黒い煙をもくもくと吐きだしながら走る汽車に乗ったことが、2度だけあります。
小学校に入りさほど年数の経っていない時分、
両親とともに夏休みの旅行で乗ったのが初体験。
トンネルを間近にして、車内に煙が入らぬよう、
乗客たちが慌ただしくバタンバタンと窓を閉め始めた光景が印象的でした。
それでも車内にしのび込んだ石炭が燃えたガスの臭いが鼻をつきました。
今では電車の窓すら開かないことを考えると、時代の隔たりを感じます。
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- むかしの汽車旅 / 出久根 達郎 編 (河出文庫)
¥798 Amazon.co.jp
森鴎外、夏目漱石、正岡子規、宮澤賢治、中原中也、太宰治など
そうそうたる顔ぶれです。
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鴎外が路面電車の車中で女性と言葉を交わす一場面を小説のように書き、
虚子は無理に歩きで辿るよりもと、汽車で巡る奥の細道を語り、
かと思えば、
荷風が東京の路面電車の車中に江戸の香を残す古き東京の匂いを漂わせ、
朔太郎は並行して走る列車への乗り換えの誘惑を詩のように語ります。
一流のもの書きは、小品を書いても持ち味がきちんとにじみでています。
いずれも、懐かしさをもつことのできないもう少しむかしの情景を
目の前に活きいきと再生してくれます。
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もの書きであると同時にもの読みとして確かな
出久根達郎の名前を編者にみつけて、店頭でこの本を手にとりました。
あちこちに散っている文章を、ひとつテーマの下に、
ひとりではとても読むことはできません。
したこうしたアンソロジーは、編者の確かな目のみが頼りです。
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文芸ものを豊富に手もとに抱える大手出版社とはまたちがった、
河出文庫の文庫編集者魂に支えられた、うれしい1冊です。
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