要注意: 今回は”ほぼネタバレ”ありです。
男女の17歳から32歳までの恋愛を描いた作品ときいて「いまさら」とこの作品を遠ざけ、直木賞候補に挙がり、2度目の本屋大賞受賞ときいて、ならば「何かあるのだろう」との期待から作品を手元に引きよせました。
「プロローグ」から不穏な空気が漂っています。この場面のある登場人物の態度から、背景や経緯が語られていないこの場面に、私はある仮説をたてました。これはある種の幸福の形であると。
この仮説を頭の片隅におきながら、そこに至る二人の主人公の人生の進み行きを推測を続けました。
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読者のそんな憶測など、著者はとうに織り込み済みなのでしょう。二人の若者の生活と交際を、家族や彼らの住む島の島民の姿を織り交ぜながら自然に精緻に積み上げ、結末に至る道筋も、その幸福の姿の必然性も、そう簡単には推測を許しません。
汝,星のごとく /
2022年刊
お気にいりレベル★★★☆☆
私の好みから★×3ですが、とても緻密でありながら自然で、読み手の関心を途切れさせないいい小説です。
17歳の
井上
櫂の家庭のことも、暁海の家庭のことも、狭くて閉鎖的な人間関係が残る島の人々には恰好の噂のネタです。
そんな櫂と暁海は、偶然から言葉を交わすようになります。
ともに親のせいで目の前の暮らしに苦労しながらも、互いに惹かれあっていきます。高校を卒業した後の将来も考えなければいけない年齢です。
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ヤング・ケアラー、シングル・マザー、離婚、ジェンダー、男女格差、SNS、精神的疾患、経済格差、地方経済といった、現代社会の課題がひしめきあっています。
それでいながら、これらの要素が櫂と暁海の暮らしの中に、偶然という力を借りずに自然と収まっています。特に二人の島での生活の当たり前具合がこの物語に現実味を与え続けています。
ここで今までとは変わらなければ、と思いながらも、一度身についてしまった性分は、そう簡単に変わらないものですね。主人公の二人に周りの大人がくれた言葉が繰り返し思いだされるのは、二人の逡巡の表れです。
それでいながら当たり前の物語に陥らないのは、物語の転換点として作者が企てたいくつか事件と二人の登場人物の人物設計です。ひとりは、櫂の仕事のパートナーである尚人。もうひとりは二人が通っていた高校の化学教師北原先生です。特に北原先生の思考回路の設定が、教師として櫂と暁海を支援しながらこの小説を支えています。
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本屋大賞受賞ときくと、映画化されたら誰が登場人物を演じるのだろうとあれこれ想像する愉しみもついてきます。
私が気になるのは、高校の北原先生、暁海の母親、暁海の父親が家を出る原因となった林瞳子かなぁ・・・・・・。
想像がとまりません。
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