[本] [追記]問いを変えて見える歴史 / 万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~ | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

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大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

相互読者登録のご期待にはそいかねますのでご了承ください。

現在の格差社会を生んだ不平等の起源は、
狩猟採集生活による無垢な平等な生活から、
農耕の発展を起源とする私有財産の発生と蓄積への転落にある。

私は、18世紀の哲学者ジャン=ジャック・ルソーの考えに端を発したこうしたストーリーの延長上で、
『ホモサピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ)や『銃・病t原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド)といった
人類の歴史を俯瞰した書籍に援けられて現代に連なる歴史をとらえてきました。

大上段にかまえたタイトルと「人類史を根本からくつがえす」との副題をまえに懐疑的にかまえ、
蓄えてきた知識や思考回路が覆されたらという恐怖をだいて
今回ご紹介するこの本を手にとりました。

結果は、恐れていた通りこれまでの思考がくつがえったものの、それにともなったのは恐怖ではなく快感でした。

時間はかかっても、未来を明るくできる余地は残されていると期待できそうです。
世界の問題の大部分が、持てる者と持たざる者との間の不平等・格差の拡大に起因し、その解決は不可能という前提に、本書は意義を唱えています。


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万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~ / デヴィッド・グレーバー デヴィッド・ウェングロウ著、酒井隆史訳 (光文社)
(原題:The Dawn of Everything: a New History of Humanity, David Rolfe Graeber & David Wengrow
2021原書刊、2023年和訳刊
お気にいりレベル★★★★★


(この段落が主に追加修正部分)
本書の出発点となる問いは、南極を除き国家でおおわれ、資本主義経済がひろがっている現状は、歴史の進化として”必然的”な結果なのか?ということ。
未来を考えるときも、これを前提に推測と想像をめぐらせます。
本書は、歴史の事実から"必然的"な結論づけられるのか、あるいは異なる社会となる可能性もあったのか、問いなおしています。


さらに問いの本質にさかのぼれば、まず問うべきは

そもそもなぜ「不平等」が争点となったのかを問うこと』

いわば、正しい問いの探求と結果です。

狩猟採集生活は平等で農耕生活は不平等という先入観をくつがえす事実は数多くあるのに、
その先入観を学者たちからもぬぐえない現状が示されます。

「平等」「不平等」の概念ができた経緯(意外と最近)。
人間が自然のなかでありのままである状態で持つ権利とは。
中世のヨーロッパ人が新世界で出会って得た概念とは。
「法の下での平等」という不平等。

さらに、
3万年前から現在にいたる時間軸を縦糸と、
ヨーロッパ、アメリカ、オセアニア、アフリカ、アジアにわたる地域の拡がりを横軸とする数々の例証と、
それでもできる空白における推論と可能性が、
丁寧に積み上げられていきます。

読み進むにつれ、
狩猟採集生活は農耕生活に進化する前の段階の必然的な形態との私の理解は、音を立てて崩れました。


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それは知識の体系の組み立て方が誤っていたというより、
価値観の選択肢そのものを大きく欠いていたと言った方がいいでしょう。

どんな暮らしを豊かと考えるか
どんな考えに基づき立派な行為と恥ずべき行為を区別するか
国家とは何のためにあるか
世界が資本主義で埋め尽くされたのは、必然的進化か etc.

歴史の事実からより根本的に問い続け、検証を繰りかえします。
それは、凝りかたまった先入観を一枚ずつはがす作業です。


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本書はページ数も多く(Kindleで1000ページ超)、
正直なところ、専門的な説明を伴う例証に、読む根気や理解力がついていけなかった部分もありました。

また、問いかけの見直しの先に、現代をどのように見直していくかという未来については
可能性を示すものの、具体策にはほとんど触れられていません。
共著者のひとりデヴィッド・グレーバーは本書刊行直前に急逝したので、
今後二人の共同作業が人類の未来にも議論がおよぶ機会は失われました。

一朝一夕にいまの世の中が様変わりするとは、著者たちも考えていません。
人類学者松村圭一郎らの著書で語られる国家に依存しない動き、
哲学者近内悠太や柄谷行人らの著書に登場する贈与、
すこしずつ拡散をみせるコミュニティ・ナーシング活動など、
ばらばらに私が得てきた現代の閉塞感に対する答えの断片を、
本書によって、人類のもつ素質を柔軟に明るく考えて未来を考えられる可能性で紡ぐ手がかりを得ました


自分の思考を疑ってみるものですね。



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