2部作合計4時間半をいっきに鑑賞。

この映画『セデック・バレ』、昨年の大阪アジアン映画祭2012で公開され、観客賞を受賞した作品。


台湾では2011年に公開され、第48回金馬獎で「最優秀作品賞」「最優秀助演男優賞」「最優秀オリジナル音楽」「最優秀音響効果」「観客賞」の最多5部門を同時受賞。


日本では4/20に一般公開された。すでに話題十分の映画だが、やはり地方での公開は遅れ、この夏に初見という人も多いはず。私もその一人。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

とにかくスゴイ映画だった。


感動とかそういうんじゃない。映像美とか圧倒的迫力とかで形容もできない。


1930年10月27日。日本統治時代の台湾の山深い村(台中州能高郡霧社=現在の南投県仁愛郷)で起こった原住民セデック族による抗日暴動を描いた作品。


台湾原住民による強烈な日本への憎しみが描かれるが、反日映画ではない。

いたって冷静に描かれた原住民の誇りは、ときに勇ましく、ときに野蛮だ。

そう、野蛮というのは部族同志の対立による首狩りの風習も描かれていて、セデックを美化しすぎているわけではない。

この映画を観て、未開の台湾社会が良かったなどとは、漢民族であろうが台湾人であろうが少数民族(原住民)であろうが、思える人はいないだろう。


日本人の描かれ方についても、悪い日本人もたくさん出てくるが、極悪非道というわけではない。よい日本人は少ししか出てこないが、それでも、抗日暴動によって日本人家族もろとも惨殺される理由は感じることができない。

ちなみに史実である霧社事件では、日本人140人が殺害された。


そうした実話にもとづく抗日の物語を描いてはいるのが、反日映画ではないし、かといって原住民賛歌でもない。


でも、そこにこの映画の魅力があるんだろう。


監督・脚本・編集は、大ヒット映画『海角七号』で、日本統治下の時代をノスタルジックに描いたウェイ・ダーション(魏徳聖)。


海角七号を撮った人だから、日本が嫌いという監督ではないだろう。だからこそこの映画が撮れたのではないか、という気もする。


日本人も犠牲になったが、蜂起した側の台湾原住民も1000人が日本軍の反攻にあって死亡した。

日本人相手に戦う間も、部族同志の抗争も続いていて、民族同志で殺し合う。

救いようがない話と言えば、その通りである。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

しかし、見るべき映画である。

映画チラシには、「価値観が乱される四時間半」とあるが、まさにその通り。


今回、一中華映画ファンとしては、『海角七号』に出ていた田中千絵が本映画にも出ていることや、原住民の血を引いているビビアン・スーが出ていること、安藤政信が熱演であること、などなどにも触れたいのだけれど、映画の余韻があまりに大きくて、そうした些末なことが書けないでいます。

それほど、スゴイ映画です。繰り返しますが、感動や映像美、迫力がスゴイのではなく(もちろんそれらも台湾映画史上最高の仕上がりなんだけど)、映画の作品力がスゴイんです。

長い上映時間にもめげず、そうした作品も味わいたい人はぜひ見ることを強くおすすめします。


この映画、すっごい面白かった!



ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


いやぁ笑った笑った。劇場内でもみんな前半は声あげて笑ってました。

そして後半はホロリ&胸キュン。コメディのはずだったのに、ふざけ半分で見ていたこっちが反省しちゃうくらいジーンときたよ。


主演は、まず夫役のイ・ソンギュン。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

誰かな~と思ったけれど、調べたら韓国版「白い巨塔」でチェ・ドヨン役(日本版だと江口洋介が演じた里見助教授役にあたります)だったね。


そしてこちらも主演といってよいでしょう。
タイトルにもなっている妻役のイム・スジョン。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

私としては、『サーボーグでも大丈夫』で自分をサイボーグだと思い込む患者役を演じていたのが記憶に残ってます。


『僕の妻のすべて』略して「僕妻」とでもしときましょうか。

この映画、「韓国映画セレクション 2013春」の三作のうちの一作。
(あとの二作は、『恋は命がけ』『ヨンガシ 変種増殖』)


2013春って言いながら地方では今頃公開。
でも、見てよかったよ。


映画紹介とストーリーは公式サイト から以下に拝借。



「アンティーク~西洋骨董洋菓子店~」のミン・ギュドン監督が人気俳優を起用して完成させた大人のラブコメディ。


ドラマ『パスタ~恋が出来るまで~』のイ・ソンギュンと「あなたの初恋探します」のイム・スジョンが、大恋愛の末に結婚したものの、いつしかぶつかり合うようになってしまった夫婦を演じる。


さらに、夫から「妻を誘惑して」と頼まれる“伝説のカサノバ”役を「高地戦」のリュ・スンリョンがセクシーに好演。

イム・スジョンとリュ・スンリョンは、本作の演技で青龍賞の主演女優賞、助演男優賞に輝いた。

「完璧な離婚は可能か?」という新鮮なテーマと、夫婦の本音が詰まった会話が話題を呼び、韓国で458万人を動員したヒット作。



というように、ストーリーはどっか現実にもありそうだけど、映画としてはコメディでなきゃできないような題材。

しかも、けっこうヒットしているじゃないの。


そして、語り手になる主人公は、夫役のイ・ソンギュンのはずなんだけど、<主演>女優賞をイム・スジョンがとっちゃったってわけ。でも、納得の演技だったよ。


そして、カサノバを演じたリュ・スンリョンにも注目。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


ぜんぜんかっこよくないルックスながら、女性にモテモテになるのも納得の魅力的なキャラクターを演じてます。
え、この人、『高地戦』に出てたって! あー、北朝鮮の将軍役だったよ。おー彼か~。


話を「僕妻」に戻します。


まず、妻であるイム・スジョンなんだけど、冒頭で未来の夫と恋に落ちるシーンはよいとして、その後の悪妻への変貌ぶりがすごい。


たとえばこんな感じ。

おまけでついてくる自転車が欲しくて新聞購読を契約したものの、坂道であっけなく自転車が壊れて大けがしそうになった恨みで、新聞購読を断る張り紙を家の前に貼っていた悪妻。
そんなの気にせず、新聞を家に放り投げてきた配達お兄さんにスゴイ形相と毒舌マシンガントークで、くってかかるシーンは衝撃でした。


そのほか、旦那の上司に呼ばれたホームパーティで、嫌みをいってきた上司の奥さんに食ってかかるシーンもスゴイ。


ただ言っていることは正論で、見てるこっちも胸がスッとする感もある。

あ、これ最近また始まったテレビドラマ『ショムニ』で江角マキコが一発かますときのすっきり感にも似てる。
しかも正論をぶつときなんかこちらも最近再開したテレビドラマ『齋藤さん』の観月ありさも彷彿とさせる。


