あの時、ボクは中学3年生だった | そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

そっとカカトを上げてみる ~ こっそり背伸びする横浜暮らし

大きな挑戦なんてとてもとても。
夢や志がなくても
そっと挑む暮らしの中の小さな背伸び。
表紙の手ざわりていどの本の紹介も。

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若い時分に買ったLPレコードをすべて中古店に売りました。

その中で1枚だけ群を抜いて高い値がついたのは、意外にも中学生か高校1年の時に買った日本のロック・ギタリストのアルバムでした。

売ってから家に帰って、妻のサマンサにその話をしても、誰、それ? とピンとこない様子です。

当時でも、テレビどころかラジオでさえまず曲のかかることのないアーティストでした。サマンサが知らないのも仕方ありません。


   ◆      ◆      ◆

中学生の時分、体育会系の部活のかたわら、夜にラジオの公開録音番組を聴きにいったり、夜遅く互いの家を行き来してレコード(CDではありません)を聴きながら小生意気な評を交わし、交通費のあまりかからない範囲で大学の学園祭で安いロック・コンサートにいったものでした。

「都会のガキはませてたのね」

サマンサは、地方とはいえ、私からみて家の近所よりはるかに都会で18歳までを過ごしました。
それでも、私が中学時代の遊びぶりを話すと、サマンサは当時の横浜と彼女の育った都市のちがいを説明しました。


「たぶん東京との距離感がちがうんだと思う」

   ◆      ◆      ◆

私が持っているCDの中で、それほど好みでもないのに買った1枚があります。

 

ドリームス(期間生産限定盤) ドリームス
944円
Amazon

 

中学3年生だった時のある晩、同じ学年のSが夜10時頃いきなりこのLPをもって家にきたのです。

Sは背が高く男前で運動神経もよく、勉強しない割に成績はそこそこよく、どこか都会的なセンスを感じさせる佇まいで、音楽については頭一つ抜き出た見識の持ち主でした。
彼は一時同じ部活だったのをきっかけに時おりこんな風にふらりと家に来ることがありました。
当時から群れて遊ぶことの少なかった私には、音楽を語り合える数少ない気のおけない友人の一人でした。

その晩は、家にくるなり彼の兄が買ったそのLPをかけ、興奮気味に「このアルバムいいだろ。とくにさ、このドラム、な、ほら、いいだろ」と語っていたのを、今でも鮮明に憶えています。

正直にいって、その旨さは感じるものの、彼が興奮するほど惹かれはしませんでした。
後に、このグループからジャズやフュージョンで名を成すメンバーが何人もでた(末尾ご参照)ことから、あらめて中学生Sの耳の確かさを感じたものです。


   ◆      ◆      ◆

Sと私はちがう高校に進学したことから、新たな交友関係もできて疎遠になり、いつからともなく行き来は途絶えました。

あれからどのくらい経ってからでしょうか、同じ中学を出た友人と会った時、Sはすでに亡くなっていることを知らされました。
亡くなった経緯については言葉を濁していたのが印象的でした。

「な、ほら、いいだろ」
思い出したようにこのCDを聴くと、初老の私に向かって中学生のSが前のめりに語りかけてきます。



[end]

DREAMS
Michel Brecker (ts. and flute)
Randy Brecker (Tp. and flugelhorn)
Bill Cobham Jr. (ds.)
Jeff Kent (keyboads, guitar and vocal)
Doug Lubah (bass and vocal)
Barry Rogers (trombone and Tuba)
Edward Vernon (lead vocal)
John Abercrombie (lead guitar)
 

 

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