて、抗不安薬を先に減らすか止めるかします>と。初めにそう宣言しておくと、患者さんはしぶしぶでも、それを受け入れる。
パニック障害の治療シリーズはこれでおしまい。パニック障害の症例としては、以前に書いた、*「30年前にここにきていたら」、*「ベンゾジアゼピン系抗不安薬の実践経験(4)」**「薬を止めなくたっていいじゃない」、*「手動瞑想は時間や場所をえらばない」*も参考になると思います。パニック障害の治療シリーズの内容は、”ベンゾジアゼピン系抗不安薬の実践経験”シリーズの内容と、深く関係しているので、合わせて読んで下さい。