そう、この悪妻。たしかにところ構わず誰彼問わずに挑みかかるんだけど、それってすごくまっとうなことでもあるんだよね。まっすぐな性格がにじみ出ているというか。


でも、夫としてはそう安穏とはしてらんない。

妻は毒舌だけでなくちょっとしたことも気になるタチで、夫をつかまえては朝から愚痴のマシンガントーク。トイレだろうが食事中だろうが、ずかずか入ってきて愚痴の雨あられ。
愚痴を聞きたくないから夫も妻を避けるようになり、夫婦関係もぎくしゃくする。すると、どんどん悪妻度が増してきて。。。

そうね~。夫が離婚したくなるのも無理ないよ。

だけど気弱な旦那のこと、百倍返しが怖くて離婚を言い出せない。

そして思いついたのが、どんな女性も落としてしまうという伝説のカサノバに女房を誘惑して欲しいと持ちかける。「妻を浮気させて離婚を決意させよう」とするわけですな。


あとのストーリーはお察しの通り。
カサノバにまったく興味を示さなかった悪妻も、さすがカサノバの百戦錬磨の攻撃に撃沈しそう。そうこうしているうちに悪妻はだんだん角が取れてきて、夫の好きな昔の妻に近づいていって、カサノバに頼んだのを後悔し始める。。。


このカサノバの恋の攻撃なんだけど、私が女性だったら、たまらないと思うような、すごく自然な優しさと大人の知的な精神交流になっている。
これがこの映画のもう一つの良さで、カサノバ役もどことなく憎めないどころか、かなり男として見習いたくなる面をもっているんだよね。

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

リュ・スンリョンが超イケメンというわけでないルックスなのも、妙に説得力があった。


で、ここからドラマはどんどんシリアスになっていきます。


個人的な話だけど、私は悪妻役のイム・スジョンが、かなり好き。
顔が作られていないナチュラルな雰囲気も好きだし、物憂げな表情や薄幸の雰囲気を持っている、ちょっと透明感がある女優さんだから。

あ、別にSK-ⅡのCMに出ていたから透明感ってわけでなく、サイボーグ役(と思い込んでいる役だけど)もできちゃう無機質な感じがすきなわけ。


SK-Ⅱのポスター
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


『サイボーグでも大丈夫』のワンシーン

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


そして、『ショムニ』とか『齋藤さん』も好きな私は、この悪妻役のようにまっすぐなことを言えてしまう人間(女性に限らず)に魅力を感じてしまうってのもある。


何より、彼女が映画中で好きだと言っていて、カサノバも恋の小道具としてその話に合わせてくる大人の知的な会話は、私のツボでもあった。

こんな恋、いいよなぁーって思っちゃった。

映画館はいつも通り、女性9割だったけど、お姉様たちもそんなふうにキュンとしながら見ていたかもね。


今年は韓国映画の当たり年なんだけど、そのなかでも私は一番好きと言える映画だったよ。

今回、べた褒めですね~。


韓国映画『殺人の告白』を見てきました。


東京では6/1から封切りだったんだけれど地方では先週・今週あたりに順次公開。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


上の広告は公式サイト のもの。

劇場ポスターや配布チラシもこのパク・シフのドアップで制作されていてインパクト大。


もちろん、彼は謎めいた自称殺人犯であることから、主役と言うより敵として描かれています。



本当の主役は、殺人犯を追い続けてきた刑事班長役のチョン・ジェヨンです。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

物語はいきなり激しいアクションシーンから始まる。


ここは、主役であるチョン・ジェヨンが殺人犯を寸前まで追い詰めた頃の回想シーン。


これでもか、ってくらいの執拗な暴力シーンで、こんなことして死なないの?っていう、ある意味、韓国映画らしい、緊迫感あるオープニングの作り方。


日本では、パク・シフの美しい顔を見に来た韓流女子たちに、軽い衝撃を与えてます。まぁ、たぶん彼女たちも慣れてきたころかな。韓国映画の暴力シーンには。


そのすぐあとで美貌の自称殺人犯であるパク・シフ登場。



連続殺人事件の時効成立後のタイミングで、自らが犯人だと名乗りを上げつつ、犯行内容を詳細に記した暴露本を出版。


世間を騒がせた連続殺人の犯人が美貌の青年であったことに、非難ではなく、いつしか信者まで現れて。。。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ



で、以降のストーリーを語ることはちょっと難しい。




なんせタイトルにも書いたように二転三転するこの映画。


はっきり言って、私はあまり期待してなかったのです。

ところが、ここまで何度も観客を驚かせる仕掛けが、仕組まれてあるとは思わなかったです。

つまり、予想以上に面白かった。


下手なことを書かず、迷っているならば見に行くことをおすすめしたい、ってくらいしか書けないよ。

こういう映画がたくさん出てくるようになった韓国映画界は、やはりスゴイと思う。


脚本もスゴイけれど、アクションシーンの金のかけ方も演出も垢抜けてきた。


冒頭のシーンに続く物語序盤にも、またまたアクションシーンがあるんだけど、ここなんてハリウッド流の「そんなん出来るか!」っていう超人的な特撮カーチェイス。


普通だったらチープになるんだろうけれど、次から次へとダイナミックに緊迫感があおられる作りになっていて、特撮であることを意識せずにすむ。

それにしても、ちょっとやり過ぎだとおもうシーンは多々あったけれど、香港映画を見慣れた私は違和感もなく、全体のミステリーの仕掛けが巧妙なので、細かな突っ込みどころに気をとられている暇もない。


この作品、ネタバレしちゃうと見る価値がなくなっちゃうので、ぜひ前知識なしに映画館に行ったほうがいいよ。



あ、パク・シフのサービスショットとして鍛え抜かれた肉体を疲労する水着シーンとかバスローブ姿とかちゃんとありますよ。


なんせ、観客の9割以上が女子だったから、このくらいは必要よね!


でもでも、男子にも絶対のおすすめ作品です!

初日に見てきましたよ。ウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン主演『グランド・マスター 一代宗師』。

今日になってから見ていたら映画の日で1000円だったんだけど、そんなの待ってられなかったよ。

それだけ、待ちに待っていた作品です。

公式サイト へリンクしときます(かっこいい予告もあります!)。

うれしいことにテレビでもCMをガンガン打っているし、ベルリン映画祭のオープニングだったってニュースも届いていたから、かなり注目度はあがっているのではないかな?

なんてたって、全国ロードショーだからね。


並の香港映画とは違って、大入りになるはずですよ。配給のGAGAも頑張ったね!


