自分探し。
おぼろげな記憶では、私が若者だった1970年代には
この言葉はまだ生まれていませんでした。
でも、言葉がなかっただけで、それ以前にも
自分のやりたいこと、大切にすることを見定めようと
苦悶したり、旅にでたりする若者はいました。
◆ ◆ ◆
196X年、ある20歳の青年がナホトカに向け横浜港を発ちました。
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青年は荒野をめざす / 五木 寛之 (文春文庫)
761円 Amazon、760円 Kindle版
1967年刊、1974文庫化
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お前さんには、何か欠けたものがあるんだよ
高校生ながら新宿のジャズ・スポットで
ジャズのプロにまじってトランペットを吹いていたジュンは、
そう言われて、進学せずに自力で世界を旅しようと決意します。
20歳で横浜を発ち、ナホトカ~モスクワ~ヘルシンキ~
ストックホルム~コペンハーゲン~パリ・・・・と転々とします。
◆ ◆ ◆
船上で会った歌手志望の麻紀、
モスクワへ向かう機上であったCAのリューバ、
北欧で暮らす青年ケン etc.
訪れる土地で働きながら、毛色の異なる知り合う人たち。
セックス、ギャンブル、酒、暴力、ジャズ・・・・・
混沌と放浪しながらも、
新宿時代とは異なる何かを感じはじめます。
◆ ◆ ◆
この小説が世にでたのは1967年。
60年代前半に、安保闘争は頓挫し、東京五輪で弾みがつきます。
世界ではベトナム戦争が始まり、アメリカで黒人が公民権を得、
一方で、この小説が連載された平凡パンチが創刊され、
ボブ・ディランやビートルズが登場し、
ホールデンは「ライ麦畑で・・・・」の中で悪態をついていました。
1967年には、日本では、オールナイトニッポンが放送され、
グループサウンズが全盛期。
ベトナム戦争はドロ沼化して沖縄から米軍戦闘機が離陸し、
ビートルズは名盤「サージェント・ペパーズ・・・・」をリリースし、
映画では「卒業」で、ダスティン・オフマン演じるベンジャミンが
挙式に飛び込みで "Elaine!!"と叫んでいました。
混沌と閉塞感と浮揚がまだら模様だった時代です。
そして、戦争を知らない世代のジュンです。
◆ ◆ ◆
自分の本当にやりたいことは?
自分はこのままでいいのだろうか?
生きるとは? 戦争とは? 平和とは? 青春とは?・・・・
この時代、ジュンと同世代の若者たちは、
少しばかり安全地帯にいる後ろめたさを感じながら、
ジュンに自分を重ねながらそれぞれ自問していたことでしょう。
読んでいて、ジュンばかりか、
この時代の読者の息吹まで伝わってきます。
◆ ◆ ◆
男目線の身勝手な場面も多い小説ながら、
ジュンの自分探しに飛び込む姿には、時代、性別を超えて惹かれる
無鉄砲とも感じる思い切りのよさがあります。
そのジュンも、もうすぐ70歳です。
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