「目の前でカネが倍になる」表紙の裏の本の紹介の冒頭に心が揺れました。
私も一口乗せてもらおうとうことではなく、タイトルと合わせて考えなくても、そんなの手品に決まってるとわかります。
なのに、それが詐欺事件になるストーリーだとしたら、謎解きモノであっても、トリックより心理を描いている小説だと期待できます。
近ごろ、私の関心は「欲でブレーキが効かなくなる状態」にあるので、手にとってりました。
◆ ◆ ◆
マジシャン / 松岡圭祐 (小学館文庫)
2002年刊、2003年文庫化
お気にいりレベル★★★☆☆ |
金を倍にしてもらえるという噂に詐欺事件の兆しを嗅ぎ取った刑事の桝城。
コンピュータ・ウィルスで社会の機能停止を目論む事件の捜査本部に合流する要請への対応を後回しにして、詐欺事件を未然に防ごうと、新前刑事浅岸と金を倍にしてもらった人から聴取し、まずは手品のネタを暴こうと手品用品を売る店にいきます。
その店で売れないベテラン・マジシャン出光マリのアシスタントをしている15歳の少女里見沙希と知り合います。
その店の入るビルで、以前詐欺で逮捕されて服役した板倉と出会い、もう足を洗ったという板倉の振る舞いはきちんとしていても、桝城は疑いを拭いきれません。
どんな詐欺の仕掛けが待ち受けているのか、その仕掛けもマジックにからんでいるのか、桝城は沙希の力を借りながら捜査を進めます。
◆ ◆ ◆
何か仕掛けがあると怪しげに思いながら、目の前で現金を倍され、それを受けとった人々の欲。
夢という欲が潰えて淋しいステージでマジックを続けるベテラン・マジシャンの歪んだプライド。
自作のトリックで表舞台を夢見る15歳の里美沙希の自己顕示欲。
コンピュータ・ウィルス事件で技術を駆使して解決を図る警察の捜査官の専門知識。
現在では有無のはっきりしない板倉の詐欺師時代の欲。
知識に振り回される新人科捜研調査官白金恵子の世間知らずぶり。
沙希から知識を授けられ、マジックの裏を多少わかってきた刑事桝城の優越感。
人のもつイヤラシサが、登場人物たちに巧みに散りばめられています。
マジックのタネ明かしとともに、成長する心と蝕まれる心が丁寧な仕掛けで交差します。
◆ ◆ ◆
固定観念や先入観を利用して人の心を操るという点では、マジシャンも詐欺師も同様です。
あれっ? そこに小説家も加えていいんじゃないでしょうか。
◆ ◆ ◆
欲、歪んだプライド、先入観、自己顕示欲、限られた知識に振り回される固定観念、些細な優越感・・・・・・
こうしたイヤラシさを感じる人の習性のもっともイヤラシイ面は、「自分はダイジョウブ」という特例免責「事項です。
「はいはい、それも充分承知しています」
だからダイジョウブと思っていません?
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