中国本土用のポスター

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

感想です。

待ちに待った作品だからって、甘いことだけ言うつもりはありませんが、やっぱ見てよかったよ。

ウォン・カーウァイ映画らしく、映像は綺麗。台詞が独特の余韻を残す。

ユエン・ウーピン武術指導らしく、格闘シーンは美しい舞を見ているかのよう。


トニー・レオンはイップ・マン役にぴったりでした。


本来、トニーはアクション経験は少ないのですが、実在した詠春拳の使い手(葉問=イップ・マン)を演じるとあって、かなりのカンフーの特訓を受けたようです。それでも、そんなに突然に上達するわけもないですが、この詠春拳は余計な動きの少ない流派で足技も少ないってこともあって、渋く決めていたと思う。


そして、共演のチャン・ツイイーがまた決まってた。


彼女は2000年の『グリーン・ディスティニー』で壮絶なカンフー・シーンの経験もあるし、もともと舞踊の心得があって、体も柔軟だからアクションが映える人なのですが、今作ではひっさびさのカンフーだったはず。彼女の見せ場は主に2シーンあったけれど、どっちもすばらしかった。やっぱ彼女にはアクション作品を定期的に出てほしいな。


ツイイーのロビーカード

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

でも、一言あらかじめ主張しておきたいことは、この映画は、本当の意味でのカンフー映画ではありません。

カーウァイ作品では、『楽園の瑕』が剣術中心のアクション満載の作品だったけれど、あの映画がアクションで彩りを添えた「恋愛映画」だったように、本作も物語の中心は愛であったと思うよ。

ということで、昨今の大陸で往年のカンフー映画が流行ってるから、 カーウァイもいっちょやってみるか的なノリでとったわけじゃなく、いつもどおりの仕事をしています。


だから、『恋する惑星』の雰囲気が好きな女子も安心して見るがいい!

逆にそれが不満な人はドニー・イェンの『イップ・マン』を見ればいいのだ!


で、ここで名前があがったように、どうしても比較せざるを得ないのが、ドニーが2部作で演じたイップ・マン。

もちろん、私はドニーさんファンでもある。けれど、あえて言わせてもらえば、ドニーのイップ・マンは映画としてもフィクションだらけで、日本軍が進駐してきた広東省・仏山での日本兵は鬼のようだし、ありもしない日本人の将校との戦いをクライマックスにしちゃうしで、日本人が見るには散々なのよ。


ほとんど中国人の反日感情をあおっているとしか思えない、仇討ちにカタルシスを感じさせるような作りになっているわけ。


しかも、それが大ヒットしちゃったもんだから、「日本憎し!」の反日映画として、そして「イップ・マン英雄!」っていう単純なイップ・マン像が中国で浸透しちゃった。


本来のイップ・マンはそんなに好戦的な人ではなかったはずなんだけどね。


本作のトニーさん版カーウァイ監督のイップ・マンは、わりと史実に忠実。


日本兵と戦ったりはしないし、あくまで紳士的なふるまいです。


だからこそ、トニーさんがヒョウヒョウと感情を抑えて演じるやり方が生きてくるわけね。


トニーさんのロビーカード

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

で、史実に忠実だから、ツイイー演じる女武術家とのロマンスなんかあったわけはない。


でも(ネタバレにならないように書くけれど)、色恋のない映画なんてカーウァイ監督が撮るわけないから、監督の撮りたかった恋愛部分をツイイーが一人でがんばって担当し、とても切ないロマンスが含まれる映画に仕上がっているのだよ。

その意味で、この映画の本当の主役はツイイーだったのではないかと鑑賞後に思えるほどの頑張りだった。


鑑賞中、なんどか『2046』でのトニーとツイイーの恋の続きが描かれているのでは、なんて連想をさせたぐらいです。


外見は強いのに、心の中は悲しみにあふれた女性を演じさせたら、四大女優のなかでもツイイーがもっとも上手いと私は思う。


本作はツイイー以外では考えられないな。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


トニーがアクションを披露して新境地を拓いた映画だし、鑑賞後の余韻がなんとも言えない感じで残るカーウァイならではの作品です。


アクション映画が嫌いな人も、カーウァイ映画ってことで見に行こう!

トニー、やっぱかっこいいしね(笑)。

すごい勢いで駆け抜けている日活配給の「ボリウッド4」。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


一週間に一本というハイペースで公開されていた『タイガー 伝説のスパイ』、『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』、『命ある限り』。それぞれに、私が見に行ったときは会場は大入りでした。そして、観客の泣き、笑いを共感してどれも大満足の3時間(!)を過ごしました。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

そして大トリをかざるのが、インド映画歴代興行収入記録ナンバーワンのこの『きっと、うまくいく』(2009)というわけ。

全国ロードショーだから、昨日から公開されている地方も多いはず!


最後だけは、一週間でなく一ヶ月近いロングランで公開されますし、一日三本も上映しています。

なぜなら、それだけ内容が素晴らしいからなんですね~。


なんとなく私は、前評判は聴きつつも、予告篇を見る限りは、一番地味っぽいのが『きっと、うまくいく』だと思ってた。

しかし、若者の可能性を称え、かけがえのない友情を描いていて、インド映画特有のインターバル(休憩時間)の表示がはいるまでに、超クライマックスが訪れるって所も、観客を「おおお!」と思わせるエピソードだったよ。

だから、3時間まったく飽きさせません。

私なんて、トイレにも行きたくならなかったよ(いつもはなるのに)。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


「きっと、うまくいく」というのは、この映画の劇中の合言葉。

All is well.

この言葉を、インド風にアーリズウェーと言っているシーンは予告でも印象に残ります。


ただ、本当の英語題はチラシにもあるように、『3 idiots』。

普通に訳せば「三馬鹿」ってところでしょうか。


でも、それじゃわからない。

今回の日本語タイトルは、劇中の決めぜりふを活かした、けっこうセンスあるものになっているかも。

すべてはきっと(All)、うまく(well)いく(is)ってね。


映画のストーリーを以下に私流に要約すると、こんな感じ。


インド最高峰の理工系超難関大学であるICE(Imperial College of Engineeringかな? 架空の大学です)に入学した、ランチョー(こいつが主役で演じるはアーミル・カーン)、そしてファランとラジューの三人。


ランチョーは工作の天才で成績も優秀だけど、常識にとらわれないからトラブルメーカー。そしてファランとラジューはそんなランチョーと大学寮が同室になり、意気投合して大親友になる。



ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

物語の前半は、大学のなかでのトラブル解決(もちろん自分が巻き起こすトラブルなんだが)を通して、よい成績を取るためでなく、世に役立つ工学の重要性を訴えることに次々と成功するランチョー。


そんなランチョーの言葉が、大学の仲間たちや、ファランとラジューの両親、そして敵対していたはずの学長(と、その娘さん)にまで届いてしまう。

仲間たちとのあたたかい交流、そして勉強と、大学生活を謳歌します。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

物語の後半は、大学卒業後に行方不明になってしまったランチョーを、10年後にラジューとファランが探す旅。


こちらは謎めいた要素があるので、詳細は映画を見てね。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

クライマックスも大きな感動を残してくれたよ!


