ベンゾジアゼピン系抗不安薬の実践経験(3)の続き
T子さん 74歳 通院歴:20年 診断名:神経症性うつ病、パニック障害
「今日これから予約とれますか」と、7か月ぶりに、T子さんから電話が入った。11時なら、と伝えると、「間に合います、高速道路をブッ飛ばして行きますから」と。
37歳の頃「2人の娘がまだ小さく、帰宅が遅い夫の帰りを待ってる時、急に動悸が襲ってきて、手足がしびれ、死ぬんじゃないかと思って、救急車を呼んだ。大学病院で全部検査をしたが異常なかった。以後10年間は、内科でセルシン5㎎錠をもらって、必死で子育てをした」という。セルシンは長時間型に近く、力価が小さい(効果が弱い)ので、依存症にならずに、10年間をしのげたのだと思う。50歳の頃、次女の統合失調症が悪化。不安障害を有する長女との間に挟まって、心労が絶えなくなった。しだいに、不眠、抑うつ気分、焦燥感、過食、といった症状が出現。セルシンを服用する回数が急速に増えていった。
平成9年4月(54歳)、当クリニック初診。初回はメイラックス(1)1錠を処方。1週間後の来院時、抑うつ気分、不眠、焦燥感は改善されていたけれど、それがメイラックスの効果だと、本人は自覚できていなかった。「セルシンはのまなかったけれど、カァーとして自分をコントロールできない時のために、頓服薬がほしい。娘から離れて、一人になりたい」と。ソラナックス(0.4)1錠のみ、不安時服用として処方。今ならメイラックスだけを、しばらく続けさせていたと思う。それでも、平成12年4月頃までは、週1~2回のソラナックス屯用で間に合わせていた。ところが、平成12年7月、次女が自死してから、急速にソラナックスの使用頻度が増え、不眠、抑うつ気分、胸の痛み、息苦しさが出現。すぐにメイラックス1mgとドグマチール100mgに変更。速やかに軽快。パートタイムに出るようになってからは、家庭内ストレスからも解放され、服用する薬も、メイラックス1mg(屯用)、月に2~3回程度までに減っていった。 平成20年9月頃からは、6か月に1回来院し、メイラックス1mgを30錠、ソラナックス0.4mgを30錠持って帰るようになった。ここに至るまでには、来院のたびごとに、二種の使い分けの説明をくりかえした。<自分が感ずるメイラックスとソラナックスの効き目の違いではなく、自分が置かれているストレス状況に合わせて(客観的な判断で)使い分けるように。美容院、飛行機、MRI検査、頻脈発作の時はソラナックス。ストレス状況が続きそうで、肩こりや不眠がちの時には予防的に、ぽこっとメイラックスを服用>という具合に。平成24年に入ってからは、年1~2回来院し、メイラックス1mgを30錠だけを持って帰っている。平成28年11月25日の最終来院時、「長く介護してきたワンちゃんが、11月11日に亡くなった。メイラックスのおかげで、ペットロスにならずに済んだ。今日は、湿布薬を多めにください」と。そろそろ予約が入るころ、<高速道路はお気をつけて>。
BZ系抗不安薬が、35年以上連用されても、薬物依存症に発展することなく、うつの再発予防や生活の質の低下を防ぐことに貢献していると思われるケース。