というわけで、インドで興行収入歴代ナンバーワンは納得。

ボリウッド4のここまでの三作品が、海外ロケにハリウッド以上のアクションという超大作揃いだったから、ちょいと地味かな、と思ったのは大間違い。

人生、勉強、友、家族、こうしたものの大事さ、すばらしさを本当に考えさせる仕上がりになってました。


ところで、劇中のインド屈指のエリート理系大学ICEってのは、インドに詳しい方ならわかると思うけれど、インド国内に7校あるインド工科大学(IIT=Indian institute of Technology)のことだとピンと来るはず。


このIIT。2008年の政府方針により、さらに8校が増設され、現在は15校もあるとか。


それでも依然として超難関大学(倍率は60倍だとか)で、この大学に入ったら、就職は間違いなし。それまでの階級に関係なく、工学系のエリートとしての活躍が約束されているんだよね。


映画のシーンは、デリーを思わせるシーンが出てくるので、おそらくはIITデリー校の雰囲気を出しながら、実際の撮影は別の所で行ったんだと思う。


そして、その「別の所」なんだけど、インド滞在経験のある私・龍虎は、大学の外観シーンを撮影した場所に見覚えがあるんだよね。

で、Wikipediaの英語版を見てみたら、ドンピシャ。


インド経営大学院大学バンガロール校(IIM bangalore)が、舞台の大学(ICE)の外観として撮影されていました。

はい、ここに行ったことがある(といっても遊びに行ったのだけれど)のだよ。ふふん。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


自慢話はさておき、社会の底辺からも抜け出すことが出来るエリート理工系大学への進学・卒業は、インドじゃ一生を文字通り変えるパワーを持っています。


なぜ、理工系なのか、と言えば、文系は階級が温存された社会で、官僚になるのもマネージャになるのも、出自が邪魔になるけれど、理工系なら自分の頭脳次第で、高給を取れる就職が得られる(その多くが外資系の職場)からなのです。

もちろん、良い職場を狙うほど、在学中の成績がモノを言います。


だから、IIT入学のために必死で勉強し、そして入学してからも懸命に勉強しているわけですよ。


この映画を見るときは、そんなインドの特殊な事情を知っておくと、より深く感動できるはずですよ。

私は感動しました!


あーインド映画マジすげー。


このブログ、中華を中心としたアジア映画のブログのはずだけど、今年はインド映画の大流入イヤーだし、かなり記事に占めるインド映画の比率が高まる予感がするよ。


始まりました!


ボリウッド4

ザッツ★★★★★エンターテインドメント

最高の4作が、いま集結


っていうコピーで全国ではじまっているインド祭り。

公式サイト にリンクしときます)


いやぁ、嬉しいね。

今年はインド映画の当たり年。

ラジニカーント映画以外のインド話題作が一挙に公開される年ですよ。


そのなかで、日活が配給してくれるこの4作。

公開の順番は地方ごとに違うみたいで、私が住んでいるところでは、まず『タイガー 伝説のスパイ』から公開。



ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
【英題】EK THA TIGER
【監督】カビール・カーン
【キャスト】サルマーン・カーン、 カトリーナ・カイフ
(2012年/インド/132分)


いやぁ、濃かった。


この映画を見終わってからの最大の感慨は、


もうハリウッド映画なんか要らないジャン!!


ってもの。


だって、アクションもラブロマンスも踊りもセクシーも、みんなインド映画のなかにあるんだもの。

そんでもって、インド人はみんな彫りが深くて(これについては後述)、バタ臭い顔。だから、観てる間はハリウッド映画を眺めてる気になる。違いと要ったら、金髪が出てこないとこくらい(ちと、強引か)。


でも、映画のなかにはアジアならではの独特の文化(宗教とか)の香りもする。

マンネリ気味のハリウッドに比べて、楽しみ方もいっぱいあるし、実際に観てる間も楽しいわけよ。


ちなみに上のチラシに、「インド映画歴代二位」って書いてあるけれど、じゃあ一位は何よ?っていうと、実はこのボリウッド4でのラインナップの一つである『きっと、うまくいく』なんだって。


つまりさ、全部観るしかないってことだわ。

私、頑張る。なんせ地元で観られるんだもんね。


ボリウッドってのは、ボンベイ(インド名ムンバイ)のハリウッドというところから来ています。


でもね、ラジニカーントで有名なタミル語で作られた映画は、実はタミル語を話す地域の中心地であるマドラス(インド名チェンナイ)制作なので、本来の意味ではボリウッド映画ではないんだよね。


インド映画には大きく、タミル語映画とヒンディー語映画とがあって、それが南北の勢力図を分けています。


それを日本では混同しちゃってラジニカーント『ムトゥ 踊るマハラジャ』のような代表的なタミル語映画をボリウッドと紹介している場合があるけれど、厳密には違います。


彫りの深い顔の人がたくさん出る映画がボリウッド。

本作の主演サルマーン・カーンというマッチョおじさんも、顔はほとんどシルベスター・スタローン。

しかも、サルマーンは『ランボー』を観てからマッチョにあこがれたって言うじゃない。

どうりで雰囲気が似ちゃうわけだ。たれ目なところもスタローン系のバター顔だね。


そして、どちらかというとあっさりした顔の人が出るのがタミル語映画。

ラジニはこっちの人なので、浅黒くて、あまりお鼻が高くない系統の顔です。


私もインドに滞在したことがあるのですが、北は彫りが深い欧米顔で、南は東洋系の顔ってのは、住んでみれば感じますよ。


けれど、最近はそんな気むずかしいことを考える必要もなくなってきました。


このブログでも紹介した『ロボット』はラジニカーント主演ですが、監督はかつて『ジーンズ』というボリウッド大作(日本でもヒット)を監督したボリウッド映画の人。そして、ヒロインのアイシュワリヤー・ラーイもそのジーンズで主演してたからボリウッド女優なのよ。


ロボットのチラシ再掲

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
日本ではあまりラジニをアピールしていない


懐かしいジーンズのチラシ
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
ナンチャンのおふざけ映画と同時上映だった


ロボットにはタミル語版はもちろんあるんだけれど、世界配給用に英語バージョンが作られていて、日本でもそっちが公開されたし、もともとのセリフのなかに現代映画らしく英語が相当混入しているから、南北の差なんて、最近はあんまり気にならなくなっちゃってるんだよね。


そして、今回のタイガーですよ。

これはもう、インド国内でのロケがほとんどありません。ほとんど海外ロケ。


オープニングから前半しばらくはアイルランド。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


中盤はトルコ。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


そしてクライマックスはキューバ。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


スゴイ!

世界各国でカーチェイスだの、街中でガンアクションなんてやっちゃってる。

カネはかかってるし、こんな危険な映画がロケを許可されるくらいだから、各国のフィルムコミッションも、インド映画の観客がどれだけ多くて、それが観光に繋がるかということをちゃんとわかってるんだね!


ストーリーについてですが、副題にもある伝説のスパイってのが全てを物語っています。

簡単に言えば、インド版ジェームズ・ボンド。


ただし、ボンド・ガールは敵国(パキスタン)のスパイで、二人は恋に落ちてしまい、インドとパキスタン両国から逃れて、逃避行をするというもの。


この逃避行のスケールがデカイ。

二人の愛のために、キューバを皮切りにいろんな国の警官を巻き込んで、逃げ切るためには、破壊の限りを尽くす。いやぁ、迷惑な愛です(笑)。それが面白いんだけれどね。

まぁ冷静に考えると、迷惑なことですわ。それでも、そんな迷惑をかけたからにはってオチもついていて、ちゃんと納得できるエンディングになっているところは上手いな、と思いました。


さぁて、こんな大作から始まったボリウッド4作の一挙公開。

どうなることか。


このあと、


『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


『命ある限り』

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


『きっと、うまくいく』

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

と続きます!

中国では2012年6月28日に公開され、日本ではひっそりとその年の10月のTIFF(東京国際映画祭)にあった「東京・中国映画週間」で上映されていた画皮2。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

ひっそりとしすぎで私は見逃した。知ってたらそのために駆けつけたのに。。。


同じ頃にはやっとこ日本でも『画皮 あやかしの恋』のパート1が公開されていて、私はそっちに気を取られてたんだよなぁ。

2008年に沖縄映画祭で上映され、その後四年間も塩漬けになっていた作品がやっと公開ってんで舞い上がってて、情報収集を怠ってたよ。


で、現在は画皮一作目のほうは、DVDも発売され、順調に売れているように見える。

映画そのものも一作目は評判がよかったみたいで、よそ様のレビューを見ても絶賛ざんまい。


とはいえ、二作目のほうは、TIFFでひっそりしていて話題にもなんなかったからか、日本ではまったく公開される気配がない。


とりあえず、TIFF「東京・中国映画週間」 サイトからあらすじを引用しておくね。

(赤字にした演者の名は私・龍虎が加筆しました)


 千年妖狐・小唯(ジョウ・シュン)は魔界の規律を破ったためその身に呪いを受け、さらには凍結地獄へ突き落され命の危機に瀕していた。

言い伝えによれば勇敢にして汚れのない、情熱に満ちた者の心臓を得ることで妖狐は人としての転生を果たせるという。

しかしその条件は、かの心臓を持つ者が自らの意志でそれを差し出すことであった。

凍結地獄から脱し、魔界からの逃亡の旅路で小唯は靖公主(ヴィッキー・チャオ)に出会い、彼女の心臓に目をつける。

靖公主は天性の美貌を兼ね備えた美しい女性だったがある日、狩りに行った際にクマに襲われその顔に傷を負ってしまう。

以来、金の仮面でその傷跡を覆い隠していた。

また靖公主の幼馴染であり白城を護衛する将軍・霍心(チェン・クン)は彼女を守れなかった責を問われ西域へ流罪となっていた。

その後、皇帝は靖公主を天狼の国へ嫁がせ縁戚を結ぶことを図る。

しかし彼女はそれを受け入れず城を出て自らの愛した霍心を探す旅に出ていたのだった。

 靖公主に対し小唯は折を見ては、男が惹かれるのはやはり女性の美しさであるとそそのかし、彼女の心臓を手に入れようと画策する。

そして靖公主は自らの心臓を差し出すことで小唯の体を手に入れる。

一方、彼女の体を使い転生を果たした小唯は天狼の国へ妃として赴く……。


読んでもらうと分かると思うけれど、内容はわかりやすかった前作よりもちょい複雑になっています。


それにしても、観たかった。

すごい観たかった。


・・・というわけで、海外DVDで観ましたよ。我慢できなかったんだもん。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

上の画像は、私が観た2Dバージョンじゃないけれど、こちらはブルーレイ版で3DバージョンのDVDパッケージ。

YESASIAで発売中。


で、さっそく感想です。


1作目を振り返ると、中国古典(聊斎志異)を題材とする典型的な悲恋もので、かつ藤原いくろう氏による可愛らしい音楽を添えて、最終的にはハッピーエンドであった後味のよい作品でした。

ドニー・イェンが出ているので、アクション映画としても観られたしね。


それに対して、2作目はポスターやDVDパッケージのおどろおどろしさから推測されるように、よりホラー度がたかまっております。

音楽は藤原いくろう氏ではなく、やはり日本人の石田勝範氏。

どよーんとしたトーンで統一します。


前作と比べて、恋愛の要素やカラミのシーン(レズシーンぽいのまであり)は多いのですが、それらも基本的には不気味。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


敵である天狼の国人も不気味。

漢民族ではないという設定なので、しゃべっているのは中国語ではない。

(ちなみに本当に民族の言葉を使っているかどうかは私には判別がつきません。勘だけどウソ語じゃないかしら)

というわけで、アクションもそっちのシーンもずっと不気味なトーンが続きます。

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


唯一、派手は画作りに貢献しているのは、冒頭でコンセプト・デザイナーとしてクレジットされた天野喜孝さんの衣装だね。

ヴィッキーの仮面とか鎧のキラキラはこの人の役割じゃないかな。アニメキャラのデザインを数多く手がけている人ならではの仕事でした。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


それで、問題となるストーリーなのですが、いかんせん複雑になっちゃっているな、と思う。

この物語のなかで、1作目と同じ役をやっているのは、ジョウ・シュンだけ。

つまり、狐の妖魔は前作からつながっているのですが、そこから500年後なので、当然、ヴィッキーやチェン・クンの役は前作とはつながってません。


で、狐の妖魔は前作の恋をひきずっているので、新たに恋をするでもなく、でもチェン・クン演じる将軍を誘惑しようとしたり、騙そうとしていたヴィッキー演じる公子に感情移入しちゃったりと、とかく一筋縄ではありません。


おまけに本作は画皮のタイトルの本領発揮で、女性陣二人が皮を張り替えて別人になるシーンまであるから、よく観ていないと訳がわからなくなるかもしれません。


結論ね。

日本で公開するのは難しいかもしれません。


第一に前作のトーンとは大幅に違います。天野さんのおかげで、画は美しいのです。

おまけに本作から3Dになったから余計にね。

でも、私のように2Dで観ると、CGのチープさが浮き上がっちゃいます。これは仕方がないのですが。


第二に前作を観ていないと狐の妖魔の複雑な心境が理解できないと思います。

最後の瞬間に改心するまで徹底的に悪かった前作の狐に比べ、本作の狐は中盤くらいから良い部分がちらついてしまいます。そこが2作目の物語としての深みでもあるのだけれど、前作を忘れていたり、観ていない人にはうまく感じ取れないような気がするのです。


私自身は、本作をとても面白く鑑賞しました。

それでも、本作にも前作のような可愛らしい部分があることを期待していた(もちろん、予告編を見てからは、それはないなって気づいたけれど)し、CGが増えすぎて、かえってチープに見えるところがあったことなど、がっかりしたところも少なからずあったことは否定しません。


しかし、全体としては佳作であることは間違いないです。

そもそも、前作が出来すぎていたのですよ。


それに、可愛らしい部分は、一作目と同じ監督、同じ聊斎志異が元ネタで、以前に本ブログの記事(『画壁 MURAL』を鑑賞 )にもした『画壁』(日本では、『チャイニーズ・フェアリー・ストーリー』のタイトルでDVD化済)に引き継がれているので、可愛らしいのが観たいという願望は、こちらを観れば満たされるしね。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


というわけで作品同様、レビューも複雑な書きぶりになっちゃった。

おそらく日本公開はない、と思いますので、見たい人は海外DVDを買うしかないと思うよ。

そのくらいするようなコアなファンの人なら、本作の複雑だけど佳作ってところを理解出来るはずです。



本年1月5日にシネマートで「冬の香港傑作映画祭り2012-2013」の一本として公開された『大魔術師Xのダブルトリック』。


本邦では全国公開はされず、はやくも4月12日にDVD化です。

私はすでに北京語版DVDを持っていたのに、日本版を予約して購入してしまった。

しかーし、届いたのが17日。なんだか予想よりも売れたみたいで、追加で仕入れていたみたい。

届くのが遅れたって香港映画推しの私としては、「あら、さすがトニー・レオン映画」なんて暖かいまなざし。

なんせ、日本でもっともっと中華明星が売れてくれれば、私もたくさん映画が観られて助かるわけで。

それにもうすでに観ているから、入手を焦っているわけでもないしね。


というわけで、日本でもようやく本格的に上陸しましたよ。

2012年正月映画として中華圏でヒットした『大魔術師 The Great Magician』(2011制作)。



ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
台湾公開時のポスター


この映画、私はある友人に観てもらいたくって、いてもたってもいられない。

なんせ、その友人、トニー・レオンのファンにしてマジックと武術をかじっているという不思議な人物。

この映画でトニーが演じる役どころも、マジシャンにして武術が出来る(といっても演舞のようなものだが)という役だからね。共通点がたくさんあるんですよね。

ええい、強制的に観てもらうことにしよ!


さて、すでに一年以上も前にレビューしたこの映画だけど、ウォン・カーウァイ監督作『グランドマスター(原題:一代宗師)』が5月31日から日本で公開され、主演のトニーが日本初の本格的格闘映画で観られるということもあって、トニー・レオン当たり年だから、再度DVD発売記念に記事にしたいと思います。


あと一ヶ月半でみられるグランドマスター
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
待ち遠しいぜ!


話を戻して『大魔術師』は、正月映画ってのがミソなんですね。


香港映画における正月映画というのは、いわゆるお金をかけた大作ではなく、<オールスター映画>が好まれるのです。

ストーリーで楽しませるというより、家族が安心して観られる物語を、たくさんの一流俳優が次から次へと登場することで盛り上げるという形ね。


かつて、日本でもジャッキー・チェンがちょっとしか出てこない『五福星』『大福星』『七福星』ってのが公開されたけれど、あれはジャッキーは顔出し程度ながら、香港じゃいずれも主役をはれるようなスターが、じゃんじゃか一つの映画に出ていた。

もちろん、日本人にはそんなことわからないので、「何だよ、この映画。ジャッキー主演と言っておきながら、最初と最後しか出てこないじゃん!」なんて大いにぶーたれられてたけれど、香港の正月映画ってのはそもそもそういう某日本の正月にやってる「隠し芸大会」的なノリで創られています。


ほんで、この映画もタイトルバックは、SFX満載の映画っぽいんだけれど、実際観てみると、明らかにオールスター出演の正月映画です。


だって、トニー登場までにタイトルバックからゆうに15分はかかる(!)のですが、その間にも有名人がそりゃもうたくさん登場するんです!


まずはジャッキー秘蔵っ子のダニエル・ウー

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
冒頭で登場して、もう終わり


それから、本作の監督イー・トンシン(デレク・イー)の異父兄であるチョン・プイ

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
後半でまた登場します


そして、トニーがお世話になる劇場主にはジョニー・トー映画の常連ラム・シュー

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
この人、途中でいなくなっちゃう


いよいよトニーが登場するころに、かつてのライバル俳優アレックス・フォン

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
最近情けない役ばかりやらされているような気がしますがここでも間抜けなちょい役。


ほんでトニーがようやく登場したあと、またしばらく姿が見えなくなりますが、そのあとも大物が出てくる。


手がフック船長になって悪ふざけが過ぎるご登場のご存じツイ・ハーク監督

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
共演者ラウ・チンワンの知り合い軍閥という設定で一瞬登場


ジャッキー映画『ゴージャス』監督でもあるヴィンセント・コクも軍閥の役

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
ま、日本では顔は知られてないね。やはり一瞬登場


とまぁ、最初の30分以内で相当の有名人が登場し、いわゆるカメオやちょい役出演をしてくれてます。

これが正月映画の最大の特徴。


劇中のおふざけもすごい。セルフパロディも正月映画につきもの。


たとえば、トニー・レオンには本作で、自らの「電眼」すなわち眼に惚れるファンが多いという点をパロったシーンがあります。

これは女性と恋愛をしたことがないラウ・チンワン演じる軍閥に、トニーが女性の口説き方を教えるときにでてきます。


こんな眼で見つめられたら誰だって・・・

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
(写真と本文は関係ありません)


ま、全体的な作品レビューはすでにしているので、ここでは正月映画ってことを強調しておくにとどめますね。


ちなみに、正月映画は香港の観客だったら大喜びする内容になってて、本作のように中国本土、台湾などで手広く公開される映画における正月映画のノリも、基本的にはひろく中華圏で喜ばれます。


純粋に映画の出来だけで勝負すると、正月映画は作品性そのものは高いわけではないのですが、ファンが喜びそうな要素は満載され、私などは香港映画マニアだから素直に喜ぶわけですよ。


だから、「大作だと思って観たのに~」とかムキにならず、香港人のように気軽にこの映画を観てほしいなって思います。


だって、トニー主演の大作は、五月末に本命『グランドマスター』が控えているんだからね!


ところで、昨年私は、「大魔術師」からトニー主演「五行伏妖」を予想する って記事を書いて、この映画の撮影中に相手役のジョウ・シュン姉さんが監督したという「五行伏妖」って映画に、おおいに期待するうんぬんってことを書いてたのですが、結果この話は大魔術師の宣伝のために話題作りに過ぎなかったみたい。


たしかに、ジョウ・シュンが大魔術師のなかの数シーンを使って勝手に編集したVTRがあるのは事実なんだけど、これについては予告編が作られて告知されたまま放置だったんだよね。


そのあと、中国のテレビに出演したジョウ・シュンにこの話を振っても、結局お茶を濁されるだけだった映像をみた。

香港映画通の間では、前述の予告編こそがイコール五行伏妖そのものって結論に落ち着いていることも把握しました。

私なんてまんまと話題作りにのっちまったよ!


まぁ、そういう遊び感覚も正月映画ってことで、本作を正月映画のなかではストーリー性も比較的高い作品として、そんな認識で鑑賞していただければ幸いです。

やっとこ地方でもアジア映画公開。

それも単館上映ではなく、他でもないジャッキー・チェン主演映画だからこそできた全国拡大ロードショー。


ロビーカード(中国本土用と思われる)
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

今回のジャッキー映画は文字通り鳴り物入りの作品といっていい。


映画館には「ラスト・ジャッキー」とか「ジャッキー最後の超大作」なんてデカデカとポスター文字が躍っていて、すわ、ジャッキー引退か!?なんて思っちゃうような脅かしよう。


もちろん、本格アクション映画から引退ということであって、映画は出続けるもんね。


んで、私はいまさっき気づいたんだけど、nicovideoでは本作公開を記念してカンフー映画を半月も連続公開していたとか。以下のバナーね。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

見逃したーと思ったけれど、今日は14日だから一日だけ見れるかな。いままでの人気作が放送されるらしいよ。



さて、本作に話を戻します。


本作の現代は「十二生肖」。英語題は「Chinese Zodiac」。

辞書をひいてみたらzodiacって、干支の十二支のことでなく、占星術における十二宮のことなんだとか。


話の内容は、19世紀に列強国が中国ほかアジア各地から略奪した財宝のひとつ、「十二生肖」という十二支をかたどったブロンズの像12個を、ジャッキー扮するアジアの鷹のチームがかき集めるっていうもの。


映画の中では、まさに蛇、羊、鼠、猿、などの十二支を集めている。


だから、獅子座とかの十二宮ではなかったね。西洋には十二支がないから、翻訳するときは十二宮になっちゃうんだろうか。


それはさておき、今回もまた邦題「ライジング・ドラゴン」も、またしてもドラゴンって付けりゃいいと思いやがって、などと突っ込みを入れようと思ってたんだけど、十二支のなかで竜の頭が最後まで見つからず、鍵になっているという点では、ドラゴンって名前が入っていてもいいかな、という感じ。


ただライジングのほうはどうよ?っていうと、よくわからない。


しかし、これも映画のなかに昇り龍的なアクションシーンが一応あるので、ぎりぎりOKって感じ。


そもそもアジアの鷹って主人公を演じるのは、実はジャッキーはこれが三回目で、21年ぶりに演じた役なんだけど、一作目の邦題がひどかったんだから。


一作目(1986年香港)

『サンダーアーム/龍兄虎弟』(原題:龍兄虎弟、英語題:The Armour of God)


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ




二作目(1991年香港)

『プロジェクト・イーグル』(原題:飛鷹計劃、英題:The Armour Of God II : Operation Condor)


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

そんで本作が2012年香港・中国制作。


一作目のサンダーアームなんて、意味がわからない。英語題のアーマーとアームは似てるけれど、稲妻(thunder)は?


二作目のほうは、原題に忠実ですね。しかし、英語のコンドルがイーグルになっちゃった。


とにかく、これらを加えて三部作になったというわけですな。


T2とかターミネーター三部作(だっけ?)みたいに、本作にはタイトルがロゴ化されたポスターもあって、まぁかっこいい。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

ところで、上のポスターにシャープのアクオスってあるけれど、これは何かしら?

エンドクレジットでは協賛に、いつもの三菱自動車の他、キヤノンはあったけれど、シャープあったかしら。


さて、肝心の内容です。


ジャッキーのアクションは、上のポスターみたいな、小道具を使ったものからはじまり、格闘バトル一つ、高所でのアクションが二種類と、けっこう盛りだくさん。


もう昔みたいにスタント使わないってことはないけれど、けっこう自分でこなしているのはわかるので、がんばってますよ。ファンとしてはうれしいんだけど、なんだか私はジャッキーが心配になっちゃったー。


そして、海外市場を意識して、配役がすごい!


まずは韓国からクォン・サンウ。

彼はジャッキーファンでもあるから、きっと涙して喜んだでしょうね。


ただ、寡黙な役。まぁ、そりゃそうだわね。以前にセシリア・チェンと一緒に香港映画には出たけれど、あれは吹き替えだし、広東語だし。


そうそう、本作は劇場公開が北京語でした。ジャッキーもちゃんと自分で北京語を発音していたよ。


それから、あとはちょい役(カメオ出演)なんだけれど、スー・チー、ダニエル・ウーが顔を出してた。

チェン・ボーリンはカメオよりはもう少ししゃべる役で出演。といっても合計して5分くらいか。


結論的にどうかって?

いやまぁ、これはある種の記念映画みたいなもんだと思うのよ。


私も今回、話そのものにはまったく期待してなかったよ。だけど、本作のエンディングでは、ジャッキー本人の涙のメッセージが出てくるし、ジャッキーの恩恵を受けたアジア各国の映画ファンは、けじめのように観るべき作品なんだと思うのよ。


私も小さな頃からジャッキー映画を観て育ったから、感慨深かった。

そういう映画ってことでいいのじゃないかな。


最後に、前作からのつながりなんだけど、これあんまりありません。


でも、サンダーアームとかで、ジャッキー扮するアジアの鷹がガムを二つ連続で口に投げ込むシーンがあったのを覚えている人もいると思うんだけど、本作でもジャッキーはそれを二カ所くらいでやってます。


暗に同一人物なんだってわかるようになっている。いやぁ懐かしい。(でもアラン・タムはどうしたのかしら?)


以上、今日はぐだぐだな記事ですいません。映画はぐだぐだでなく、ちゃんとした大作ですから!

大阪アジアン映画祭から一ヶ月が経ってしまったけれど、わが地元ではアジア映画が公開されず、すっかり更新が滞ってしまった。


ただまぁ新しい映画を観てない分、アジアン映画祭の怒濤の二泊三日の記憶はまだ鮮明に網膜裏に焼き付いているので、観た八本の中でももっとも反芻することが多かった『GF*BF』について、頭を整理しておきたい。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

アジアンで観た映画はどれも私にとってすばらしかった。

遠くから航空券買ってまで見に行った甲斐があったと思わせてくれた。

とはいえ、余韻を残したという意味では本作『GF*BF』が一番だった。


ただ私はそんなに期待して観たわけではなかった。

アジアンによる映画紹介はごく簡単なもので、ありがちな青春ドラマかと思っていた。

主演女優のグイ・ルンメイが好きなので、それで観たと言っても良かった。


大阪アジアン映画祭の映画紹介は以下のような至って簡単なもの(以下アジアン公式から引用)。


1985年、戒厳令下の台湾。男子2人&女子1人の仲良し高校生は発禁本を売るなど、イタズラばかり。

やがてそれぞれに恋愛感情を抱くようになるが……。

2012年までの27年間にわたる3人の友情と切ない三角関係を、台湾社会の移り変わりを背景に綴るドラマ。

主役3名全員が今年度のアジア映画賞にノミネート、なかでも第49回台湾金馬奨最優秀女優賞のグイ・ルンメイの演技が光る。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

この紹介文からはそんなにドラマチックなものを感じられない。

ところが、それが良い意味で予想を裏切られた。


グイ・ルンメイ(桂綸鎂)
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ジョセフ・チャン(張孝全)

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リディアン・ヴォーン(鳳小岳)

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1. 政治的背景


戒厳令下の台湾で、主人公らは学生運動をやっているのだ。

今の台湾イメージからは考えにくいかもしれないが、台湾は1992年にやっと民主化した国(地域)だ。

戒厳令は1947年の二・二八事件から約40年後の1987年まで続いた。


なお、この二・二八事件を描いた有名な映画が、ホウ・シャオシェン監督でトニー・レオンが助演した『悲情城市』だ。


映画『悲情城市』より。右男性がトニー・レオン。
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映画を観た方はわかるであろうが、中国国民党が台湾に逃れてきた1947年に、中国本土の対共産党という名目と、台湾の中華民国内の支配体制を強固なものにするため、言論弾圧を含む強権支配が行われたというものだ。

悲情城市のなかでは、強圧的な態度の国民党軍が台湾に逃れてきたあたりが、終戦までいた日本人の紳士的な態度と対比される形で、ある種の鮮烈な印象をもって描かれている。台湾から自由が一時的に消えたのである。


GF*BFに話をもどす。

アジアンの紹介文には「発禁本を売るなど、イタズラばかり」などと書かれてあるが、まったくそんな甘いものではない。ここで主人公らが扱っていたのは、政治的な意図(民主主義思想)をもった地下雑誌であって、それを売っていたことが発覚すれば政治犯や思想犯にされかねない危険性のあるものだ。


確かに劇中はそんな悲壮感はなく、まるでエロ本でも売っているかのように、高校生の悪戯のような感じで発禁本販売のシーンが扱われているけれど、背景にはこんな深刻な問題があったことは知っておいたほうがこの映画を楽しめる。


夜市で発禁本を売るシーン。
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

そして、彼らが大学に進学したころのシーンでは、彼らも参加する学生運動の動きが頂点に達しているが、それはちょうど、五一九緑色運動の高まりを受けて、蒋介石の後を継いだ蒋経国が1987年7月に戒厳令を解除するあたりを描いている。



ヒッピー風衣装の主役三人。
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このような時代背景で彼らが青春を燃やしたのが映画前半部であり、その後の民主化された台湾の著しい経済発展の時代に生きる彼らを追ったのが映画後半部なのである


2. 同性愛と友情


政治的背景とともに、前もって理解しておいたほうがよいのが、この映画は男女三人の三角関係を普通に描いた作品ではないということだ。

男二人のうち、一人は同性愛者だ。彼らを取り巻く友人たちにもいわゆる「オカマ」が登場する。

しかし、三人組の一人はそうしたわかりやすい同性愛者ではなく、表面的には至って普通の青年同性愛者すなわちゲイだ。


同性愛という設定は、台湾映画では一定のジャンルになっているようなところがあり、ハリウッドに進出して有名になったアン・リー監督も好んで扱っている題材だ。

実際、観客がそういうテーマを求めていてニーズがある、という業界人の話もある。


アン・リーの初期作品『ウェディングバンケット』も同性愛がテーマ。
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


GF*BFの監督ヤン・ヤーチェも、このような顧客の嗜好に合わせ、主役三人組の性格造形を試みたかもしれない。

しかし、結果的にそれは成功したと思う。

物語を見終わった後、観客の多くは、男女の間にも友情が発生することがありえると、大げさだが人間としての可能性を感じたのではないだろうか。


しかし、その友情はとても複雑で、この物語のなかでは完全な友情とも言い切れなくて、そこに悲しみも愛しさも感じてしまう。

そこがこの物語の魅力になっているのだと思う。


物語の冒頭部のとあるシーン。

ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

三人の恋愛については、アジアンの紹介文では、「やがてそれぞれに恋愛感情を抱くようになるが」などとぼかして書かれている。

この文面からは設定に同性愛が混入しているとは思わないだろう。

私もそうだった。


しかし、この物語の最大の魅力だと思うので、ネタバレにならない程度にもう少し紹介してもよいような気がする。

ただ、私自身はそのような前知識がなかった分、主人公三人のうち二人の中に、なぜこのような美しい形の友情が芽生えるのか、とても気になって観ていた。

そして、その友情の背後にあるものを知ったとき、映画の感動が倍になった。


物語のクライマックスのとあるシーン。
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ


ということは、ここでアレコレ書かないほうがいいということか。

OK、書かないことにします。


だから、日本の配給会社よ、この映画を絶対に日本でも公開して多くの人に観てもらえるよう、がんばってほしい。


(今日はいつになくかしこまった書き方をしてみました~)